086 新仕様の徘徊者戦①

 晩ご飯になると、案の定、涼子は美咲の手料理に興奮した。

 今までの人生で最も美味いと大絶賛。

 胃袋が破裂しないか心配になるくらい食べていた。


 その後は仮眠を挟み、徘徊者戦を迎えようとしていた――。


「とりあえず普通に戦ってみて、厳しそうならトラックで撤退だ」


 城門を出てすぐの草原で説明を行う。

 今回はどうなるか分からないので全員参加だ。


 俺達の背後にはレンタルトラックが置いてある。

 コンテナのない平ボディで、荷台には非戦闘系のペットたち。

 敵の強さが想定以上だった際に備えておく。


「防壁がないのは不安だね」と麻衣。


「しかも敵が強化されたらしいからな」


 最初の1時間は防壁がない状態だ。

 その間をどうやって耐えるかが今回の焦点になる。


 念の為、俺達のいない三方の門は閉じておいた。

 それで防げるといいが……。


「漆田少年、スキルの使用タイミングは自由で大丈夫かい?」


 涼子は戦いたくてうずうずしている様子。


「ああ、自由でいいよ。使用感が不明だし、下手に縛るより各々で判断するほうがいいと思う」


「はいよーっ!」


「涼子、薙刀は出さないの? 持っているんだよね?」


 由香里は弓を持ち、直ちに戦闘できる状態だ。


「おー、クラス武器と普通の武器を組み合わせるのか! 由香里は賢いなぁ! では私も薙刀……いや、今回はこれで戦おう!」


 涼子はクロスボウを召喚した。

 〈ショップ〉で売られている物とはデザインが異なっている。

 気になったので尋ねてみよう。


「そのクロスボウ、自分で作ったの?」


「うむ! カッコイイだろう?」


「大したもんだ」


「ふふふ、お姉さんは器用なのさ」


 俺は腰の右側に差している普通の刀を抜いた。


 戦闘開始まで残り数分。

 フリーの右手でスマホを操作する。

 ニュースサイトで里奈の情報を調べた。


「里奈の帰還は相変わらず話題だな」


「明後日くらいまで盛り上がってそうだねー」と麻衣。


「それでこそ我が友! お姉さんも誇らしいぜぃ!」


 里奈は今、場所を移して警察の聴取を受けているそうだ。

 現在地は公表されていない。

 警察関係者の話として証言の一部が紹介されていた。

 謎の島で過ごしていたというもので、珍しく正しい内容だ。


「里奈じゃなくて涼子が帰還していたらどうなっていただろうな」


 笑いながら言う。

 マスコミに囲まれる涼子の姿は想像できなかった。


「お姉さんなら警察関係者がメロメロになって話が進まないだろう」


「自分で言うか」


「何たってニーハイだからな! 見よこの食い込み! そそるだろ?」


「そのセリフ何度目だ」と苦笑い。


 涼子はとにかくニーハイを推していた。

 脚が細く見えるし、チラリと見える太ももがセクシー。

 そして何より太ももに食い込むところがそそられる。

 ――というのが、彼女の言い分だった。


「たしかに悪くないとは思うけど……」


 俺は「それよりも」と話題を変える。


「始まるぜ、新仕様の徘徊者戦が」


 一気に緊張感が増す。


「タロウ、頑張るっすよ」


「ブゥ!」


 時刻が2時00分になった。

 コクーンのアイコンが真っ赤に染まる。

 頬を撫でる風が冷たいものに変わった。

 草原がざわつく。


「――来るぞ!」


「「「「グォオオオオオオオオオ!」」」」


 徘徊者の群れが突っ込んできた。

 ここまでは今までと変わらない。


「防壁がないから背後にも警戒しろよ」


 一斉にクラス武器を召喚。


「突撃だ!」


 俺は両腕を後ろに伸ばし、忍者のような格好で走る。


「タロウ、GO!」


「風斗を守って」


 タロウとロボが俺の両隣を駆け抜けていく。


 ロボは両腕の外側にブレードを生やしていた。

 サブスキルで武装できると言っていたからそれだろう。


「一番槍はタロウっすよー! くらえー! 〈ライノストライク〉!」


「ブゥ!」


 タロウの体が輝き出す。

 速度がさらに高まり、勢いをそのままに敵軍へ突進。


「「グォオオ!」」


 タロウのタックルで蹴散らされる徘徊者の群れ。

 辛うじて直撃を免れた敵が側面からタロウに襲いかかる。

 しかしタロウの纏う光のオーラが攻撃を弾いた。


「〈ライノストライク〉は攻防一体のメインスキルっすよ! ただでさえ強いタロウがますます強くなる! 今のタロウは無敵っす!」


「ブゥ!」


「私だって負けていないよ」


 一足遅れてロボが敵と衝突。

 その瞬間、両腕を横に伸ばして独楽コマのように回転し始めた。

 腕から伸びているブレードが徘徊者を刻んでいく。

 こちらも強力だ。


「なんだその攻撃! メインスキルか?」


「うん、〈ロボストーム〉って言うの。1分間の回転攻撃で、CTクールタイムは5分」


「おお、それは頼もしいスキ――」


「キェエエエエエエエエエエック!」


 話している最中のことだった。

 人型の徘徊者が弧を描くようにして飛んできたのだ。

 敵軍の後方にバリスタ兵が控えているのだろう。

 今までと違うパターンの攻撃で完全に意表を突かれた。


「やべっ!」


 足を止めて対応を試みる。

 慌てて刀を振って間に合うかどうか。

 おそらく厳しい。

 負傷を覚悟する――が、問題なかった。


「風斗、危ない」


「任せろ漆田少年!」


「キェェ……」


 2本の矢が敵を貫いた。

 由香里と涼子だ。


「キェ! キェェェ……!」


 攻撃を受けた徘徊者が目の前でのたうち回っている。


「2発も射られて即死じゃないのかよ」


 思っていた以上に耐久度が上がっている。


「これならどうだ」


 俺は普通の刀で斬りつけた。

 しかし刃が途中で止まってしまう。

 軽く撫でる程度の力では駄目のようだ。

 今までなら豆腐の如くサクッと斬れたというのに。


「ふん!」


 切っ先を顔面に突き刺して息の根を止めた。


「こりゃ二刀流は難しいな」


 クラス武器の一刀流に切り替える。


「私のことも忘れないでよー!」


 後方から麻衣がアサルトライフルをぶっ放す。

 弾丸は的確に徘徊者を捉えていたが、1体を倒すのに数発も要した。


「よし麻衣、メインスキルで一掃してやれ!」


「任せて! ……って言いたいけど、私のスキルはコレなのよね」


 振り返ると、麻衣の前方に扇状のシールドが設置されていた。

 半透明で横幅がそれなりにある大型のものだ。


「そのシールドがメインスキルなのか?」


「そう! 〈ガンナーフォートレス〉っていうの! 徘徊者の攻撃を防ぐんだけど、こっちからの攻撃はスルーなんだって。だから安全に戦える!」


「便利だな」


「そう思ったんだけど、微妙だった! 風斗やタロウが前にいるから私のほうまで敵がこないんだよね」


「たしかに」


「てなわけで、今回は通常攻撃だけで頑張る!」


「サブスキルは?」


「装弾数を2倍にするやつ! CTとかなくて常時発動するタイプ!」


「1マガジンで60発撃てるようになったのか」


「うん! これは便利そう!」


 俺は「だな」と頷き、再び敵に突っ込む。


「高い攻撃力とやらに期待するぜ――せいやっ!」


 適当な徘徊者に斬りかかる。


 サクッ。


 これまでに近い感触で仕留められた。

 喩えるなら煮込みまくったハンバーグ程度の柔らかさ。


「おお……! 思ったより強いな」


 攻撃力の高さが売りなだけある。


「これならどうにかやっていけそうだな」


 使うか悩んでいたサブスキル〈挑発〉を使用。

 これは周囲の敵を引き付けるというスキルだ。


 俺の足下から白い波動が広がっていく。

 それに触れた敵は一瞬固まった後、俺に突っ込んできた。


「燈花、由香里、まとめて倒してやれ!」


「「了解!」」


 タロウとロボに指示を出す二人。

 そこへ涼子が乱入してきた。


「でかしたぞ漆田少年!」


 涼子は俺の近くまで走ってくると、片膝を突いてロケランを構える。

 その照準は明らかに俺を捉えていた。


「ちょ、涼子、まさか――」


「大丈夫、味方に当たっても死なない仕様なのだ!」


 躊躇なく引き金を引く涼子。

 こちらを向いたロケランから光の砲弾が放たれる。

 砲弾のサイズがどう見ても砲口より大きい。


「これがお姉さんの必殺技! その名も〈ドッカンバズーカ〉!」


「おま――……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る