084 小野崎涼子
朱色の髪をした女子は、こちらに気づくと笑顔で手を振ってきた。
「君が漆田少年だね!?」
それが彼女の第一声だった。
少年扱いされるほどの年の差は感じない。
教師にも見えないし、三年生と見て間違いないだろう。
「たしかに俺が漆田だけど、そっちは?」
マウンテンバイクから下りる俺と燈花。
「こりゃ失礼、自己紹介が遅れたね。私は三年の
「は、はぁ……」
燈花と同じく陽気なタイプというのが第一印象。
その燈花はというと、ニコニコ顔で涼子を眺めていた。
「涼子、めっちゃいい体型っすねー! 細身で巨乳とかズルすぎっす!」
たしかに涼子の胸は大きい。
美咲にはギリギリ敵わないまでも十分な巨乳だ。
「お、分かってるね、お嬢さん! よかったら名前を教えてくれるかい?」
「燈花! 牛塚燈花っす!」
「オーケー、覚えた!」
涼子と燈花は早くも意気投合している様子。
この二人は止めなかったら延々と話していそうだ。
「それで、涼子さん――」
「呼び捨てかお姉さんで!」
「じゃ、じゃあ、涼子は――」
「いきなり呼び捨てで来ちゃう? 漆田少年はわりと攻めるねぇ!」
「……話を続けていいかな?」
「こりゃ失礼!」と自らの額を叩く涼子。
俺は苦笑いでため息をついてから話した。
「それで、涼子は何の用なの?」
「単刀直入にズバッと言おう!」
「私らのギルドに入りたいわけっすね?」
「正解! 一緒に世界を変えてやろうぜぃ!」
「なるほど、加入希望か」
「いぇあ!」
「ギルドメンバーと相談するから待ってもらえるかな?」
「ほい!」
涼子は燈花に近づき、こちらを見ながら小さな声で尋ねる。
「漆田少年、暗くないかい? いつもこんな感じ?」
「暗いというより真面目なんすよ、風斗は」
「たしかにグルチャでもそんな雰囲気だったなぁ」
俺は「聞こえているぞ」と言いながらスマホを操作する。
ギルド用のグループチャットで涼子のことを話した。
まずは加入希望の旨を伝えず、涼子の情報を求める。
同学年の由香里が知っていた。
『小野崎さんとは二年の時に同じクラスだった。誰とでも話せる人で、私も何度か話したことある。宍戸さんといつも一緒だったよ』
宍戸さんとは里奈のことだ。
もしかしたら謎に包まれた里奈のことが分かるかもしれない。
その点も含めて、涼子には色々と訊きたいことがあった。
『その小野崎涼子がギルドに入りたがってるけど皆はどう思う?』
燈花を除く三人から即座に返信が届く。
三人とも俺に任せるという内容だった。
「ギルドに入りたいってことだけど」
「お、結果が出たかい?」
「その前にいくつか質問させてほしい。回答に納得できたら加入を認めるということでいいかな?」
「もち! 漆田少年はお姉さんに何を訊きたい?」
笑顔の涼子。
その瞳は真っ直ぐに俺の目を見ていた。
「まずはどうして一人なのか教えてくれ。今までずっと一人だった……というわけではないはずだ」
「そうだねー、数時間前までは二人だったよ。相方は今話題の宍戸里奈ね!」
「ほう」
里奈と一緒だったのは想定通り。
ただ、二人きりだというのには驚いた。
「私と里奈は元々15人くらいのギルドにいたんだけど、平和ウィークの最中に他所のギルドと統合することになってね」
「ほう」
「でも統合先がなんか残念な感じでギスっちゃってさ、私や里奈、他にも何人かはすぐに抜けたの。で、私と里奈は二人で増田先生のギルドに行こうとしていたの」
「向かっている最中にギルドクエストが発生したわけか」
「そうそう! 受けたからにはクリアしたいでしょ? だからちょっと頑張ってクリアしちゃいましたってわけですよ」
「すごいっす!」と鼻息を荒くする燈花。
涼子は「ほっほっほ」とドヤ顔で笑う。
「クエストをクリアしたから里奈は日本に戻り、涼子は一人になったと」
「いぇあ!」
「話の筋は通っているが、それなら今頃は〈サイエンス〉に入っているんじゃ?」
「いやー、なんかギスっているでしょ。だからちょっとお姉さんには合わないなーと思いましてね」
「なるほど。ここに俺達がいることはどうして知っているんだ?」
城の座標は誰にも教えていない。
グループチャットでは未だに洞窟で過ごしていると思われている。
「もちろん知らなかったよ!」
「知らなかった?」
「今の私って拠点がないからさ、とりあえず拠点が欲しいと思ったの。城のことは平和ウィークの時に見つけていたから知っていたし、距離的にも近いからちょうどいいなって」
「で、クエストを受けに来たら俺達の物になっていたと」
「びっくりしたよねー、『この拠点は〈風斗チーム〉が所有しています』とか出るんだもん!」
俺は適当な相槌で流した。
(嘘を言っている風には見えないな)
素行に問題があるタイプには見えない。
同じクラスだった由香里が反対していない点も安心できる。
「最後にもう一つだけいいかな?」
「スリーサイズを知りたいなら上から――」
「違う、ギルドクエストの話を聞かせてほしいんだ」
「と言いますと!?」
「第1ミッションはエリアボスの討伐で、第2ミッションは一人当たり50万、二人なら100万ポイントを稼ぐ必要があったはずだ」
「だねー」
「どちらも結構な難易度だと思うがどうやってクリアしたの? 特に第1ミッションは厳しかったはず」
「むしろ第1ミッションは楽勝だったよ。私らの相手は巨大なイモムシだったんだけど、こいつが間抜けでさー! 穴に嵌めたら身動きが取れなくなったんだよね。後は上からペチペチ攻撃しただけ! お姉さんの頭脳勝ちだ!」
「運が良かったわけか」
「そうとも言う!」
「じゃあ第2ミッションは?」
「魔物を狩りまくった! ここからチャリで二時間くらいのところにあるよ、魔物がたくさん出る野原!」
その場所のことは俺達も把握していた。
ギルドクエストを受ける際に車で通りがかったからだ。
「それなら納得できるな」
「ちなみに最終ミッションはじゃんけんで決めましたよお兄さん!」
「よくじゃんけんで納得できたな」
「二人きりだったしね。それに私、超ポジティブだから! この大きなおっぱいには夢とロマンとポジティブ精神が詰まっている!」
「は、はぁ……」
まぁ胸が大きいのはいいことだ。
「質問は以上だよね? 結果はどうだい? もしダメでも今日の夜は城で過ごさせてもらえたらお姉さん嬉しいかも! 徘徊者が強くなったってことで不安だから!」
「安心してくれ、結果は採用だ」
「本当に? ありがとー! 漆田少年は見る目があるね! ヨッ、色男!」
「そりゃどうも。一応言っておくが、ウチでは俺が作業内容を決めている。ギルドに入る以上、可能な限りの協力はお願いしたい」
「当然! なんだって漆田少年の言う通りにするよ! 脱げと言われれば服も脱ぐ!」
「それは非常に魅力的な……いや、そうじゃなくて」
俺は咳払いをする。
「では、ギルドに歓迎しよう」
「よろしくね!」
涼子と握手を交わす。
こうして、小野崎涼子がギルドメンバーに加わった。
「それではお待ちかねの名刺交換ターイム!」
「名刺交換?」
首を傾げる俺と燈花。
「ビジネスの基本だよお兄さん!」
涼子はスマホを渡してきた。
画面にはステータスが表示されている。
名刺交換とは互いのステータスを見せ合うことのようだ。
ということで、俺も彼女にスマホを渡した。
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【名 前】小野崎 涼子
【クラス】
・レベル:13
・武 器:ロケットランチャー
【スキル】
・狩人:10
・漁師:13
・細工師:11
・戦士:8
・料理人:4
・栽培者:1
・調教師:1
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涼子のステータスは総じて低かった。
おそらく他所のギルド基準で見てもやや低い部類に入る。
「わお! 漆田少年のレベルたっか!」
「風斗より私のほうが高いっすよー! クラスレベルはなんと30以上!」
「うっそぉ!? 燈花そんなに凄いの!?」
「風斗はウチだと低いほうっすからねー!」
燈花のスマホを見た涼子は、「うひゃあ」と仰け反った。
「涼子は【漁師】と【細工師】が高めだが、これは……」
「漆田少年が考案したペットボトルトラップさ!」
「やっぱりそうか」
「ちなみに【調教師】はウシの乳搾りを手伝ったら上がったよ!」
「ふむ」
俺は彼女のクラス武器に注目した。
ロケットランチャーはウチとの相性が悪そうだ。
ただ、クラススキル次第でどうなるか分からない。
問題がありそうなら通常武器も持たせよう。
「涼子の加入手続きが終わったことだし中に入ろーよー、風斗ぉ」
燈花が服の袖を引っ張ってきた。
俺は「そうだな」と頷き、三人で門をくぐる。
「あ、そうそう」
涼子が足を止めた。
「漆田少年、このネタは知っているかい?」
「ん?」
涼子は武器を召喚した。
テニス用のグリップテープが巻かれた既製品の薙刀だ。
「既製品でもこうしてちょっと手を加えると製作物扱いになるから、【細工師】の効果で収納・召喚ができるのよ!」
「ああ、そのネタなら知ってるぞ。グリップテープどころかシールを1枚貼るだけでもいけるよ。俺はそうやって刀を持ち運んでいるし」
「なんですと!?」
「ただ、その小技は何にでも使えるわけじゃない。というか大半の物には使えないよ、どういう基準で決まっているのかは分からないけどね」
「そうなの!? 流石は漆田少年、私より詳しいとは!」
「その小技をグループチャットで共有したのは俺だしな」
「グルチャで言っていたの!? 私、あんまりグルチャを見ないからさぁ、気づかなかったよ!」
「分かるっす! 私もあんまり見ないもん!」
「だよねー! グルチャよりネットのほうが面白いし!」
「涼子はネット派っすか? 私はテレビ派っすよー!」
「やややっ、今時テレビとは珍しい! どんな番組を観るのだい?」
「えっとぉ」
城に入るまでの間、二人はずっと喋り続けていた。
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