第六章:クラス

081 運命の12時

『失踪から約三週間、いよいよ事件に進展がありそうです』


『宍戸さんは失踪前と異なる格好をしていたことから、警察は何者かに拉致されていたと見て慎重に捜査を進めています』


 テレビでは全てのチャンネルで俺達の集団失踪事件を取り上げていた。

 局によっては専用の特集まで作って大々的に扱っている。

 里奈が帰還してから1時間半しか経っていないのに大したものだ。

 ネットでも久しぶりに俺達の話がトレンドを埋め尽くしていた。


 様々な憶測が飛び交い、まるで祭りの如く盛り上がる外野の連中。

 昔は辟易としたものだが、今ではそれが懐かしくて嬉しかった。


 里奈の帰還で盛り上がるのは俺達も同じだ。

 特に麻衣は、食堂に設置したテレビの前から動かなかった。

 ソファのど真ん中に陣取って里奈のニュースを凝視している。


「麻衣も帰還していたら人気者になれるっすよー?」


 麻衣の隣にいる燈花がニヤニヤしながら茶化した。


「に、人気者になれるとか、そんなこと思っていないし!」


「えー、本当っすかー? 本当に本当っすかぁ?」


「それは……ちょっとは思うけどね」


 なはは、と笑う燈花。


「だって仕方ないじゃない! あれだけ注目されている里奈を観たらどうしても思っちゃうよ!」


「フォロワー急増インフルエンサー復活待ったなしって?」


「そう! その通り! この島に来るまで数字のことしか考えていなかったし、どうしてもその頃の癖が残っているの!」


 数字とはフォロワー数のことだろう。


「じゃあ戻っちゃうっすか?」


 急に真剣な表情で尋ねる燈花。

 いつも笑っているので妙な威圧感があった。

 モニター越しに美咲と由香里も麻衣を見つめている。

 ダイニングテーブルでコロクと遊んでいる俺も固まった。


「戻らないよ」


 麻衣は即答だった。

 それからこう続ける。


「燈花や風斗、美咲に由香里、もちろんウシ君や他の動物も、みんな私の仲間だもん。人生で初めての仲間。だから絶対に裏切らない。帰る時は全員で一緒って決めているから」


「人生で初めて?」とニヤける燈花。


「じゃあ両親は仲間じゃないんすか、とか言ったらぶん殴るからね?」


「たはー! バレていたっすかぁ!」


「バレバレだっての!」


 二人のやり取りに頬を緩めつつ、俺は時間を確認。

 いよいよ運命の12時になろうとしていた。

 厨房にいた美咲と由香里が食堂にやってくる。


「皆、始まるぞ」


 見計らったかのように12時となり、全員のスマホが一斉に鳴った。

 俺達は自分のスマホに目を向ける。

 専用の画面が表示され、短い一文が書かれていた。


『クラス武器を決めて下さい』


 その下には赤字で『※決定後の変更は認められません』とも。

 使用するクラス武器の最終決定を下す時間だ。


「私は長杖ロツドにしました」


「ロボにした」


 美咲と由香里が言う。


「もちろん私は指揮棒タクトっす!」と燈花。


「私はやっぱりアサルトライフルかなぁ」


 麻衣も武器を決定。

 残すは俺だけだ。


(本当に刀でいいのだろうか)


 今でも俺は悩んでいた。


 試用期間中の使用感だと刀は微妙だった。

 〈ショップ〉で買える物と大差なかったから。

 アサルトライフルが攻守最強に感じる。


 それでも刀を選ぼうとしているのは説明文のせいだ。

 攻撃力というワードの違和感が拭いきれずに引っかかっている。


 前にそのことを麻衣に話した。

 彼女の返事は「対ゼネラル用の表記では?」というもの。

 ゼネラルは攻撃を当てても即死しないから攻撃力が重要になる、と。

 筋は通っているが、本当にそうなのかは分からない。

 俺は違うと思っていた。


(直感を信じるか)


 迷いまくった末に刀を選択。

 決定する瞬間も迷っていたが、もう変更できない。


「風斗、正解だったね」


 そう言って、麻衣は俺の隣に座った。


「正解って?」


「スマホを見れば分かるよ」


 言われた通りに目を向けると、新たな画面が表示されていた。

 今度は長々とした説明文が書かれている。


 タイトルは――徘徊者戦の仕様変更について。


 次の徘徊者戦からルールが変わるらしい。

 主な変更点は三つ。


 一つ目は徘徊者の大幅な強化。

 戦闘能力が向上し、容易には倒せなくなるそうだ。


「容易には倒せない、か」


「風斗が懸念していた通り防御力が備わりそうだね」


「だな」


 クラス武器の説明にあった「攻撃力」という単語。

 そこから俺は徘徊者の強化があるのではないかと睨んでいた。

 自信はなかったが当たっていたようだ。


 だからといって、刀を選んだのが正解かどうかは別の話。

 それが分かるのは次の徘徊者戦だ。


 二つ目の変更点は防壁の仕様。

 この拠点だけでなく、全ての防壁が強化不可能になった。

 さらにステータスは初期状態にリセットされ、拠点の種類ごとに統一。

 そして、午前2時から3時までの1時間は防壁が消えるようになった。


「ヤバいな、この変更……」


「防壁が消えたらフリーパスじゃん!」


 俺達の拠点は四方に出入口が存在する。

 その内、俺達が防衛に当たれるのは一方向のみ。

 残り三方は機械弓兵に任せきりだった。


「絶体絶命じゃん!」


「やばいっすねー!」


 悲壮感いっぱいの麻衣と楽観的な燈花。


「ま、なるようになるさ。ゼネラルを倒せば終わるようだし」


 三つ目の変更点は勝利条件の追加。

 4時まで耐え抜いたら終わるという点は今まで通り。

 それとは別に、最寄りのゼネラルを倒すと即時終了するらしい。

 ゼネラルを倒した場合は次回と次々回の徘徊者戦がないそうだ。

 説明文の下には、赤字で「※ゼネラルが担当する拠点に限る」と書いていた。


「ゼネラルが担当する拠点ってどゆこと?」


「各拠点の近くに1体ずつ出現するようになるのだろう、ゼネラルが」


「えええええ、マジで!?」


「そう考えないと『最寄りのゼネラル』という文の意味が通らなくなる」


「たしかに」


 踏み倒しアニマル大作戦でようやく勝てたゼネラルタイプ。

 それが当たり前のようにまた現れるという。

 生と死の狭間で辛くも手に入れた勝利は何だったのか。

 そんなことを思ったが、過ぎたことなので気にしなかった。


「ゼネラルの強さが前と変わりないなら、勝利報酬の平和数日分なんて割に合わない。基本的には無視して今まで通り4時まで耐え抜く方針でいいだろう」


「徘徊者の強化具合による感じっすかねー」


「だな。とりあえず次の徘徊者戦は注意して臨もう。ヤバそうなら破産しない範囲で動物を大量購入するなりして乗り切ればいい」


「徘徊者戦の最中に〈ショップ〉って使えたっけ?」と麻衣。


「大丈夫だよ。無理なのは防壁の強化だ」


「あーね」


 防壁の仕様変更は不安だが、あとは概ね問題ないだろう。

 徘徊者の強さ次第で対応を考えていくということで話がまとまった。


「これで説明は終わりだな」


 画面最下部の閉じるボタンをタップ。

 徘徊者戦に関する説明画面は閉じて、ようやく今日の活動に。

 と思いきや、またしても何やら表示された。


「これは……!」


 記載されている文章を読んだ俺達は衝撃を受けた。

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