075 罠師と麻衣ロボット

 暗闇が世界を支配する時間帯。

 俺達は城門のすぐ外に突っ立っていた。

 ぬるい風に頬を撫でられながら、午前2時になるのを待つ。


「私らだけだよね、クラス武器のこと真面目に考えているのって」


 麻衣がスマホを弄りながら話しかけてくる。


「他にもいるだろ。例えばミッションに脱落したギルドとか」


「訂正! ミッションをクリアしたギルドの中だと私らだけだよね」


「まぁな。といっても、俺達以外に第2ミッションを突破したギルドは一つしかいないようだが」


 生徒20人からなる無名のギルド――。

 それが、俺達に次ぐ第2ミッションの攻略チームだった。


 この無名のギルド、特筆するほど優れていたわけではない。

 ただ、20人という数があまりにも絶妙だった。


 20人の場合、ミッションで求められる額は1000万。

 これはエリアボス2~4体で賄える額だ。

 実際、彼らは3体のボスを倒すことでクリアした。

 ボス対策はバリスタの一斉射撃のみ。


「残っているのは〈サイエンス〉と〈スポ軍〉と……どこだっけ?」


 麻衣が尋ねてくる。


「〈アローテール〉だな、矢尾のギルド」


「あー! そうだった!」


「あと何か50人くらいのギルドも残ってるっすよ!」と燈花。


 残っているギルドはどこも苦戦していた。

 今この時も何かしらで必死にポイントを稼いでいる。


「ま、他所のことはどうでもいいさ」


 俺はスマホで時間を確認し、「集中しろよ」と声を掛ける。


「始まるぜ」


 そう言った次の瞬間、午前2時00分になった。

 いつもの如く徘徊者の群れが突っ込んでくる。


 数は凄まじいが焦りはしなかった。

 俺達のいる場所は機械弓兵の射程圏内だからだ。

 徘徊者の攻撃が及ぶことはない。


「お披露目の時間だ!」


 俺達はクラス武器を召喚した。

 今回、俺が使うのはタブレット端末だ。


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【名前】タブレット

【説明】

端末を操作して様々な罠を設置することができる。

罠には殺傷能力がないため、敵を倒すには別の手段が必要になる。

また、罠の数には限りがある。

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「これかな?」


 側面のボタンを押すと画面が点いた。

 周辺のマップが映っていて、画面の右端に罠の一覧がある。


「試しにこれを使ってみるか」


 俺達の20メートル前方をタップ。

 それがタブレット端末の最大射程だ。


「何か出たー!」


「樽っすよ! 樽!」


 俺は「見るからに罠だな」と笑った。

 召喚されたのは木樽で、側面にドクロのイラストが書いてある。

 相手が人間なら迷うことなく避けられるだろう。

 しかし徘徊者は馬鹿なので、真正面からタックルで潰した。


 木樽は驚くほどあっさり壊れ、周辺に毒ガスを撒き散らす。

 ガスに触れた徘徊者は目に見えてスピードが遅くなった。

 説明通り殺傷能力はないようだ。


罠師トラツパーってやつか、面白いな」


 他の罠も試してみた。

 種類は数あれど、効果は概ね似たようなものだった。

 足止めするか、速度を低下させるか、同士討ちさせるかだ。

 ただ、罠によって範囲や威力、効果時間が異なっていた。


「面白いが……この武器はダメだな」


 俺の意見に皆が同意する。

 満場一致でタブレットの不採用が決まった。


 理由は単純だ。

 殺傷能力がない上に、操作中は画面に集中せざるを得ない。

 迫撃砲と同じく規模の大きなギルドでこそ輝くタイプだ。


「さーて、次は私の出番だね!」


 麻衣がボディビルダーのようなポーズを決めた。

 全身がアイ○ンマンのようなパワードスーツに覆われている。

 それが彼女のクラス武器だ。


「何かあった時に備えて援護の準備よろしく!」


「イエッサー! タロウおいで!」


 燈花の呼びかけると、門の奥から「ブゥ」という声が響く。

 サイのタロウが駆け足でやってきた。


「麻衣を守るっすよ、タロウ!」


 燈花が右手に持っている指揮棒タクトを振る。

 すると、タロウの体がキラキラと輝き始めた。

 タクトはペットの強化に特化したクラス武器だ。


「いっくよー!」


 麻衣が腰を落として力を込める。

 背中のジェットパックが火を噴いた。


「うひゃー! このスピード最高!」


 滑るようにして突っ込んでいく麻衣。

 マウンテンバイクよりも速い。

 もっといえば車に匹敵する速度が出ている。


「だああああ!」


 麻衣の繰り出したパンチが徘徊者を木っ端微塵にする。

 他の徘徊者も彼女にぶつかると即死した。


「ブゥ!」


 麻衣に遅れてタロウも参戦。

 今までよりも素早い動きで敵を蹴散らしていく。

 【調教師】の新たな効果も相まって別格の強さになっていた。


「風斗、決めた! 私の武器はタクトにするっす!」


 燈花は目をキラキラと輝かせながら言った。


「それはいいけど、明日は違う武器を試してくれよ。俺達のために」


「了解っす! でも本決定はタクトにするっすよ!」


「はいよ」


 こうして燈花のクラス武器が決定。


(タクトは悪くない選択だな)


 燈花は【調教師】のレベルが高い。

 日中にタロウとコロクが活動したことで30になっていた。

 それによって、新たな効果「ペットの能力向上」が追加された。

【生産】なら生産量、【戦闘】なら戦闘力、【探索】なら探知能力が上がる。


 タクトと【調教師】の相性は抜群だ。


「ひぃいいいいい! 麻衣ロボットただいま帰還!」


 麻衣が駆け足で戻ってきた。

 ジェットパックは戦闘の最中に切れていた。

 常に使えるわけではないようだ。


「いい感じだったな、パワードスーツ」


「ちょー楽しかったよ! でも今回でおしまいだね」


「そうなのか? どうしてだ?」


 予想外の発言だ。

 俺には気に入っているように見えた。


「ジェットパックがガス欠から回復するのに時間がかかるし、なにより敵に突っ込んで戦うのって怖いじゃん? パワードスーツだと武器を思うように扱えないから、戦うなら素手でドカドカ殴ることになりそうだし」


「アイ○ンマンみたいに手からビームとか出せたらいいのにな」


「ほんとだよ! それなら本決まりだったのに!」


 これで残すは美咲と由香里だ。

 美咲は長い杖ロツド、由香里は投げ槍を持っている。


「由香里さん、お先にどうぞ」


「分かりました」


 由香里は槍を逆手に持つと敵に向かって投げた。

 槍はさながら矢の如く飛んで敵を貫く。

 軽く投げたとは思えない軌道を描いていた。


「思いっきり投げなくてもいいのか」


「うん」


「投げた槍はどうするの? 拾いに行かないとダメなの?」


 麻衣が尋ねると、由香里は首を振った。


「その必要はない」


 彼女が答えると同時に新たな槍が召喚された。

 銃で言うところのリロードだ。


「再召喚までの時間は5秒くらいか?」


「うん、5秒」


「ふむ……」


 微妙だな、というのが率直な意見だった。


 投げ槍が銃に勝っている点は貫通力だ。

 銃弾と違って命中しても消えずに奥の敵も貫く。


 だが、銃に比べて殲滅力が低い。

 再召喚までの時間も長めだ。


「由香里はどうして投げ槍を選んだっすか?」


「あ、私もそれ気になるー!」


「それは……」


 由香里は少し躊躇った後、恥ずかしそうに言った。


「ナーガと戦った時、風斗が槍を投げていたから」


「そういえば投げていたな、俺」


「かっこよかった」


「かっこよかったか? 必死過ぎて覚えていないが……」


 覚えているのはパラシュートの揺れがヤバかったことくらいだ。


「由香里は風斗のこと大好きだもんねー!」


 麻衣がニヤニヤしながら茶化す。


「うるさい」


 由香里は顔を真っ赤にして麻衣に槍を投げつける。

 槍は麻衣に当たったが、刺さることなく光の粒子となって消えた。


「ちょ! 人に向かって投げるなし!」


「徘徊者と誤解した、そっくりだから」


「似てないし! つか、こんな近くに徘徊者がいたら怖いし!」


 燈花が「あはははは」と腹を抱えて笑い転げている。

 俺も「ふっ」と笑い、それから美咲を見た。


「最後は美咲だな」


「はい!」


 美咲は一歩前に出て杖を振るう。

 すると杖の先から光の星が発射された。


 それは真っ直ぐ飛び、徘徊者に命中する。

 徘徊者は即死だった。


「魔法攻撃じゃん! ゲームみたい!」


「面白そうっす!」


 麻衣と燈花が興奮気味に言う。

 俺は表情を変えることなく美咲に尋ねた。


「攻撃は連発できるの?」


「できます。クールタイムはありません」


「なるほど、悪くないな」


「悪くない、ですか」


「銃に比べると性能が劣っているように見える」


「たしかにそうですね」


 遠距離攻撃はアサルトライフルが頭一つ抜けていた。


「ただ、私はこの武器が自分に合っていると思います」


「ほう? その心は?」


「銃と違って鈍器としても使える点が気に入りました」


「遠近両用武器として使うわけか」


「はい、今までまともな武器がなかったので……」


 言われてみればそうだな、と思った。

 フライパンや一升瓶で敵を殴っているイメージしかない。


「じゃあ美咲はロッドで本決まりか?」


「現時点ではそうなります」


 これで本日の武器が出揃った。


「あとは適当に満足するまで遊んだら終わろう」


「「「「了解!」」」」


 1時間ほど狩りを楽しんだ後、俺達は城に戻った。

 残りの時間は機械弓兵と防壁に任せておいて問題ない。


 次のイベントは――帰還を賭けた最終ミッションだ!

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