073 第2ミッション

「私の武器はこれ」


 そう言って由香里が召喚したのは――。


「トリに相応しい派手なのが来たなぁ!」


「麻衣さんが使いそうなイメージでした」


「あー分かるっす!」


「たしかに私が使いそうだけどなぁ、ロケランは」


 そう、ロケットランチャーである。

 肩に担いでぶっ放す王道の強力武器だ。


 ロケランについては俺も検討していたので知っている。

 迫撃砲に比べて威力が高く、直線に飛ぶので扱いやすい。

 重いが持ち運べる点も迫撃砲に勝っている。

 射程や爆発範囲は迫撃砲が上だ。

 リロード時間はどちらも10秒なので使い勝手は微妙そう。


「ぶっ放してやれ! 由香里!」


「うん」


 由香里はロケランを右肩に担ぎ、照準を定める。

 そして、一言「撃つ」と言って引き金を引いた。


 ドカァン!


 大きな砲弾が真っ直ぐ飛び、盛大に爆発する。

 やはり威力は文句ない。


「これでリロードが短ければよかったんだがな」


「私ならリロードの隙も埋められるよ」


 由香里はロケランを足下に置き、背負っていた弓に持ち替える。

 テンポのいい速射で徘徊者を射抜いていく。


「クラス武器と通常武器を組み合わせて戦うのか」


「これだったらリロードの時間も隙にならない」


「ロケランと弓の組み合わせは由香里しか無理だと思うが、他の組み合わせなら俺達でもできそうだな」


 例えばアサルトライフルと刀の組み合わせはどうだろう。

 基本は銃で戦いつつ、距離を詰められたら刀を使うわけだ。


 拳銃と刀の二刀流で戦うのも悪くない。

 迫撃砲とバリスタの組み合わせで大技にこだわるのも面白そうだ。


「クラス武器の実装で一気に戦いの幅が広がったな」


 皆のお披露目が終わったので次の武器を試そうとする。

 時間はまだまだあるから一つでも多くの武器を――と思ったのだが。


「あれ、違う武器にできないぞ」


 女性陣が次々に「私も」と続く。


「おいおい、徘徊者戦の間は武器変更できない仕様かよ」


 これだと試用期間に使える武器の数は三つだけだ。

 今日はライフルを選んだので、残すは明日と明後日の二回のみ。

 クラス武器の種類は数え切れないほどあるのに、この仕様はきつい。


「ここでも人数の多いギルドが有利ってわけー!?」


「贔屓過ぎっすよ! Xのバカヤロー!」


 麻衣と燈花が不満を叫ぶ。


「こりゃ今後は武器被りがないよう意識していかないとな」


 5人×3日で、被らなければ最大15種類のクラス武器を試せる。

 最適解と言えずとも、それなりに向いている物が見つかるはずだ。


「あとグループチャットで積極的に使用感を聞いていかないとね」


 そうだな、と麻衣の発言に頷く。


 この日の徘徊者戦も楽勝だった。


 ◇


 転移18日目、7月30日――。


「いよいよ作業をサボるようになりがった。ひでぇ女だぜ」


「モー」


 朝食後、俺はウシ君の搾乳を行っていた。

 食堂で、淡々と。


 麻衣も同じ場所にいる。

 だが、彼女はソファにふんぞり返ってテレビを観ていた。

 隣に座る燈花と仲良く「キャハハ」と笑っている。


「たまにはいいじゃん! あたしゃ美咲と一緒に朝ご飯を作ったからヘトヘトなのよ! それに今日は土曜日だからね。休みってことで!」


「俺にはこの後の展開が分かるぜ。明日も日曜日だからと休み、明後日も何かしらの言い訳をして俺に押しつける。で、明後日からはもう何も言わない。当たり前のように俺が搾乳担当になっているんだ」


「おっとー! 朝10時になりました! 新しいミッションの時間だよーん!」


 麻衣は俺の言葉を無視してテレビを消す。

 俺はウシ君の背中を撫でると、その場で胡座あぐらを掻いた。

 スマホを取り出し、ウシ君と一緒にミッションを確認する。


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【第2ミッション】

250万ポイントを稼ぐ。

制限時間:24時間

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 俺と麻衣の口から同時に「えっ」と驚きの言葉が漏れた。


「桁間違いか?」


 何度も見返すが250万に変わりなかった。

 2500万ではなく250万。

 24時間以内に250万を貯めるだけ。

 たったそれだけでミッションクリアだ。


「え、待って、楽勝すぎない?」


「昨日のほうが難しいじゃないっすか!」


「どうなってんだ……」


 俺達だけでアレコレ言っても解決しない。

 グループチャットで他所のギルドに情報を求めた。

 その結果――。


「なるほど、250万でいいのはそういうカラクリか」


 事情が分かった。

 今回のミッションはギルドメンバーの数によって異なるのだ。

 メンバー数に50万を掛けた数字がミッションの要求額である。


 俺達のギルドは5人しかいないので250万で済んでいる。

 一方、200人以上が在籍している〈サイエンス〉は1億を超えていた。

 ミッション内容は稼ぐことなので、既にある貯金は意味がない。


「1人当たり50万って普通に楽勝だよね」と麻衣。


「俺達にとってはな」


 グループチャットを見る限り余裕なのは俺達くらいだ。

 他所のギルドからは不満や諦め、怨嗟や嘆きの声が飛び交っていた。


 特に厳しいのは〈サイエンス〉だ。

 メインの収入源である酪農だけでは厳しい。

 何かしらの対策が必要になる。


「一応、役割分担して効率的に稼ごう」


 皆が賛成する。


「私はルーシーと魔物の狩りをする」と由香里。


「それがいいだろう。俺は底引き網漁をするから、麻衣と燈花は同行してくれ」


「「了解!」」


「風斗君、私はどうすれば?」


「美咲は城に残って料理を頼む。由香里やペットたちに美味しいご飯を振る舞ってくれ」


「分かりました。風斗君たちのお弁当もご用意しましょうか?」


「いや、料理は麻衣に作ってもらうよ」


「え、私!?」


「搾乳をサボった罰だ。漁の手伝いだけでなく料理も作ってもらうからな」


「それはいいけど、本当に私でいいの? 美咲と違って下手だよ?」


「下手じゃないさ。美咲が上手すぎるだけで麻衣だって上手いよ。それに、今日の朝食を作ったことで【料理人】のレベルが20になったんだろ? 料理に特殊効果が付与されるようになったし何の問題もない」


「そこまで言われちゃあ仕方ないね! 今日は私の料理で二人をムキムキにしちゃうよ! 覚悟しな!」


「これで決まったな」


 俺は一呼吸置いてから言う。


「サクッと稼いで明日の最終ミッションに臨むぞ!」


「「「「おー!」」」」

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