072 初めてのクラス武器

 ナーガ戦の勝利は非常に大きかった。


 由香里以外は【狩人】のレベルが5もアップ。

 元々のレベルが高い由香里ですら3も上がった。


 ポイントも大量に獲得した。

 クエスト報酬450万に加えて討伐報酬も150万ほど。

 引っ越し等で使い込んだ分が一気に回復した。


 第1ミッションをクリアできたギルドは約半数。

 俺達を含めても6ギルドだけだ。

 人数の少ないギルドほど苦戦を強いられていた。

 多少ながら死人も出ている。


 クリアしたギルドからはグループチャットで感謝された。

 揃いも揃ってリヴァイアサン戦を模倣していたからだ。

 やはり地上戦だとバリスタで蜂の巣にする戦法が強い。


 第2ミッションではどれだけのギルドが残るのか。

 今日の様子を見る限り、俺達だってどうなるか分からない。

 帰還の道のりは険しそうだ。


 ◇


 城に戻ってからしばらく――。

 本日のディナータイムがやってきた。

 食堂で待つ俺、麻衣、由香里のもとに料理が運ばれてくる。


「今日はパエリアを作ってみました」


「私はタコと焼き野菜のマリネを作ったっすよー!」


 美咲と燈花がテーブルに料理を並べる。

 どちらも美味しそうだ。


「このパエリアは……」


 パエリアを見て驚いた。

 魚介類が使われていなかったのだ。

 代わりにウサギや鶏の肉、インゲンなどが散りばめられていた。


「バレンシア風に仕上げてみました」


 美咲は俺の右隣に座った。

 燈花も着席を終え、「いただきます」の合図で食事が始まる。


「バレンシアってスペインの地名だっけ? パエリアで有名なのか?」


「発祥地です」


「そうだったのか」


「え、じゃあ、パエリアって元々は魚介じゃないんだ!?」と麻衣。


「はい、海の幸ではなく山の幸を使っています。本場ではここにエスカルゴも加えるようですが、今回は控えておきました」


 麻衣は「ほへぇ」と感心しながらパエリアを頬張る。

 あまりの美味しさに恍惚とした表情を浮かべた。


「ほんと美咲は料理に詳しいよな。すげーよ」


「ありがとうございます」


 美咲の料理は幅が広くて偏りがない。

 それでいて全てがプロ級の美味しさだから完璧だ。

 非の打ち所がない。


「それにしても、このパエリアを食べていると元気が漲ってくるな」


「私も思った」と由香里。


 麻衣と燈花が「私も!」と続いた。


「お気づきになりましたか」


 美咲が「ふふ」と意味深な笑みを浮かべた。


「パエリアに何かヤバいクスリでも盛ったの!?」


 麻衣が冗談で言った。

 しかし、本当にクスリが盛られていても驚きはしない。


 それくらい効果が凄まじいのだ。

 食べれば食べるほど疲れが吹っ飛んでいく。


「クスリは盛っていませんが、実は【料理人】のレベルが30を超えまして」


「新たな効果が追加されたのか」


「はい。『作った料理に追加の特殊効果が付与される』という説明だったので具体的には分からなかったのですが、どうやら疲れを回復する効果が追加されたようです」


「レベル20の効果で筋力や身体能力が強化されて、今度は疲労回復か。こりゃますます美咲の料理に依存してしまうな」


「あはは、たくさん依存しちゃってください」


 その後も談笑しながら食事を楽しむ。

 燈花の作った料理も美味しかったし、充実したひとときを過ごせた。


 ◇


 徘徊者戦を控えた午前1時50分。

 昨日と同じで、俺達は城壁の上に待機していた。

 ここへ繋がる階段をタロウが死守している点も変わりない。


 昨日と違う点は傍にジョーイがいることだ。

 美咲の足下で目を瞑って伏せている。


「早く使いたいなークラス武器!」


「同感っすー!」


「私も楽しみ、驚く武器にしたから」


 女性陣は2時になるのを心待ちにしていた。


 俺はスマホで時間を潰す。

 グループチャットを確認した後、適当にネットサーフィン。


 無意味と分かっていながら天気予報もたしかめた。

 それが済んでも時間が余っていたので〈ステータス〉を開く。


=======================================

【名 前】漆田 風斗

【スキル】

・狩人:14

・漁師:23

・細工:13

・戦士:18

・料理人:1

・調教師:18

=======================================


 美咲の【料理人】が30を超えたのに、俺の最高は【漁師】の23だ。

 とはいえ、これでも全体的に見れば高いほうになる。


 他所のギルドだと、スキルレベルは10台が一般的だ。

 人数が多い代わりに一人あたりの作業量が少ないのだろう。


 俺達は少数精鋭というわけだ。

 悪く言えばブラックな環境ということ。


「風斗、始まるっすよー!」


「了解」


 俺は立ち上がり、左手でスマホを操作。

 戦闘開始直後にクラス武器を召喚できるよう〈クラス〉を開く。


 時刻が2時00分になり、徘徊者戦が始まった。


「武器のお披露目タイムだああああああ!」


 最初に召喚したのは麻衣。

 彼女が選んだクラス武器は――。


「なんだそれ!? ラジコンか?」


「ドローンだよ!」


 四つのプロペラを備えた数機のドローンだった。

 一機あたりのサイズは掌よりも一回りほど大きい程度。

 本体下部には小型のライフルが装備されている。


「えーっと、ドローンを動かすには……」


 麻衣がノートパソコンを操作している。

 パソコンもクラス武器に含まれているようだ。


「これで大丈夫なはず! いっけぇー!」


 カッターンとエンターキーを押す麻衣。

 すると、ドローンが敵の群れに向かって飛んでいった。


「ノートパソコンで各ドローンの視点を確認できるよ!」


 麻衣がパソコンの画面を見せてくれた。

 たしかにドローンのカメラ映像が分割表示されている。


「安全圏から戦える武器か、面白いな」


「説明だと攻撃力はかなり低いらしくて、主に仲間の支援が専門みたい」


「ほう」


 話している間にも徘徊者の群れが迫ってきていた。

 数機のドローンでは抑えきれなかったようだ。


「次は私に戦わせてください」


 そう言って、美咲はその場に屈む。

 彼女の指示を受けて、ジョーイは少し離れた。


「これが私の武器です!」


 美咲はスマホのカメラを地面に向けて画面をタップ。

 彼女のクラス武器――迫撃砲が召喚された。

 サイズは小型で、見た目はパラシュート花火に似ている。


「迫撃砲って一人で扱えるのか?」


 親父の観ていた戦争映画では常に二人一組で使用していた。

 それに撃つ際はちまちまと仰角の調整をする必要もあったはずだ。


「その点は大丈夫なようです」


 美咲がスマホを操作すると、迫撃砲が勝手に動いた。

 砲身の角度が上がり下がりを繰り返している。


「スマホで角度の調整ができるのか」


「発射もスマホで行うようです」


「それは便利だな。さっそく敵にぶちかましてくれ」


「分かりました! 大きな音が出ると思うので耳を塞いでいてください」


 言われた通りに両手で耳を塞ぐ俺達。

 ジョーイも前肢を耳に当てた。


「撃ちます!」


 スマホをタップする美咲。

 すると、「ボッ」と大したことない音が鳴った。

 それが発射音だったようだ。


 砲弾は徘徊者のど真ん中に着弾した。

 着弾時の音は「ドゴォン」と結構な大きさだ。


「迫撃砲ヤバッ! 強ッ! ドローンとはレベルが違うじゃん!」


 大興奮の麻衣。

 俺も「すげぇな」と驚愕していた。


 迫撃砲の攻撃範囲は想像以上に広い。

 一発で数十体の徘徊者が消し飛んだ。

 射程も長い。


「美咲、バンバン撃ってやれ!」


「そうしたいのですが、どうやらそれはできないようです」


「どういうことだ?」


「砲弾のリロードに10秒かかるようです」


「10秒に1回しか攻撃できないのか」


 迫撃砲の評価が一気に下がった。

 たしかに強力だが、攻撃間隔が長すぎる。

 少人数ギルドのウチとは相性が悪そうだ。


「次は誰がいく?」


「私は最後がいいっす! 自信があるのでトリ担当!」


「私も最後がいい」


「なら次は俺がいこう。二人はじゃんけんでもして順番を決めてくれ」


 ということで、俺はアサルトライフルを召喚。


「私のドローンや美咲の迫撃砲に比べて地味だねぇ」


 ニヤニヤと笑う麻衣。


「地味だが性能は優秀だぜ、たぶん」


 俺は数十メートル先の敵に向かって乱射する。


「そうだろうなとは思ったが、やはり使い勝手がいい」


 実銃と違って反動が少ない。

 振動具合はゲームのコントローラーと同程度。

 貧弱な俺でも反動を制御するのに苦労しなかった。


「おもしれぇ! ゲームみたいだ!」


 怒濤の連射で敵を駆逐していく。

 弾はマガジンが空になるか銃側面のボタンで自動リロード。

 リロード時間は3秒と短めなので大した隙にはならない。


「いいなー! 私も銃がいい! ドローンより面白そう!」


「最高だぜ」


「私にも撃たせてよ」


「おう、いいぞ」


 俺は麻衣にアサルトライフルを渡した。

 しかし――。


「あれ、撃てないんだけど?」


 麻衣が使うと弾が出なかった。

 引き金を引いても無反応だ。


「他人のクラス武器は使えないようだな」


 クラス武器の説明に書いていた『複数のクラス武器を同時に使うことはできません』という文言を思い出す。


「アサルトライフルもいいけど私のもやばいっすよー!」


 燈花が「見て見て」と右手を振り回す。

 その手には火炎瓶が握られていた。


「それが燈花のクラス武器か?」


「そうっすよー!」


 ほれー、と火炎瓶を投げつける燈花。

 瓶は地面に当たると割れて、炎が横一線に伸びた。

 さながら炎の壁ができあがる。


「5秒で勝手に再召喚されるから投げ放題っすよー!」


 燈花は上機嫌で瓶を投げまくる。


「大丈夫か? 草原が火の海になりそうで怖いんだが」


「大丈夫っすよ! あの炎は徘徊者しか燃やさないっす!」


 その説明に偽りはなかった。

 10秒ほど経って炎が消えると綺麗な草原が見えた。

 焼けた形跡は全くない。


「じゃあ俺達が炎に触れても火傷しないのかな?」


「試してみるっすかー!」


 次の瞬間、燈花は足下に火炎瓶を叩きつけた。


「馬鹿お前、そんなことをしたら!」


 一瞬で炎の壁が形成されて俺達を飲み込む。

 だが、不思議なことに熱くなかった。


「ほら大丈夫っすよー!」


「何が『ほら』なんだ。大丈夫じゃなかったらヤバいことになっていたぞ」


「風斗は真面目っすねー!」


 悪びれる様子もなく「なはは」と笑う燈花。

 やれやれ、後先の考えないヤバい女だ。


「あとは由香里だけだな」


「うん」


 いよいよトリの時間だ。


「俺達がわっと驚くような武器でビシッと決めてくれ」


「任せて」


 満を持して由香里がクラス武器を召喚した。

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