066 新拠点獲得戦争
引っ越し先の拠点を手に入れるため、俺達は移動を再開した。
ギルドクエストを受注した野原から車で走ること約30分――。
「私らが寝ている間に洞窟を見つけるとは風斗やるじゃん! あ、運転しているのは美咲だから風斗じゃなくて美咲の手柄だ! 美咲やるじゃん!」
「ふっふっふ、残念だな、麻衣」
「残念って何が?」
「新たな拠点だが――」
俺は前方を指した。
「――洞窟じゃなくて城なんだよ」
だだっ広い草原の真ん中に佇むこぢんまりした洋風の城。
それが引っ越し先の候補だ。
「城じゃん! こんなの見つけていたんなら起こしてよ!」
「そっすよー!」
「そうはいかない。起きていた者だけの特権だからな」
美咲が笑いながら「ですね」と頷いた。
胸の谷間にシートベルトが食い込んでいて俺も笑顔になる。
「この城は是非とも俺達の新たな拠点にしたい」
「城の拠点とか超珍しいっすもんね!」
「それもあるが、ここは立地がいいんだ」
1km圏内に川があり、チャリで1時間ほど南下すると海に着く。
主な収入が底引き網漁の俺達にとってはありがたい場所だ。
「城にはびっくりしたけど……拠点なの?」
「それも確認済みだ」
美咲の車が城門の20メートル手前で止まる。
そこで車を降りて皆で城門に近づいた。
門は開いているが中に入ることはできない。
見えない壁――防壁が俺達の侵入を拒んでいた。
「本当だ! クエストが出ている! 洞窟以外に拠点があったんだ!」
と麻衣が言ったので、俺は改めて〈クエスト〉を確認した。
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【内容】戦争に勝利する
【報酬】拠点
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「麻衣はどう思う? この内容」
「どうって? 戦闘に勝てば拠点が手に入るんでしょ?」
「戦闘じゃなくて戦争だぞ」
「あ、たしかに戦闘じゃなくて戦争って書いてる!」
「それに洞窟の時は『魔物の群れに勝利する』だった。戦闘やら戦争なんて書いていなかったんだ」
「戦争ってことは前よりも規模が大きいってことなのかな?」
「俺もそう思う。あと、あいつらも気になるんだよなぁ」
城壁の上にずらりと並ぶ弓を持った機械兵のことだ。
今は肩を落としたように俯いていて動く気配がない。
だが、クエストが始まったら一斉に矢を射かけてきそうだ。
「なんかヤバそうな雰囲気だねー」
「確実に洞窟の時より難易度が高いぜ、今回のクエスト」
「始める前にタロウを呼び寄せるっすか?」と燈花。
「いや、まずは俺達だけで挑もう。その時の感触でどうするか決める」
「了解っす!」
「それじゃクエストを始めるとしようか。皆、車に戻ってくれ」
えっ、と驚く一同。
「戦うんじゃないの? なんで車に戻るのさ?」と麻衣。
「車から戦うんだ。美咲が運転して、俺達は窓から武器を伸ばす。これなら敵の数がウジャウジャいても大丈夫だろう」
今度は「おお!」と歓声が上がった。
「面白そう! それ採用!」
「麻衣が不採用でもこの作戦でいくけどな」
「なんだっていいの! 早くやろ!」
「おう!」
俺達は駆け足で車に戻った。
美咲が運転席に座り、俺は相変わらずの助手席。
後部座席の窓際は、じゃんけんの末に麻衣と由香里に決まった。
俺の後ろが由香里だ。
「私も武器を伸ばしてウリャウリャしたかったっす……」
残念そうに唇を尖らせる燈花。
そんな彼女を慰めるようにルーシーが舐めた。
「ルーシー、燈花の膝で大人しくしていてね」
「キュイ!」
由香里は窓から刀を出す。
今さっき買った物で、おそらく今後は使わないだろう。
「俺と由香里は準備できたぞ。麻衣は?」
「私もOK!」
「ではカーブレード作戦を開始する!」
俺がクエストを受注すると、門の内側に大量の骸骨戦士が出現した。
その数は数百、もしかしたら四桁に達しているかもしれない。
それだけの数が一斉に突っ込んでくる。
城門の上にいる機械弓兵は相変わらず俯いたままだ。
ただのカカシなのか、それとも近づくと攻撃してくるのか。
分からないが、とりあえず今のところは無害だ。
「頼むぞ美咲! 最高のドラテクで蹴散らしてくれ!」
「お任せください!」
美咲はアクセルを踏み込んだ。
真紅のSUVが唸りを上げて敵に突っ込む。
「右に曲がります!」
敵とぶつかる直前で美咲は右折。
窓から出ている俺と由香里の刀が骸骨戦士を切り裂く。
「ファーストコンタクトで10体近く屠れたが……」
「数が多すぎるって!」
「だがこの調子なら負けることはないだろう」
「なんだか楽勝そうっすね!」
「だといいがな」
その後も美咲のドラテクによって危なげない展開が続いた。
そして、戦闘開始から約1時間――。
「風斗、これキリないんじゃない?」
「だな……」
戦況は何も変わっていなかった。
骸骨戦士は倒しても倒しても新手が追加されて減らない。
かといって、俺達のほうもやられる気がしなかった。
この島の車は燃料が減らないのでガス欠の心配もない。
機械弓兵は動かないままだし、本当に一切の変化が無かった。
違いがあるとすれば腕が疲れてきたことくらいだ。
「そもそも戦争に勝つってどうすりゃいいのよ」
麻衣がぼやく。
これがきっかけになった。
「もしかして敵の殲滅が条件じゃないのかもしれんな」
「どういうこと?」
「敵を皆殺しにすることだけが戦争じゃない」
「もっと具体的に!」
「例えば敵将を討ち取れば終わるとか」
「敵将? そんな奴いる?」
俺達は刀を引っ込め、窓から顔を出して敵将らしき魔物を捜す。
城から打って出てくるのは一様に雑魚ばかり。
「すると敵は城内? いや……」
視線を上げていく。
そして――。
「いた!」
見つけた。
城壁の上にいるそれらしき骸骨戦士を。
他と違って王冠とマントを装備している。
明らかな敵将だ。
「いたのはいいけど、どうやって倒すの? 刀じゃ届かないよ」
「車で中に突っ込むに決まっているじゃないっすか!」
「そんな無茶苦茶な!? でもそれしかないよね!」
「待て、勝手に話を進めるな」
俺は苦笑いで麻衣と燈花の会話を止める。
「中に突っ込む必要はない――」
ニヤリと笑い、親指で後ろの席に座る女子を指した。
「――なんたってウチには弓の名手がいるからな」
「「由香里ぃ!」」
麻衣と燈花が同時に叫んだ。
「由香里、車を使った
「射角が厳しいけど大丈夫、なんとかする」
由香里は刀を足下に置き、弓に持ち替えた。
半開きの窓を限界まで開けたら、上半身を出して矢を番える。
「美咲さん、大きく流してください」
「分かりました」
車が時計回りに大きく円を描く。
由香里の照準が何もない草原から城へ傾いていく。
「由香里、決めてやれ」
「由香里さん……!」
「私は――外さない」
由香里が矢を放つ。
矢は変則的な姿勢から射られたとは思えぬ速度で飛ぶ。
そのまま一直線に王冠を被った骸骨戦士に向かい――。
「ガッ……!」
――額を撃ち抜いた。
「「「当たった!」」」
全員が全く同じタイミングで言った。
「すごすぎ! 由香里! あんた天才でしょ!」
「由香里やばすぎっす!」
「お見事です! 由香里さん!」
「流石だぜ! 由香里!」
「……うん」
由香里は照れたように俯き、刀の上に弓を寝かせる。
「で、どうよ風斗、やったの!? やったんだよね!?」
麻衣の問いに「おそらく」と答えようとする。
しかし、口を開く前に結果が分かった。
戦場にいた骸骨戦士が全て消えたのだ。
由香里に射抜かれた奴もいなくなっていた。
ただし機械弓兵は残ったままだ。
どうやら敵でも味方でもなかったらしい。
「やったぞ! 俺達の勝利だ!」
クエスト達成だ。
目の前の城が俺達の物になった。
車内が歓喜の声に沸き、過去最高の盛り上がりを見せる。
「さて、新たな拠点に入るとしようか」
ルーシーに他のペットを連れてくるよう指示し、俺達は城門をくぐった。
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