049 第三章 エピローグ
お知らせを読み進めるにつれて眉間の皺が深くなっていった。
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【平和ウィークのお知らせ】
漆田風斗によって徘徊者 (ゼネラル) が討伐されました。
それを祝して平和ウィークを開催いたします。
平和ウィークの内容は以下の通りです。
・魔物と徘徊者が出現しなくなる。※緊急クエストは除く
・緊急クエストが受注不可になる。※報酬が拠点のものは除く
期間は今日から1週間。
その間、生命の危機に怯える必要はありません。
安心と安全に満ちた快適な無人島生活をお楽しみ下さい。
※平和ウィークの期間は延長される可能性があります。
※平和ウィークは今後も不定期に開催する可能性があります。
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「相変わらずズレてやがる……」
安心と安全に満ちた快適な生活など必要ない。
求めているのは日本への帰還だ。
とはいえ、徘徊者戦がなくなるのはありがたい。
「平和ウィークか……」
お知らせを何度も読み返す。
文面からいくつか分かったことがあった。
まず、Xに敵の出現を弄る力があるということ。
ゲームのように召喚したり消したりできる。
次に、平和ウィークが慌てて作られたイベントということ。
これは「期間を延長する可能性がある」という文言から読み取れる。
その下の「不定期に開催する可能性がある」という文言で決定的だ。
どちらも「するかもしれない」というニュアンスになっている。
事前に計画されていたものならこんな風には書かない。
少なくとも二行目は「不定期に開催する予定」と書くだろう。
では、どうして平和ウィークが慌てて作られたのか。
状況を考えると、十中八九、俺がゼネラル徘徊者を倒したからだ。
奴等にとってゼネラルが倒されるのは想定外だったのだろう。
「もしかしたら何かが変わるかもしれないな」
徒労に終わったかと思えたボス戦。
しかし、平和ウィークの開催で新たな可能性が見えた。
少なくともXに何かしらの衝撃を与えたことは間違いない。
ただ、それが帰還に繋がるかは分からない。
生殺与奪の権は相変わらずXに握られたままだ。
その点はもどかしい。
だが、俺達の行いは決して徒労ではなかった。
「いつか必ず帰還してやるからな」
そう心に誓い、平和ウィークを満喫することにした。
★★★★★
純白の部屋に、二人の男がいた。
男達の前には台があり、パソコンに酷似した機械が載っている。
「平和ウィークとは考えたな。これなら違和感を与えずに済む」
「ありがとうございます! この間にじっくり再検討できますね!」
「そうだな。これほどの短期間でお前がやられるのは想定していなかった」
上司の男はモニターに映っている人間を見ながら呟く。
「しかし連中には驚かされたな」
「〈アニマル踏み倒し作戦〉でしたっけ? 少し違うような気もしますが、へんてこな名前のわりによく考えられていましたよね。まさかクラス武器を出す前にやられるとは思いませんでしたよ!」
「代償を覚悟で一時的に強靱な力を得る――我々にはない考え方だな。戦い方も我々が想定していたどれにも当てはまらなかった」
「でも、浅はかだと思いませんか? 倒した結果どうなるか分からないのに代償を払ってまで倒しにいくなんて。
「たしかに浅はかだとは思う。が、その点も含めて発案者の彼とは話してみたいものだな。柔軟な発想の持ち主であることは間違いない」
「同感です。規則のせいで話せないのが残念ですね」
上司の男は心から残念そうに「うむ」と頷いた。
「それにしてもこの言語……日本語だっけか。えらく効率が悪いな。とてもこの世界で指折りの優れた言語とは思えん。これだけ話しているのに全く情報を伝えられない」
「我々の言語が優秀なだけですよ」
「それもそうだな」
二人の男は踵を返して部屋の外へ向かう。
「あ、自分の出番って今日の敗北でおしまいですか?」
「それも含めて検討する。とりあえず平和ウィークの間は大人しくしておけ」
「えー、1週間も待機だなんて辛すぎですよ」
二人が部屋を出た数秒後、今度は女が入ってきた。
膝丈まで伸ばしたピンクの髪が特徴的だ。
女は真っ直ぐモニターに近づく。
そこに表示されている青年の顔をタッチした。
画面に青年の名が表示される。
「漆田風斗……。彼なら、きっと……」
そこで言葉を止め、女はその場を後にした――。
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