047 百獣の王
「やれ」
ただ一言、こう言うだけで済んだ。
「「「ガルルァ!」」」
あとはライオン達が蹴散らしてくれる。
引っ掻き、咬みつき、食い散らかしていく。
徘徊者に為す術はなかった。
「すごっ! 私らの出番ないじゃん!」
「完璧だ、非の打ち所がない」
しばらくの間、俺はただ歩き続けていた。
ポケットに手を突っ込み、目的地に向かって一直線。
「これならマウンテンバイクに乗れそうだな」
移動手段を徒歩から自転車に切り替える。
燈花は相変わらずタロウに乗っていた。
「いいなー、私もサイに乗りたい!」と麻衣。
「今度二人乗りしよーっす!」
時間に余裕があるので安全重視でゆるっと進んだ。
徘徊者は視界に映った直後に消えていく。
俺達を守る42頭のライオンが完璧な連携で対応していた。
「成獣だけで形成されたプライドに守られるなんて極上の贅沢だな」
「プライドとは何でしょうか?」
隣を走る美咲がチラリと俺を見た。
「群れのことさ。ライオンは成獣のオス数頭が10~20頭のメスや幼獣を率いて活動するんだが、その群れをプライドって呼ぶんだ」
「知りませんでした。風斗君は物知りですね」
俺は周辺を窺ってから「よし」と右手を挙げた。
「ここらで休憩するぞ」
ボスのいる草原まで残り数百メートルの地点でストップ。
「どうしたの? このまま一気に行っちゃおうよ」と麻衣。
「いや、ライオンの体力を回復させたいから休憩だ」
ライオンは持久力が低い。
全力で走るとすぐにバテてしまう。
「風斗ー、ボス戦に備えて強壮薬飲んどけー!」
麻衣が「ほらよ」と薬を渡してきた。
「お、サンキュー」
強壮薬を飲むと体が熱くなった。
高麗人参入りの栄養ドリンクを飲んだ時のように。
それと同時に疲れが吹っ飛んだ。
瞬時に効果が分かるのはありがたいが、だからこそ怖い。
これだけの効き目で副作用がないなんて信じられなかった。
「「「グォオオオオオオオオオオ!」」」
休んでいる間にも徘徊者は襲ってくる。
周辺に伏せているライオンが動くことなく処理した。
ペチッと前肢で払っておしまいだ。
「頼もしいですね」
美咲はジョーイを撫でながら戦闘を眺めている。
他の女子もペットと戯れていた。
しかし、誰一人としてライオンには触れない。
俺もそうだ。
可能な限り顔も見ないようにしていた。
怖かったり嫌っていたりしているわけではない。
数時間後にお別れの時が来るから距離を置いているのだ。
あくまでも戦闘の道具として見るようにしている。
そうしなければ、お別れの時に悲しくなってしまう。
今さらだがライオンたちには申し訳ないと思った。
「休憩は終わりだ。ボスを仕留めにいこう」
時刻が3時00分になると同時に進軍を再開。
ここからは徒歩で向かう。
「もうじきボスだ。火の玉には気をつけろよ」
「「「ガルォオオオオオオ!」」」
大地を揺るがす咆哮で答えるライオンたち。
そして、俺達は目的地の草原に到着した。
「作戦は事前に説明した通りだ。俺はライオンを率いてボスに突っ込む。皆は雑魚の処理を頼む」
「やっぱり私も同行する。風斗だけだと危険」
ここまで無言だった由香里が口を開く。
「気持ちはありがたいがダメだ。みんなを守ってくれ。万が一ライオンが全滅した場合、由香里の魔物が役に立つはずだ」
彼女の召喚した魔物は今のところ何もしていない。
ライオンたちの
「……分かった」
唇を尖らせつつも由香里は承諾。
「燈花も頼むぞ。雑魚戦ではタロウが一番の火力になるからな」
「了解っす!」
「行くぞ! 突撃だ!」
俺達は武器を手に取り草原に突っ込んだ。
草むらに足を踏み入れて間もなく火の玉が飛んできた。
――が、問題なく回避。
「ボスの確認を怠るなよ! 火の玉がいつ来るか分からないからな!」
「「「了解!」」」
大量の雑魚を仲間に任せ、俺はライオンたちと進む。
「連携して死角を突け! 深入りしすぎるなよ! 命を大事にしろ!」
「「「ガルルァ!」」」
ライオンたちがボスに仕掛ける。
ボスの動きは前回と同じだ。
馬のタックルと槍による刺突のコンビネーション。
だが、どちらもライオンには通用しない。
ライオンの群れは俺の指示に従い安全第一で戦っている。
巧みに攻撃を回避しつつ、他が隙を突いて攻撃。
ボスの反撃を受けそうになると攻撃を中断して回避。
それに合わせて別のライオンが攻撃。
完璧な連携で包囲網を狭めていっている。
ボスはライオンの相手をするだけで精一杯の様子。
火の玉を撃つこともなければ、俺を狙うこともない。
今の間に準備を整えていく。
ここまでの戦いで稼いだポイントを使って設置型のライトを購入。
〈スポ軍〉がしたように戦場を明るくした。
「準備は整った――いいぞ! やれ!」
「ガルルァ!」
俺の合図で1頭のライオンが飛びかかる。
「ヌンッ!」
すかさずボスが反撃。
そのライオンは胴体を貫かれて即死した。
――計算通りだ。
「「「ガォオオオオオオ!」」」
その隙を突いて10頭が突撃。
「ヌォ!?」
ボスは避けきれずタックルを受けて落馬。
仰向けに倒れるボスに10頭のライオンが噛みつく。
「そのまま押さえつけていろ! 他は馬を仕留めるんだ!」
「「「ガルァ!」」」
フリーのライオンたちが敵の馬を倒す。
馬は抗戦の構えを見せるも、あっさり仕留められた。
これで敵の足は潰した。
「うおおおおおおおおお!」
俺は助走をつけて思いきり跳んだ。
「ヌンッ!」
ボスを押さえていた10頭のライオンが消し飛ぶ。
噛みつかれたまま槍で薙ぎ払いやがった。
しかし、それは想定の範疇だ。
「ここだぁあああああああああ!」
跳躍していた俺は、刀をボスに向けて真っ直ぐ降下。
狙いは一つ。
甲冑に覆われていない唯一の部位――目だ。
「ヌンッ!」
ボスが槍の穂先を俺に向ける。
それでも俺は止まらない。
ここでビビッたら負けだ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「ヌォオオオオオオオオオオオオオ!」
グサッ。
突き刺さる感触があった――。
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