046 代償を伴う作戦
昼食後、さっそく金策に動き出した。
美咲と麻衣は料理に励み、由香里はルーシーと狩りへ。
タロウとコロクもコンビで狩りに出かけ、ジョーイはアイテムを探す。
俺は燈花を連れて川に来ていた。
「今までならこの後はひたすらペットボトルトラップを量産していくんだけど、今日は移動するとしよう」
「どうしてっすか?」
「少し
俺の〈地図〉には魚群が表示されている。
【漁師】の追加効果によるものだ。
「この辺でも結構多いのにもっと多くなるんすねー」
「にわかに信じられないがそのようだ」
燈花と共に下流へ進む。
「ここだ」
足を止めて川を見るが……。
「よく分からないっすねー?」
「俺も思った」
一見するとこれまでと変わらない。
とても魚群があるようには見えなかった。
「ま、試してみるとしよう」
適当な岩を設置し、それをハンマーでぶっ叩く。
いつも通り失神した魚がプカプカ浮かんだ。
「おお! すげー数だ!」
「大漁っす!」
川面が魚で埋め尽くされてしまった。
魚群探知の効果は伊達ではないようだ。
「急げ燈花! 流される前に全部捕るぞ!」
「了解っす! えいやーっ!」
たも網を振り回して毒々しい色の川魚を捕獲していく。
慣れとは不思議なもので、魚を見ても気持ち悪く感じなかった。
むしろ「この色合いが普通」とすら思える。
日本に戻ったら魚屋へ行くだけで感泣しそうだ。
「よーし、一回目の作業終了!」
「ふぅー」
川のど真ん中に設置した岩の上で休む。
〈履歴〉でポイントを確認した。
「見ろよこれ、やべーぞ!」
「うわっ! すごい額っす! さっきの場所と大違いっすね!」
「魚群パワー、恐るべしだな」
これまでの石打漁に比べて2倍を超える稼ぎだった。
「これなら今日の漁だけで200万くらい貯められるんじゃないっすか!?」
「ひたすらここで石打漁ができるならいいが、そう上手くいかないからな」
「どうしてっすか?」
「一定時間を空けないと稼げない仕様なんだ」
何度も石打漁をしたいなら、その都度移動する必要があった。
「なら次の魚群に行くっすか!」
「おう! 疲れない範囲で動き回って稼ぎまくるぜ!」
徘徊者戦に備えて長めに休憩を取りつつ漁を続行。
魚群探知のおかげで、漁の稼ぎは過去最高だった。
◇
皆の稼ぎを合わせると、所持ポイントは約460万になった。
餌代を差し引いても400万以上になる。
今日だけで200万を超える稼ぎがあったわけだ。
時は流れて、徘徊者戦の直前――。
深夜1時40分頃、俺達はダイニングに集まっていた。
「ギルド用のグルチャを見てくれ。ボスのいる草原の座標を送っておいた」
「了解! 〈地図〉に登録しておいたよー!」と麻衣。
「今日も同じところに出てくるのでしょうか?」
美咲の問いに「おそらく」と返す。
「さっき五十嵐に確認したが、この数日はいつも同じ場所に現れているらしい。今日に限って別の場所に出るとは考えにくいだろう」
もっとも別の場所に出ようと問題ない。
俺の【戦士】レベルが10だから〈地図〉で捕捉可能だ。
「場所が分かっているなら現地で待ち構えたほうがいいんじゃない?」
「麻衣に同感」
「珍しく意見が合ったね! 由香里!」
「残念だけど」
「残念って言うなし!」
「二人は仲良しっすねー!」
燈花が手を叩いて笑う。
早くも馴染んでいた。
「現地で待ち構えるのは危険だから却下だ」
「どうしてさ?」
「拠点の傍じゃないと雑魚に不意打ちされかねない。いきなり真後ろに大量の雑魚が出てきて……なんて事態になったら最悪だ」
「でも今回は仲間がたくさんいるじゃん! 問題ないっしょ!」
「たしかに大丈夫だとは思う。だが、仮に大丈夫でも、他にも二つ理由があるから結局望ましくない」
「二つも?」
「一つ目は一発勝負の新戦術だから雑魚で試したいってこと。ボスへ向かう道中の雑魚を練習台にする」
「あーね」
「もう一つは失敗した場合を想定している。ボスとの戦いは間違いなく短期決戦だ。勝つにしろ負けるにしろ持久戦にはならない。であれば、失敗した時の残り時間は可能な限り少ないほうがいいだろ?」
「なるほどねぇ」
俺は美咲の手元に目を向ける。
スマホを操作する指が止まっていた。
〈地図〉に座標を登録し終えたのだろう。
「準備は済んだな? 作戦を始めるとしよう」
一斉に立ち上がり、拠点の外へ向かう。
外に出たら〈ショップ〉を開いてペットカテゴリを見る。
本体代は基本的に10万で、オコジョなどの小動物は1万。
「本当にいいの? これでボスを倒しても意味がなかったら……」
いざペットを購入しようとしたところで麻衣が尋ねてきた。
「代償が大きいことは分かっているさ。その割にリターンが不明瞭なこともな。だが、相手はこの島に一体しかいない徘徊者のボスだ。倒せば何かが起きる可能性は大いにある。それに賭けるさ」
俺は稼いだ420万で動物を爆買いした。
買ったは――ライオンだ。
数は42頭。
性別は半々で、全て成獣だ。
「「「ガルルォオオオオオ!」」」
ライオンの咆哮が静かな森に響く。
こちらまで萎縮してしまいそうな迫力だ。
サイのタロウですら怯んでいた。
「これだけの数のライオンが目の前にいる衝撃ヤバッ!」
麻衣はいち早く順応し、記念撮影を始めた。
美咲と由香里は「すごい」とだけ呟いて固まっている。
燈花は「ほっへぇー!」と感動していた。
「購入できる数に上限がないか不安だったが問題なかったな」
ライオンの強さは知られている。
しかし、純粋な戦闘力でいえばゾウに軍配が上がるだろう。
地球だとライオンよりアフリカゾウのほうが強い。
それが分かっていた上でライオンを選んだ。
ゾウの機動力ではボスの火の玉を避けられない気がしたから。
なにより強い獣と言って最初に連想したのがライオンだった。
ライオンの餌代は1頭につき500万pt。
サイの25倍であり、ぶっちぎりで最高額。
今の俺達では1頭すらまともに飼えない。
そんなヤベー奴が42頭もいる。
間違いなく強い。
これが俺の作戦――名付けて〈踏み倒しアニマル軍〉だ。
42頭を維持するのに必要なポイントは2億1000万。
もちろん払えない。
よって、今日の12時に俺は破産するだろう。
破産するとライオンたちは消える。
そして、俺はペットの購入権利を失ってしまう。
だが、それまでは俺が最強だ。
この頼もしいライオンの軍団で無双できる。
百獣の王を大量に率いる一晩限りの王だ。
「人間5人に美咲たちのペットが4匹、さらに助っ人のライオン42頭――まさに総力戦だな」
「それだけじゃない」
由香里がスマホを取り出した。
何やら操作すると――。
「キュイー!」
「グォォォ!」
突如、彼女の背後に15体の魔物が現れた。
角ウサギやボアライダーを始め、見たことのないタイプもいる。
「なんだこの魔物たちは!?」
「私が召喚した」
「召喚だと!?」
「【狩人】のレベルが20になって、その力で」
新たな効果が追加されたらしい。
24時間以内に倒した魔物を召喚できるそうだ。
ただしクエスト対象――例えばリヴァイアサンは召喚できない。
効果時間は4時間。
「こいつらって徘徊者戦が始まっても消えないのか?」
普通の魔物は徘徊者戦になると姿を消す。
だから深夜2時~4時のサバンナは閑散としていた。
「分からない。消えたらごめん」
「かまわないさ」
時刻が1時59分から2時00分に変わる。
空気の味が変わり、コクーンのアイコンが真っ赤に染まった。
「私の召喚した魔物、消えなかったよ」
「最大戦力で臨めるな。さぁ終わらせにいくぞ」
俺は迫り来る徘徊者を指しながらライオンの群れに命じる。
「敵を根絶やしにしろ」
“狩り”の始まりだ。
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