045 合同作戦の後
燈花のシチューは具だくさんで美味しかった。
技量的には普通に上手……麻衣と同じくらいだと思う。
案の定、俺と燈花だけでは食べきれなかった。
だがそれは燈花の想定通り。
余った分はサイのタロウが平らげた。
そして今、俺達は移動中だ。
俺はマウンテンバイクに、燈花はタロウに乗っている。
コロクはタロウの角にしがみついて辺りをチラチラ。
燈花曰く、レーダーのように周辺を探っているらしい。
只のマスコットではなく立派な探索タイプだ。
「もうすぐ着くぞー」
一瞬だけ振り向いて燈花を見る。
「案外近くにいたんすねー!」
「近いと言うが片道二時間近い距離だからそれなりだぞ」
12時を過ぎたところで拠点に到着した。
半日しか離れていなかったのに久しく感じる。
実家のような安心感があった。
◇
麻衣ら三人は拠点にいた。
昼食の時間なので戻っていたのだろう。
拠点の外で軽く話した後、皆でダイニングへ。
流石に五人と二頭と二匹が一堂に会すると狭く感じた。
皆でテーブルを囲み、改めて自己紹介。
「――で、この子はサイのタロウ! こっちはオコジョのコロクっす!」
「おお! タロォ!」
麻衣はタロウに抱きついて頬ずり。
タロウは高い声で「ブゥ」と鳴いた。
「わお、怒らせちゃった?」
「大丈夫! 高音の『ブゥ』は喜んでいる証拠っす!」
「ほんとに? よかったー!」
麻衣がタロウにベタベタ触れる一方、由香里はコロクに夢中だ。
机の上でビヨーンと体を伸ばして二足立ちするコロクの鼻を指で撫でている。
ハヤブサのルーシーは燈花の肩に乗っていた。
「ルーシーの爪、全然肩に食い込まないっす! すごいっすねー!」
「うん、ルーシーは賢いから」
しばらくの間、新たな仲間達との団らんが続いた。
それが落ち着いてから今後の方針について話す。
「防壁の強化は今後も変わらず毎日三回を目安にしていく」
「えー、どうしてっすか? タロウがいるのに!」
「そーだよ! タロウってすごく強いんでしょ?」と麻衣。
タロウは俺に向かって「ブゥ」と鳴く。
何となく「戦いなら任せろ」と言っているように感じた。
「たしかにタロウは強い。だからといって依存したくないんだ。タロウがいなくても守り切れる状態にしておきたい。タロウだけ毎日働かせるのは酷だしな」
「でもポイントは大丈夫なの? タロウって戦闘タイプなんでしょ? 餌代がものすごいんじゃ? コロクもいるし!」
「タロウの餌代は20万だ。ちなみにコロクは1000pt」
「なーんだ、思ったより高くないね! てかコロク安ッ!」
「餌代は問題ないっすよ! この子たちは自分で稼げるので!」
タロウとコロクはコンビで動くらしい。
面白いことにセットで作業させると効率が上がる。
タロウは単体だと魔物を見つけるのに手間取るそうだ。
コロクも単体だと大して稼げない。
相乗効果ってやつだ。
「前までは私も働く必要があったっすけど、今は【調教師】のレベルが上がったので何もしなくても黒字っす!」
「なら燈花には狩り以外の作業をしてもらうか。できれば相棒効果を狙いたいし誰かとセットで動いてもらえると助かるが……」
「了解っす! なんだってやるっす!」
「いいのか? 束縛は嫌いだから自由に行動したいとのことだったが」
「大丈夫っすよ! 一人がいい時はそう言うので!」
「分かった」
「ねね、燈花、【調教師】の追加効果ってどんなの?」
麻衣が尋ねる。
追加効果とはレベル10になると発現する効果のこと。
「ペットの行動範囲が拡大されるっすよー!」
「行動範囲? レベルが低いと制限があるの?」
「飼い主が一緒なら問題ないっすよー」
「あー、飼い主から離れて行動できる距離が拡がるってことね!」
「そうっす! そうっす! 分かりにくいっすよねー」
「で、実際はどう? 行動範囲が拡大されると結構違うもの?」
「体感で『おっ』と思う程度には違うっすよー! でも劇的に変わるわけじゃないし、他のスキルに比べたら微妙かも!」
話を聞いている限りだと微妙そうだ。
ハズレ度合いで言えば現時点で第二位ってところか。
ちなみに、一位はぶっちぎりで【料理人】だ。
効果は食材が半額で買えるだけ。
大人数ギルドだと便利だが、ウチとは相性が悪い。
「徘徊者と言えば例のボスはどうなの? ヤバいって話だけど」
麻衣が話を振ってきた。
「そういえば詳しいことはまだ話していなかったな……といっても、話すことは特にないけど。ボスの性能はグルチャに上がっている通りで、それ以上でもそれ以下でもないよ」
グループチャットを見る。
そこにはボスの情報が細かく書かれていた。
麻衣たちは既に目を通している。
「ただ、合同作戦の死者数は参考にならんな」
――28人。
それが合同作戦での死者数だ。
全て第三グループのメンバーだった。
約40人中の28人死亡なので、第三グループは事実上の壊滅だ。
生き残った連中は合流して一つのギルドになった。
「合同作戦は風斗君が想像していたよりも酷い結果でしたね」
「だな」
グループチャットは現在進行系で荒れている。
第一、第二、第三が互いに批難し合っているのだ。
第三の連中は栗原に憤っている。
中には栗原に対する殺害予告を匂わせている者も。
多少だが五十嵐ら第二に対しても文句を言っていた。
栗原は第三の怒りを「筋違い」と断言。
五十嵐たち第二が勝手に撤退したのが悪いと主張している。
第二が歩調を合わせていれば犠牲は出なかった、と。
第二の連中はこれに反発。
栗原の判断が遅かったせいというのが彼らの主張だ。
また、第三の壊滅についても自己責任と言い切っていた。
この醜い争いに対する外野の反応もまた醜い。
どういうわけか焚き付ける者が一定数いるのだ。
さも当事者かのように誰かしらを批難している。
そんな醜い争いの中、検証班がボソッと脱出失敗を報告。
脱出成功の糸口も掴めないままだ。
しかし、この報告に対する反応は薄かった。
誰もが栗原たちの言い合いに気を取られている。
今のグループチャットは見る価値がない。
「ボスの強さ、風斗の想定を超えているよねこれ」
「たしかに思っていたよりも遙かに強かった」
「ならやっぱりボスを倒すのってきつくない? てか無理っしょ」
美咲が「ですね」と同意する。
由香里と燈花も頷いた。
「きついとは思うが、一つだけ作戦がある」
「「「「――!?」」」」
「ペットを使う作戦でな、最初は自信がなかった。だが、タロウの強さを見て確信した。戦闘タイプのペットがいれば俺達でもボスを倒せるかもしれない」
「倒せるかもって、それマジ!?」
「少なくとも馬から引きずり下ろすことはできる」
「すげー!」
「ただ、この作戦には大金が必要だ」
「大金ってどのくらい?」
「最低200万」
「200万!?」
麻衣が机を叩いて立ち上がった。
驚きのあまり叩いただけで、別に怒っているわけではない。
「最低でな。できればその倍は欲しい」
「すると400万!? そんなに使って何をするの!?」
俺は「ふふふ」と不敵な笑みを浮かべる。
「それはだな――」
脳内に描いている作戦を説明する。
「――とまぁこんな感じでいけるんじゃないかと思うわけだ」
俺が話し終えた時、皆は口をあんぐりしていた。
「相変わらずぶっとんでいるなぁ……」
「ふふ、風斗君らしいですね」
「やっぱり風斗はすごい」
「やべーっす!」
「急で悪いが、異論がなければこれから全力でポイントを稼いで、今日の徘徊者戦でこの作戦を決行したい」
「「「「今日!?」」」」
麻衣が「いやいやいやいや」と顔の前で右手を振る。
「流石に早すぎっしょ! 合同作戦で大変だったんだし一日くらい休んだほうがいいでしょ! ポイントだって全然ないよ!」
「いや、やるなら早いほうがいい。徘徊者は日に日に強化されている。今はノーマルタイプのザコとバリスタ兵だけだが、今後はバリエーションが増えて厄介になるかもしれない。ノーマルだって強化され始めたし」
「そうだけど、ポイントはどうするのさ」
「問題ないだろう。現時点で200万ある。餌代の40万を抜いても160万だ。今日の金策が終われば餌代抜きで200万以上になっている」
「じゃあさ、ボスの位置は分かるの? 〈スポ軍〉がいないのに」
〈スポ軍〉とは五十嵐が率いる体育会系ギルドの名前だ。
スポーツ軍団の略称とのこと。
「大丈夫だ。昨日の戦いで【戦士】のレベルが10になったからな」
「ぐぬぬ、もう突っ込むところがないや……」
「麻衣は反対なのか?」
「反対なんじゃなくて風斗が心配なのよ。ちょっと頑張り過ぎじゃない?」
「私も麻衣さんに同感です。風斗君と燈花さんは合同作戦に参加していたのですから、今日は休まれたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「私は平気っすよ! 遅刻して風斗の救出以外は何もしてないし!」
「気遣いはありがたいけど俺も平気だ。燈花の拠点で十分に寝たし、コクーンで買った強壮薬を飲んだから疲れも吹き飛んだ」
「そうですか……」
「心配を掛けて悪いが、この戦いが終わったらちゃんと休むから許してくれ」
「分かりました」
俺は手を叩いて話を進める。
「改めて言うが、作戦自体に異論ないなら決行したい。どうだろう?」
四人から異論は出なかった。
「決まりだ。日中は全力で金策。夕食後に何時間か寝て、今夜決行するぞ!」
皆は「おー!」と拳を突き上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。