036 希望の情報
夕食の完成を待つ間、ペットの能力差を調べていた。
といっても、俺達が何かするわけではない。
美咲と麻衣が料理に励み、俺と由香里はダイニングでまったり。
頑張るのはジョーイとルーシーだ。
指示に従ってアイテム拾いの旅に出ている。
ジョーイは既に戻っていて、残すはルーシーだけだ。
「キィー!」
「お、ルーシーも戻ってきたぞ」
「アイテムを拾ってきている。可愛くて賢い」
ルーシーは水晶玉を掴んでいた。
見た目はジョーイが掘り当てた物と同じだ。
それを由香里に渡した。
「由香里、ポイントの獲得量はどうだ?」
「ジョーイと一緒くらい」
「効率も大して変わらないねー!」と麻衣。
「すると、餌代と能力は比例していないということか」
「餌代による違いってなんだろうね」
麻衣はニンジンの切れ端をジョーイにあげた。
「ワゥン」
ジョーイは甘えるような声で鳴いてニンジンを食べる。
召喚したステーキ以外も食べられるらしい。
「麻衣さん、あまり勝手にご飯をあげてはダメですよ」
美咲は両手を脇に当て頬を膨らませている。
強めに注意しているのだろうけれど、背丈が小さいので可愛らしい。
だからだろう、麻衣は「ほーい」と流すように答えた。
「キィー!」
ルーシーはテーブルの上に餌を召喚した。
餌はサイコロ状にカットした一口サイズの生肉だ。
ジョーイの時と同じく銀の皿に載っている。
「何の肉だ? 鶏肉か?」
「たぶん」
由香里はゴム手袋を購入した。
直ちに装着し、ルーシーの皿から肉をひとつまみ。
それをルーシーの口に運んだ。
「キィー、キィー♪」
ルーシーは大喜びでペロリ。
あっという間に食べ尽くしてしまった。
「まだ食べたい?」
「キィー!」
「分かった」
由香里は追加の生肉を召喚。
ルーシーはそれも残すことなく平らげた。
カラスと大差ない体格なのに凄まじい食欲だ。
「たくさん食べて偉いよ、ルーシー」
「キィー!」
由香里とルーシーが独自の世界を形成している。
邪魔するのは野暮なので、俺はスマホを触ることにした。
とりあえずグループチャットを開く。
溜まっているログを漏らすことなく読んでいった。
(当然といえば当然だが、思ったより皆の動きが速いな)
他所のギルドでは統廃合が進んでいた。
数日前まで100個はあったギルドが、今日の時点で20個程度に。
とはいえ、距離の問題があるので今後は落ち着きそうだ。
「みんな、残念なニュースがあるぞ」
「どしたー?」と振り向く麻衣。
「レンタル船で脱出しようとした2チームだが、どちらも失敗したようだ」
「ありゃま」
俺達と同じく霧を突破できずに終わっていた。
この報告を受けて、数チームが脱出計画の見送りを表明している。
残っているギルドは検証班のみ。
ただ、このギルドは現状だと脱出にそれほど本腰を入れていない。
どうして霧が発生するのか、どうして気がつくと逆走しているのか。
その点を解明することがメインのようだ。
「検証班は期待薄だが……って」
ある発言が俺の目を釘付けにした。
「そういえばそうだな。何もかもが異常過ぎて気づかなかったが……たしかにおかしいな」
「どうかしたのですか?」
美咲が俺の前にお茶を置いた。
「島のサイズがおかしいって指摘している奴がいるんだよ」
「島のサイズ?」
美咲は残りの作業を麻衣に任せ、俺の向かいに座った。
「この島ってかなり広いだろ? 正確な規模は分からないが、〈地図〉を見ている限り東西の長さは約250キロはある」
「はい」
「これはおおよそ四国と同程度なんだ」
「ふむふむ……。それで、何がおかしいのですか?」
「それだけ大きな島が駿河湾にあることだよ。島の位置がゴーグルマップの情報通りだとしたら、この島は日本の本土に当たっているんだ」
「あ……!」
美咲も気づいたようだ。
それでも俺は続けた。
「ゴーグルマップによると、俺達のいる場所から日本の本土までは東西のどちらへ向かっても約15キロの距離だ。島の大きさと本土までの距離が全く一致しない」
「言われてみればそうですね……」
「つまりこの島は駿河湾には存在しないってこと?」
麻衣が美咲の隣に座った。
話に参加したくて調理を中断したようだ。
「グルチャでは三つの仮説が候補に挙がっている」
「三つも?」
「一つは麻衣の言ったように駿河湾には存在しないって説。ただしその場合、ゴーグルマップの情報がおかしな点は説明がつかない」
「GPSの情報を偽装しているんじゃないの?」
「かもしれないが、偽装先を駿河湾にするのは理解できない。鳴動高校集団失踪事件の時は偽装なんてしていなかったわけだしな」
「たしかに……」
「二つ目は島や俺達が異常に小さくなっている説だ」
「小さくなるって、トラえもんのミニミニライトみたいな?」
「そうだ。ゴーグルマップの情報は間違っていないが、謎の力によって超絶的に縮小化されてダニみたいなサイズになっているのではないかと」
「そんなのありえないっしょ!」
「とは言い切れないのが現状だからな」
「まぁ……そうだね。で、三つ目は?」
「異次元の駿河湾に存在しているのではないか」
「あーね」
「個人的にはこの異次元説が正しいだと思っている」
島はゴーグルマップの情報通り駿河湾にある。
しかし、次元が違うので日本の本土に当たることはない。
それが三つ目の仮説であり俺の考えでもあった。
鳴動高校集団失踪事件とも辻褄が合う。
「私もそう思う! 他の人はどんな感じなの?」
「グルチャを見る限りなんともだな。色々な意見が飛び交っているが、『どうでもいい』というのが大半の本音だと思う。正解がどうであれ脱出できないことに変わりないわけだからな」
「それもそうだね……」
「脱出の糸口が掴めないのは困りますね」と美咲。
「一応、眉唾レベルの情報なら出ているんだけどな」
麻衣と美咲が「えっ」と驚いた。
ルーシーを撫でてはニヤけていた由香里も俺を見る。
「体育会系の連中が言うには徘徊者の中にボスが存在するらしい」
「ボス?」
「厳密にはボスじゃなくてゼネラルタイプらしいが、連中は『ボス』と呼んでいる。【戦士】のレベルが10になると〈地図〉で居場所を確認できるそうだ」
「それが脱出にどう関係あるの?」
「このボスが異様に強いだけでなく一体しかいないらしい。だから、体育会系の奴等はゼネラルタイプがラスボスなんじゃないかと言っている」
「ラスボスってことは、倒せば日本に帰れるわけだ!」
「というのが彼らの仮説だ」
「ありえるんじゃないの? たった一体しかいない徘徊者とか絶対に怪しいじゃん!」
麻衣はボスの討伐に乗り気なようで前のめりになっている。
「怪しいのは確かだが俺達には無縁だ」
「なんでよー」
「戦力が低すぎる。ゼネラルタイプ以前に防壁から打って出て徘徊者を蹴散らすのですら絶望的だ」
「たしかに……」
「それにゼネラルタイプはとんでもなく強い。なんたって体育会系のギルドが敗走したくらいだ」
「マジで!? 朝はそんな話出てなかったけど」
「この情報が出たのはついさっきだからな。たぶんレンタル船での脱出が失敗するのを見越して伏せていたのだろう。眉唾レベルのネタであったとしても、ゼネラルタイプを倒せば日本に帰れるかもしれないって思えばムードが良くなるからな」
その辺の気配りはコミュ力に長ける体育会の本領だ。
「そんなわけだから、俺達にできるのは他所の連中がゼネラルタイプを倒すよう祈るくらいだ」
「残念だけど仕方ないねー」
麻衣が「よし、休憩終わり!」と立ち上がる。
それに美咲も続き、二人は調理を再開した。
「ゼネラルタイプの討伐、大変だろうけど頑張ってくれよっと」
俺にできることと言えば情報の発信くらいだ。
グループチャットでペットを飼ったと報告しておいた。
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