035 散歩
皆で仲良くジョーイと散歩する。
目的地は特になく、拠点周辺の森を適当に歩く。
「犬ってのは他のもこんなに賢いものなのか?」
「いえ、ジョーイは特別だと思います」
驚くことに、ジョーイはリードやハーネスを必要としなかった。
暴走する様子もなく尻尾を振りながら俺達の前を歩いている。
首輪もしていないので、日本で見かけたら野良犬と見間違いそうだ。
「今のところ探索タイプらしいことは何もしていないね」と麻衣。
「可愛いからそれでいい」
由香里はジョーイの後ろ姿を見て頬を緩ませている。
彼女が感情を表すのは珍しい。
改めて動物の力は偉大だと思い知らされた。
「ジョーイがただ歩いているのは命令していないからかもな」
「ではお願いしてみましょうか?」
さりげなく「命令」を「お願い」に訂正する美咲。
俺は苦笑いで「頼むよ」と返した。
「ジョーイ、何か探してください」
「ワンッ!」
ジョーイが土の匂いを嗅ぎ始めた。
それから斜め前に向かって一鳴きし、その方向へ進んでいく。
先程よりもペースが上がった。
テクテクと軽快に進んでいく。
が、ほどなくして止まった。
またしても地面の匂いを嗅ぐ。
「ワンッ!」
方向を変えるようだ。
再び進路が斜めになった。
「何を調べているんだろーね?」
「楽しみです」
「頑張れ、ジョーイ」
女性陣はウキウキでジョーイの後に続く。
三人はジョーイに夢中で周りのことが見えていない。
周囲の警戒は俺が引き受けることにした。
(あれは……)
遠目に魔物を発見。
ジョーイが進路を変えなかったらぶつかっていた。
「ワンッ! ワンッ!」
さらに歩くこと数分、ついにジョーイが止まった。
そこは周囲に木々があるだけの何もない場所。
しかし、ジョーイはその場から動かない。
命じられてもいないのにお座りして美咲を見ている。
「ここに何かあるのですか?」
「ワンッ!」
「ジョーイの反応を見るに土の中が怪しいな」
「掘ってみようよ!」
「いや、待て」
俺は美咲に向かって言う。
「ジョーイに見つけた物を自分で持ってくるように頼んでみてくれ」
「分かりました」
美咲は頷き、ジョーイにお願いする。
「ワンッ!」
ジョーイは犬かきで穴を掘り始めた。
一分もしない内に地中から水晶玉が出てきた。
「お宝じゃん!」
「すごいです、ジョーイ」
「賢い」
「ワンッ!」
ジョーイは水晶玉を咥えると、それを美咲の前に置いた。
「お願いしたら調達までやってくれるってよく分かったね」
と、俺を見る麻衣。
「分かっていたわけじゃないよ。ただ、最初に美咲が出した命令……じゃなくてお願いが『探して』だったから、『持ってきて』に変えたらどうなるか知りたかっただけさ。ジョーイは賢いから違いが分かると思ってな」
美咲が足下の水晶玉を拾うと、それはスッと姿を消した。
「ポイントは入ったか?」
「2万pt程ですが、アイテムを獲得したという名目で入っていました。あと、【調教師】というスキルを習得したようです」
【調教師】の効果は、ペット関連の獲得ポイントに補正がかかるというもの。
10レベル以降の追加効果が今から楽しみだ。
「そういや由香里、【狩人】って10になるとどんな効果が付くんだ?」
由香里の【狩人】レベルは17と群を抜いて高い。
「〈地図〉に付近の魔物が表示されるようになる」
「索敵か」
「うん」
この付近は魔物の数が少ないから役に立ちそうだ。
ただし……。
「索敵はジョーイもできそうな気がするな」
「マジで!? ジョーイってそんなに優秀なの!?」
驚く麻衣。
「三人は気づいていなかったと思うけど、ジョーイはここへ来る際、意図的に魔物を避けていたからな。魔物の位置が分からないとできない動きだ」
「なら魔物を捜すようお願いしたらできそう! 美咲、試してみてよ!」
「分かりました――ジョーイ」
「ワンッ!」
案の定、ジョーイは動き出した。
そして、すぐ近くの茂みに潜んでいた角ウサギを見つけ出す。
「ワンワンワンッ! ワンッ! ワンワンッ!」
角ウサギを威嚇するジョーイ。
戦う気はないようで一定の距離を保っている。
ただ、命令すれば戦いに参加してくれそうな気がした。
「任せて」
由香里が驚異的な速射で仕留める。
「本当に何でも探せるんだねー、ジョーイは!」
「賢い子です」
麻衣が「偉いぞー」とジョーイを撫でた。
「ジョーイ、お腹は大丈夫ですか? 何か食べますか?」
「ワンッ!」
ジョーイは「食べたい」と言いたげに鳴く。
すると次の瞬間、彼の前にステーキが召喚された。
しかも上品な銀の皿に載っている。
「おいおい、犬にステーキを食わせるつもりかよ」
「いえ、私じゃありません」
美咲も驚いていた。
「なら麻衣の仕業か」
「私じゃないし! だってほら、スマホ持ってないでしょ!」
両手を振ってみせる麻衣。
たしかにステーキを買うことはできない。
俺と由香里にしたってそうだ。
「じゃあこのステーキは……」
「ジョーイ、あなたが召喚したのですか?」
「ワンッ!」
イエスらしい。
ジョーイは上機嫌でステーキを頬張り始めた。
むしゃむしゃと豪快に食べていく。
完全に平らげると、残った皿は勝手に消えた。
「自分のメシを召喚できるとは恐れ入った」
「天才じゃん!」
「でも栄養バランスが心配ですね。ジョーイ、偏った食事は体に悪いので気をつけてください」
「ワンッ!」
これで探索タイプのペットについて分かった。
「もうじき日が暮れるし戻るとしよう」
麻衣と美咲が同意する。
一方、由香里は――。
「風斗、私もペットを飼いたい」
ジョーイを見ていて我慢できなくなったようだ。
「まさかの発言だな。そういうことは麻衣が言うと思ったぜ」
「私をなんだと思っているんだー! ……って言いたいけど、たしかに私もジョーイを見ていて自分のペットが欲しいと思ったんだよね」
俺は「だろ」と笑い、それから由香里を見る。
「飼うなら生産タイプでいいか?」
生産タイプは乳牛や鶏などで、餌代が1000ptないし1万ptと安い。
だが、由香里は首を横に振った。
「ハヤブサがいい」
そういえば由香里は鷲を飼いたがっていたな、と思い出す。
鷲の餌代が25万と高いのでハヤブサにしたのだろう。
ハヤブサなら7万で済む。
「どうしても欲しいのか?」
「欲しい。探索タイプが一緒だと狩りも捗る」
「【狩人】の効果で敵の位置は分かるだろ」
「スマホを見る必要があるから、弓で戦う私には不便」
なかなか強引な言い分だが、どうしても欲しいなら仕方ない。
「ちょっと待ってくれ、考える」
スマホの電卓を使って収支が大丈夫か計算することにした。
まずは一日の稼ぎを見よう。
ペットボトルトラップは約10万。
設置数はまだまだ増やせるから、今後も右肩上がりで増える。
石打漁は2~30万が現実的なライン。
ひたすら頑張れば5~60万は目指せるがその気はない。
大量販売した槍の不労所得が2~3万。
これは今後減っていく可能性が高いだろう。
料理でも稼いでいる。
美咲がメインで作ると1食につき4~5万。
1日3食なので13万程度と考えるといいだろう。
誰かがアシスタントに入れば相棒効果でさらに伸びる。
狩りは由香里が担当する。
今日は漁の都合でお休みだったが、明日以降は稼働予定だ。
本人曰く、「日に50万ptは余裕」とのこと。
ただ不明な点も多いので、少なめに見積もって30万としよう。
あとはデイリークエストが4人分で20万。
徘徊者戦はムラがあるのでノーカウント。
すると、俺達が1日で稼ぐ額は約100万だ。
悪天候で作業が難しい場合も考慮して約80万としよう。
次に出費だ。
防壁の強化を毎日3回するので30万。
ジョーイの餌代で10万。
ハヤブサを飼えばさらに7万。
計47万。これが固定費。
ここに食費や雑費が加わる。
なんだかんだ含めると60万は使うだろう。
「飼えないことはないが……」
「だったら飼ってもいい?」
財政的にはもう少し余裕がほしい。
ハヤブサの餌代7万が地味に効いている。
だが、まぁいいだろう。
今は仲間のやる気を高めることが大事だ。
それに、作業内容が同じなら収入は日に日に増えていく。
スキルレベルが上がるからだ。
「いいだろう、ハヤブサを迎えるといい」
「よかったねー、由香里!」
由香里は麻衣に向かって、「うん!」と笑顔で頷いた。
思わぬ好反応に麻衣は驚き、「お、おおう」と言葉を失う。
「召喚するね」
由香里はウキウキした様子でスマホを操作。
「キィー!」
真っ白なハヤブサが召喚された。
これまた成体で、大きさはカラスと同程度。
由香里の肩に乗っている。
「ハヤブサって白いんだな。黒いイメージがあった」
「種類による。この子はシロハヤブサだよ」
「性別は?」
「女の子」
麻衣が「名前は決めた?」と尋ねる。
由香里は口角をやや上げて頷いた。
「女の子だからルーシー」
「ルーシーちゃんかー! いいじゃん! ルーシーちゃん!」
麻衣がルーシーの背中を撫でる。
ルーシーは翼を広げて「キィ!」と鳴いた。
威嚇しているのではなく喜んでいるようだ。
「可愛いですね、ルーシーちゃん」
美咲は人差し指でルーシーの頭をナデナデ。
「風斗、無理言ってごめん、ありがとう」
「かまわないさ。その代わり明日からガンガン稼いでもらうぜ」
「任せて」
由香里は今までで一番の笑みを浮かべた。
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