026 予期せぬ収入源

「そんなに驚いてどうしたんだ? まさか麻衣のほうも――」


「リヴァイアサンを倒したことがバレてるよ!」


 麻衣は俺の言葉を遮り興奮気味に言った。


「バレているだと!?」


 グループチャットで確認すると、たしかにバレていた。

 栗原チームのメンバーが暴露していたのだ。

 クリア済みの緊急クエストは攻略者の名前が分かる仕様らしい。


「面倒なことになったな……」


 グループチャットでは俺達に対する質問が飛び交っていた。

 三人だけでどうやって倒したのか。

 その答えを誰もが知りたがっており、収拾する気配がない。


「どうする? 無視する?」


 麻衣が尋ねてくる。

 美咲は判断を委ねるつもりのようで、何も言わずにこちらを見ていた。


「いや、バレた以上は仕方ない。情報をオープンにしよう」


 俺はチームを代表して答えることにした。

 バリスタの使用だけでなく、具体的な戦い方まで説明する。


 皆は「すげぇ!」やら何やら大興奮。

 果てには俺を天才扱いし始めた。

 本気で英雄視している者も少なくない。


 問題は落ち着いた後だ。

 案の定、今度はバリスタを売ってくれと言い出した。


「今度こそ材料費に少し上乗せした額で売りなよ! 脱出に挑戦するからお金が必要って言えば角が立たないって!」


 麻衣が念を押すように言うが――。


「申し訳ないが、売るなら材料費と同額で売るよ」


「なんでよぉおおおお!」


 大袈裟に崩れ落ちる麻衣。

 その姿に笑いながら、俺はこう続ける。


「ま、売る気はないけどな」


「え? そうなの?」


「槍と違ってバリスタはネットの作り方をそのまま参考にすりゃいいからな。独自の工夫は何もしていない。俺達も各々で作ったけど、クオリティは全く同じだったろ?」


「たしかに」


「それに他人から買ったバリスタじゃ俺達の作戦は使えない」


「そっか! 自分で作らないと〈マイリスト〉に登録できないんだ!」


「そういうこと」


 俺は今言ったことをグループチャットでも説明した。

 それからバリスタの作り方が載っているサイトのURLを教える。

 ついでに、「自分で作れば完成時にポイントが入るし、【細工師】のレベルも上がるから安易に買わないほうがいいよ」とアドバイス。


 再び皆から感謝された。


(俺の評価が留まることなく上がっていくな……)


 悪い気はしないが、何だかむず痒くて妙な感覚だった。


「ほんと風斗はお人好しだなぁ」


「お人好しか? 普通だと思うけど」


「いやいや、お人好しでしょ! 損得勘定とか無さそう」


「それが風斗君のいいところですね」と微笑む美咲。


「自分じゃそんな風に思わないけどなぁ。それよりメシにしようぜ」


 美咲から紙皿を受け取る。

 シーフード各種が焼き上がり、最高の香りを放っていた。


「「「いただきまーす!」」」


 立ったまま食べる俺達。


「このエビ美味しい!」


「ホタテもいけるぜ」


「少し焼き過ぎましたが、食材がいいのでどうにかなりましたね」


 しばらくの間、無心になってBBQを堪能した。


「ところで風斗、さっきは何に驚いていたの?」


「何のことを言っているんだ?」


「ちょうど私と被ったけど、風斗もスマホを見て何か驚いていたでしょ」


「ああ、そのことか」


 すっかり忘れていた。

 俺は割り箸と紙皿を左手で持ち、右手でスマホを操作する。

 〈履歴〉を開いて二人に見せた。


「これを見て何か気づかないか?」


 ゆっくりログをスクロールしていく。

 先に気づいたのは麻衣だ。


「なんか変なポイントが発生してるじゃん!」


 そう言って彼女が指したログこそ、俺の驚いたものだ。


=======================================

・真栄田しげるがフルメタルスネークを倒した:721ptを獲得

・スキル【細工師】のレベルが7に上がった

・柴内慎吾がホーンラビットを倒した:157ptを獲得

=======================================


 他の生徒が魔物を倒し、そのポイントが何故か俺に入っている。

 それも一件二件ではなく数十件もあった。


「これって表示のバグ?」


「いや、バグじゃない。実際に【細工師】レベルは7に上がっているし、ポイントもきちんと増えている」


「えー、なんかズルじゃん!」


「そう言われてもな……」


 この異常事態のおかしな点は他にもあった。

 魔物を倒したにしては獲得するポイントが少ないことだ。

 角ウサギことホーンラビットは自分で倒すと1万ptになる。

 スキルや相棒効果を含めたらそれ以上だ。

 なのに、〈履歴〉を見ると150pt前後しか入っていない。


「原因は分からないけど、誰かが魔物を倒したら俺にポイントと【細工師】の経験値が入る。そしてそれらは自分で稼ぐよりも遙かに少ない」


 まとめるとこういうことになる。


「私のほうはそんなポイントないよ?」


「私もです」


 麻衣と美咲は自身の〈履歴〉を確認した。


「風斗君の日頃の行いがいいから神様がサービスしてくれているのでしょうか」


 美咲の冗談に、麻衣がすかさず「そりゃないっしょ!」と否定する。


「たぶん何か理由があるんだよ!」


「俺もそう思う」


「その謎ポイントはいつから入ってるの?」


「えーっと……」


 ログを遡って調べる。


「今日の朝からだな」


「なら朝に何かしたんじゃない? 思い当たる節はないの?」


「んー」


 少し考えてピンときた。


「分かったぞ! 槍だ!」


「槍?」


「今朝、〈棘の壁〉を解体した時に槍を売ったんだよ」


 俺の槍は安くてクオリティが高いということで追加生産もした。

 最終的に売った数は約300本。


「自分の作った武器で他の人が敵を倒すと、ポイントや経験値が少し得られる仕様なのかな?」


「敵というか魔物限定だろうな。もし徘徊者でもポイントが発生するなら麻衣は気づいていたはずだ。何せ俺は初日、麻衣の作った槍で徘徊者を倒していたからな」


「そっか! たしかに!」


 入ってくるポイントは魔物1体につき150~700pt程度。

 平均は300ptといったところか。


「こりゃ今後は何もしなくても稼ぎまくれるね!」


「まさに不労所得ですね」


「不労所得は嬉しいが、稼ぎまくれるってのは間違いだな」


「違うの?」


 首を傾げる麻衣。


「槍は約300本売ったが、それらがフルに稼働したとしても日に500体程度しか倒されないだろう。大抵の場所じゃ魔物の数が少ないみたいだし、1日に何体も魔物を倒すことはない」


「悪くないじゃん! 平均300ptで500体倒したら15万も入ってくるよ!」


「その15万ってのは可能な限りご都合主義的な想定で算出した数字だよ。実際には100体程が妥当なところじゃないか。徘徊者と戦うために槍を買った奴だっているだろうし」


「よくても日に3万程度しか稼げないってこと?」


「俺はそう睨んでいる。それすらいい数字だ。もっと低い可能性だってある。槍を買った連中が揃いも揃って単独ソロで魔物を狩るならともかく、基本的には相棒を組んで仲間と行動しているからな」


「そう考えたら微妙だなぁ」


「だろ? そうは言っても不労所得はありがてぇ。数万でも入ってくるだけ御の字ってものだ」


 予期せぬ収入源を得たことで、俺達はニッコリするのだった。

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