024 リヴァイアサン
「……とまぁこんな感じだ」
俺は対リヴァイアサンの作戦を説明した。
それを聞き終えた麻衣の感想は――。
「たしかに前提条件さえクリアしていれば成功しそう!」
――前向きなものだった。
美咲も「画期的な案だと思います」と太鼓判。
「ただ、かなり危険な作戦だ。攻撃面はおそらく大丈夫だが、防御面では不安が残る。敵の攻撃を凌ぐ必要が出てくるからな」
リヴァイアサンとの戦いは割に合わない。
報酬の200万は大金だが、命を賭けてまで欲しい額ではないからだ。
ボス狩りなどしなくても日に50万ほど稼げる。
スキルレベルが上がるので、今後の稼ぎは更に増えるだろう。
200万なんて額は今ですら3~4日分の収入に過ぎない。
「分かっていると思うが、リスクを考えるなら戦う価値はない」
「でも私は戦いたいんだよね。怖いけどワクワクするし、倒し甲斐だってあるじゃん? 誰も倒したことのない敵って」
「俺は自分の作戦が通用するか試したいって気持ちが強い」
「私も風斗君の作戦を試してみたいです」
「ふっ、つまり三人とも馬鹿ってことでいいな?」
麻衣と美咲が笑いながら頷く。
「決まりだ」
栗原達が数十人で挑んで手も足も出なかった巨大なボス。
そんな相手に、俺達はたった三人で挑むことにした。
◇
まずは作戦が通用しそうか調べよう。
俺は単独でクエストを受けることにした。
「準備はいいか?」
始める前に麻衣と美咲を見る。
二人はそれぞれ離れた位置でスマホを構えていた。
「いいよー!」
「こちらも大丈夫です」
「始めるぜ」
緊急クエストを受注。
「フシャアアアアアアアアアアアアア!」
リヴァイアサンが現れた。
その瞬間、後方からシャッター音が二度響く。
二人が撮影したのだ。
俺はすかさず後退し、リヴァイアサンを消す。
その後も同じ要領で何度か撮影する。
クエストを受ける度に、俺は立ち位置を変えた。
「このくらいでいいだろう」
何度目かの撤退が終わったところで二人と合流。
撮影結果を見せてもらう。
麻衣は敵の位置を、美咲は俺の位置を撮影していた。
「思った通りだな」
リヴァイアサンの位置が常に同じだったのだ。
出現時から俺が撤退し終えるまで変わらない。
そんな気はしていた。
栗原達が戦っている時、敵は少しも動いていなかったのだ。
出現時から消える瞬間まで同じ位置だった。
俺の考案した作戦の前提条件――。
それが「敵がその場から動かないこと」だ。
加えて、出現場所まで毎度同じだと分かった。
寸分の狂いすらなく、常に同じ場所に同じ向きで現れる。
俺が敵の斜めに立っていようが、出現時の敵は正面を向いていた。
骸骨戦士もそうだったが、緊急クエストの敵は機械のように正確だ。
「これって最高に理想的な条件だよね!?」
「そうだな」
作戦の成功はほぼ確定したようなものだった。
◇
戦闘に備えて、俺達は武器を作ることにした。
栗原の作戦に誤りがあるとすれば、それは武器の選択だろう。
和弓などという上級者向けの武器を選んだのは致命的なミスだ。
初心者が使うならクロスボウのほうがいい。
栗原のチームがクロスボウに思い至らなかったとは考えにくい。
採用しなかったのには何かしらの理由があるのだろう。
作り方が分からなかったのか、それとも威力が足りなかったのか。
なんにせよ、おかげで俺達にチャンスが回ってきた。
有効に活用させてもらうとしよう。
「完成したぞ」
「こっちもできたよん!」
「私も作れました」
俺達が作った武器は――バリスタ。
古代の戦争で使われていた据え置き型の大型弩砲。
和弓よりも更に大きくて、且つ破壊力のある兵器だ。
和弓と違って誰でも簡単に扱える優れ物。
バリスタの作り方はネットで調べたらすぐに見つかる。
古代兵器なので構造が単純だし、材料さえあれば作るのは簡単だ。
材料は〈ショップ〉で調達するので問題ない。
さながらプラモデルを組み立てるような感覚で作ることができた。
パーツの数が少ないので材料費も安く済んだ。
装填している矢も含めて1台につき約5000pt。
自作の場合はパーツの数がコストに直結する。
製作したバリスタは〈マイリスト〉に登録しておいた。
これで壊されても簡単に復元できる。
「準備はいいかな?」
三方向に展開して照準を定める。
「いつでもいいよー!」
「こちらも問題ありません」
いよいよ戦闘の時――。
「始めるぞ」
俺は緊急クエストを受注した。
「フシャアアアアアアアアアア!」
何度となく見た登場シーン。
幻想的で威圧的な大蛇が俺達を睨む。
「撃て!」
それらは目にもとまらぬ速度で一直線に飛び、リヴァイアサンを貫いた。
「グォオオオオオオオオオオオ……!」
リヴァイアサンが痛みにもがいて頭部を振り回す。
それでも湖に面しているとぐろの部分はまるで動いていない。
「まだ生きているぞ! 二発目をお見舞いしてやれ!」
矢の装填はスマホで行う。
バリスタにカメラを向けて〈マイリスト〉を開き、復元を実行。
使用前――つまり矢の装填された状態に戻った。
「食らいやがれ!」
間髪を入れずに第二射をお見舞いした。
敵がその場から動かない為、これもしっかり命中。
リヴァイアサンの巨躯に無数の風穴が開く。
そこから毒々しい色の血が滝のように流れていた。
しかし、戦闘はまだ終わらない。
二度目の攻撃でも倒しきることはできなかったのだ。
驚くべき生命力である。
「これでも死なないの!?」
「凄まじい耐久度ですね……」
「こんな化け物が報酬200万はおかしいだろ」
愕然としつつ、次の攻撃準備に移る。
ダメージを与えていることはたしかだ。
このまま戦えばいずれ勝てる。
俺達の資金か敵の命、どちらが先に尽きるかのチキンレースだ。
――と、そこへ。
「グォオオオオオオオ……!」
リヴァイアサンが大きく仰け反った。
「――! 来るぞ! 攻撃だ!」
すかさずバリスタを放棄して回避態勢に入る。
限界まで距離を取れば水の塊を避けるのに苦労しない。
というのが俺達の考えだったのだが、しかし――。
「嘘!? 水の塊じゃないじゃん!」
「他の攻撃パターンもあったのかよ!」
リヴァイアサンの口から放たれたのは水のレーザーだった。
右から左へ半円状に薙ぎ払っていく。
俺達の設置した三台のバリスタが同時に破壊された。
「知らない攻撃だが問題ない。作戦続行だ!」
再びバリスタを設置。
照準を敵に定める。
「グォオオオオオオオオオ!」
リヴァイアサンが攻撃態勢に入る。
「させるか!」
定まりきっていない照準で攻撃。
矢は敵に向かって飛んだが、残念ながら少し逸れた。
直撃ではなく鱗にカス当たりだ。
それでもリヴァイアサンの攻撃を中断させるのに成功した。
「今だ! 撃て!」
二人が両サイドから狙撃する。
これらの攻撃は敵の胴体を的確に捉えた。
「グォォ……」
リヴァイアサンが倒れた。
巨大な頭部が湖の外――前方の地面に横たわる。
半開きの口から長い舌を伸ばし、目を瞑ったまま動かない。
「消えないってことは生きているんだ。追撃するぞ!」
もう一押しで屠れる。
しかし、ここで問題が発生した。
「風斗、ポイントが足りなくて復元できない!」
「こちらもです!」
「クソッ、俺もだ!」
矢を装填するだけのポイントすら残っていなかった。
朝食後すぐに来たことが響いている。
結果論だが、来る前にいくらか稼いでおくべきだった。
「勝てることは分かったしポイントを貯めて出直そうよ!」
麻衣が現実的な提案をするが、俺は首を横に振った。
「ダメだ! クエストをキャンセルすると回復しちまう! 次もここまで上手く事を運べるとは限らない!」
ここで撤退するとこれまでの努力が水の泡になる。
「俺に任せろ!」
「風斗君!?」
「ちょ、何をするつもり!?」
「敵は陸にダウンしているんだ。ならば――!」
俺は鞘から刀を抜いて駆け出した。
「敵に斬りかかるの!?」
「危険だからやめてください!」
二人の制止を振り切る。
というより、体が勝手に動いて止められなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
死ぬ気で距離を詰め、全力で頭部を斬りつけた。
リヴァイアサンは目をカッと開き、「フシャア!」と悲鳴を上げる。
そして――この世から姿を消した!
「消えたってことは……私達、もしかして……」
俺は「ああ」と頷いた。
「勝ったんだよ! 俺達は勝利したんだ! 巨大な蛇に!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
両手に拳を作り、天に向かって勝ち
「すごいよ風斗! 本当に勝っちゃったよ!」
麻衣が駆け寄ってきて、勢いをそのままに抱きついてきた。
遅れて美咲もやってきて、恥ずかしそうにしながらも加わる。
三人で抱き合い喜びをかみしめた。
「まさか本当に勝てるとはな」
自信はあったが、確信はなかった。
しばらくの間、大興奮で勝利を讃え合った。
「さて、報酬を確認するか」
落ち着いたら〈履歴〉を調べる。
「よし、ちゃんと200万ptを獲得したぞ。いや、それ以上の稼ぎだ」
「それ以上?」
「クエスト報酬とは別に討伐報酬もかなり入っている。骸骨戦士と違ってリヴァイアサンは倒すとポイントが発生するようだ。討伐報酬は二人にも入っていると思うぜ」
麻衣と美咲が自らのスマホを確認する。
「本当だー! めちゃ入ってる!」
討伐報酬は諸々の補正込みで約150万。
「見て見て! 【狩人】のレベルがすごいことになってる!」
麻衣に言われて気づいた。
【狩人】のスキルレベルが2から9へ上がったことに。
スキルを習得していなかった二人ですら5になっていた。
「討伐報酬とクエスト報酬を合わせると約350万。これだけあったら贅沢できちゃうねー!」
麻衣は早くも〈ショップ〉を開いてウキウキしている。
一方、俺は真剣な顔をしていた。
「今回の稼ぎについてなんだが――」
「ん?」と、こちらを見る麻衣。
「――船の購入に充てないか?」
「船? 風斗、それって、まさか……!」
二人がハッとする。
「そう、そのまさかだ」
俺は二人の目を見て言う。
「島を出よう――日本へ帰るんだ!」
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