008 徘徊者対策
徘徊者対策を講じることにした。
実際に現れるかは不明だが、備えあれば憂いなしというもの。
それに気になる点があった。
「一見すると【HP】のほうが良さげだけど、【防御力】のほうがいいのかな? 風斗はどう思う?」
「分からないな。どっちも強化費が10万もするから今回はパスしよう」
「私、少しだけどポイント余ってるよ。必要なら〈取引〉で渡すけど」
「いや、遠慮しておく。防壁を強化したらポイントがカツカツになる」
拠点は防壁に守られている。
獲得前に侵入を阻んだ見えない壁――あれが防壁だ。
今は設定で可視化したので視認できる。
入口に半透明の青いバリアが張られていた。
防壁にはステータスが存在する。
項目は【HP】と【防御力】の二つ。
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【H P】135,000
【防御力】1
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HPが6桁あるのに対し、防御力は1桁。
どうしても防御力が貧相に見えてしまう。
実際にどちらを強化するのが正解かは不明だ。
ポイントを払って強化した場合、HPは7万、防御力は1増える。
上昇率だけ見るとHPより防御力のほうが上だ。
ただ、仕様が分からない現状では、上昇率を見ることに意味はない。
多くのゲームだと、防御力が1だけ増えても変化は感じられないものだ。
上昇率で勝っていても効果は微妙、という可能性だって大いにあり得る。
「鳴動高校の人らが転移した時も防壁のステータスってあったのかな?」
俺は「いや」と首を振った。
「たぶんなかったと思う。そういうワードが一切出てこないし」
防壁のステータスについても、先人のサイトには載っていなかった。
ただ、防壁自体が存在していたことを示す記述は散見された。
拠点があれば徘徊者は何の問題もないという認識だったようだ。
「さて、作業を始めるとしよう」
「肉体労働とか私らしくないなぁ」
「俺だって慣れていないさ、一緒一緒」
俺達はシャベルで穴を掘る。
洞窟を出てすぐ、防壁のぎりぎり範囲内で。
徘徊者対策の一環として観音開きの門扉をこしらえるためだ。
門扉を作り方はそう難しくない。
まずは適当な深さの穴を両サイドに掘る。
掘った穴に基礎となるブロックを埋め、そこに鉄の柱を挿す。
それが済んだら穴に自作のコンクリートを流し込んで固定。
左右の柱に木の扉を取り付けたら完成だ。
楽に開閉できるよう、扉には取っ手やコマを付けておいた。
これらの作業は現代の高校生なら誰でも知っている。
――というのは嘘で、俺達はインターネットに頼った。
ネットで検索するとDIYの解説サイトがごまんと出る。
「お、ポイントが入ったぞ」
「本当だー!」
自作の門扉を作ったことでポイントが発生。
獲得額は相棒補正込みで約3,000pt。材料費の3割に相当する。
ついでにスキル【細工師】も習得した。
道具を作った際の獲得ポイントに補正がかかるらしい。
補正はレベル1だと+10%。【漁師】や【狩人】と同じだ。
「風斗、グループチャットに上がっている情報は確認した?」
「〈マイリスト〉のことか?」
「そうそう!」
〈マイリスト〉もサイトには出てこなかった仕様の一つ。
リストに登録したアイテムを〈ショップ〉と同じ感覚で召喚できる。
また、召喚したアイテムを登録時の状態に復元することも可能だ。
ただし召喚は有料で、必要なポイントは〈ショップ〉より高い。
なので、〈ショップ〉で買えるアイテム――グループチャットでは「既製品」と呼ばれている――ではなく、自分で作ったり拾ったりした物を登録するのがいいだろう。
他人が作った物はリストに登録できないので、その点は注意が必要だ。
「試してみようよ、せっかく門扉を作ったんだし」
「賛成だ」
まずはできたてほやほやの門扉を〈マイリスト〉に登録。
基礎のコンクリが固まりきっていない点は目を瞑ろう。
次に召喚を試してみることにした。
「召喚代は材料費と全く同じぽいね」
「自分で作る手間を省けるわけか。作った際に得られるポイントやスキルの経験値を諦める代わりに」
召喚ボタンを押すと、登録した門扉と全く同じ物が現れた。
「で、召喚した門扉はどうする? 私はノープラン!」
「売ればいいんじゃないか、格安で」
〈販売〉を使えば、不要な物を出品することが可能だ。
これは先人の環境にもあったシステム。
「出品したよー! あれ、消えないね?」
「仕様が異なるのだろう」
出品中のアイテムは異次元に消える――とサイトには書いていた。
先人らはこの仕様を利用して荷物の運搬を行っていたようだ。
ただ、俺達の場合は消えずにそのまま残っていた。
などと思っていると、突然、門扉が消えた。
「消えるまでにタイムラグがあるのか」
「ううん、売れたから消えたんだと思うよ」
「もう売れたのか」
「桁間違いを疑いそうなくらい激安で出したからね」
こうして不要な門扉を捌いたら、最後に復元機能の実験だ。
門扉の取っ手を外してから復元を選択。
カメラモードが立ち上がったので門扉を指定。
復元に必要なポイントが表示された。
「復元代は損傷具合によって異なるぽいな」
「そうなの?」
「ぴったり取っ手の材料費が請求されているから間違いないと思う」
これで〈マイリスト〉の使い方は把握した。
折角なので門扉の開閉具合も確認しておく。
「よしよし、いい感じだ」
作りたてということもあって滑らかだ。
「あとは念の為に門扉の奥にも柵を立てたいところだが……」
スマホの時計を確認。
時刻は17時過ぎで、太陽が休む準備を始めていた。
「日が暮れる前に辺りを散策しよう。魔物がいたら倒してポイントを稼ぎたい」
麻衣は「えー」と気乗りしない様子。
「私、もうクタクタなんだけど」
「なら一人で行ってくるよ。麻衣は拠点で適当に過ごしていてくれ」
「じゃあサイトに載っている栽培を使ったポイントの荒稼ぎを試してみるね。他所のグループでもやっているみたいだけど」
「それは名案だ」
麻衣がプランター等の栽培セットを購入した。
トマトを育てるつもりだ。
栽培を大規模化すると楽に稼げる――と、サイトに書いていた。
種は数日で育ちきり、収穫するとポイントを得られるとのこと。
数日で実が成るなんて想像できなかった。
「俺はサイトに載っていないことを試してみるよ」
そう言ってマウンテンバイクを召喚する。
〈ショップ〉ではなく〈レンタル〉で調達したものだ。
いくつかの乗り物はこのように借りられる。
レンタル代でいくらか取られるが、買うよりは遙かに安い。
マウンテンバイクは買うと5万ptだが、借りると1日1000ptで済む。
お金がない間はレンタル機能を活用していきたい。
「1時間で戻る予定だが、もし戻らなかったら――」
「ダメ。ちゃんと戻ってきてね。一人じゃ不安なんだから」
麻衣が「分かった?」と俺の目を見る。
「わ、分かったよ」
何故だか小っ恥ずかしくて後頭部を掻いてしまう。
「よろしい! じゃ、行ってらっしゃい!」
「おう! 良い成果を期待していてくれ!」
俺はヘルメットを被り、マウンテンバイクに跨がった。
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