第2話・本当の貞操観念男女逆転世界は……男にとって不幸な世界なのかも知れない

 女騎士が馬波の先に立って、木造アパートの金属階段を鎧の足で金損音を響かせながら上がって、最初の部屋のドアカギを開けると。

 馬波を自分の部屋に案内した。

「まあ、狭い部屋だが入れ。男を部屋に入れたのは、おまえが初めてだ」


 少し殺風景な女性の部屋だった、壁には剣や盾が飾られ。

 フルメタルのアーマーが部屋に立っていた。

「着替えてくる、適当に座って待っていろ」

 そう言うと、首から下鎧の女騎士は奥の部屋に入って行った。

 数分後──鎧を脱いだ、ティーシャツにスパッツという、ラフな格好で女騎士は馬波の前に現れた。

 ティーシャツ姿の女騎士が冷蔵庫を開けて言った。

「ビール……飲めるか、飲むなら出すぞ」

 馬波が飲酒は大丈夫だと告げると、女騎士は自分の分と、馬波の分の缶ビールを取り出した。

 皿にサキイカの乾き物を乗せて持ってきた、女騎士はちゃぶ台の前で胡座あぐらをかくと。缶ビールのプルトップを開けて一口飲んで言った。


「かぁーっ、この最初の一口が最高だな」

 サキイカを食べながら、女騎士が馬波に質問する。

「さてと、あまえはどこから来た? 名前は? 何者だ?」


 馬波は正直に自分の名前『馬波 遊馬うまなみ ゆうま』を名乗り、別の世界から来た風俗ライターだと告げた。

 女騎士は、馬波が男女の貞操観念が逆転していない世界から来たと伝えても、女騎士は特に驚いた様子も無かった。


「そうか、馬波はあの博士の世界から来たのか」

「博士を知っているのか?」

「前に一度だけ会って、話しをしたコトがある……最初は信じられなかったが、女性が通年を通して発情していない世界が本当にあるとはな」


 今度は馬波の方から女騎士に、いろいろと質問してみた。

 女騎士は、王立男性貞操自警団の団長をしている『ヤラ・セルカ』と名乗った。


「王立男性貞操自警団?」

「女王陛下、直属の組織で名称の通り、男性の貞操を守っている」

 そう言って、セルカは部屋の窓を開けると、遠方に尖塔が並ぶ西洋城を見せた。


 セルカの話しだと、この世界は女性の性欲が強いのと、反比例して【男性は結婚するまで貞操を守り、新婚初夜に花嫁に童貞を捧げるのが当たり前の世界】らしい。

 その話しを聞いた馬波が驚く。

「男が婚前交渉をしない、貞操を初夜まで守り続ける世界? オレ、非童貞だけれど……そう言えば、あの女性警察官が言っていた童貞証明書ってなんだ?」


 立ち上がったセルカは、タンスの引き出しの中から免許証のようなモノを持ってきて、馬波の前に置いて言った。

「以前、童貞証明書を返却した男のモノだけれど」

 馬波は、ちゃぶ台の上に置かれた免許証サイズのカードを見る──そこには、しょぼくれた顔の中年男性と、しなびた男性性器の写真が貼ってあった。

 セルカが缶ビールを飲みながら言った。


「この世界では、男はある年齢を童貞のまま通過すると、魔法使いになって『魔法使い証明書』が配布更新される」

「童貞から女性と経験をして、オレみたいな非童貞になったら、どうなるんだ?」

「その時は『非童貞証明書』に新規変更する……さて、馬波は何が目的でこの男女の貞操観念が逆転した、世界に来た?」


 馬波は、別世界風俗のレポートと、女性たちと○○まくって、ハーレム状態の性器末覇者になるために来たと、堂々と告げた。

 馬波の野望を聞いたセルカは、軽く鼻で笑った。

「やめておけ、この世界は馬波が考えているような、男がユートピアの世界じゃない……いずれ、わかるだろう」


 馬波は、この世界に来て、セルカに会った時から感じていた違和感を質問してみた。

「セルカは、どうして発情していないんだ?」

「わたしは、性欲を抑制する薬を飲んでいる……貞操男子を守るためな」

 そう言うと、セルカは錠剤をビールと一緒に飲み込んだ。

 ビールを飲み終わったセルカが言った。

「後で街を案内してやろう……果たして、この世界が馬波が考えているようなパラダイス世界かどうか」


  ◇◇◇◇◇◇


 首下鎧姿で街に出たセルカと馬波は、前方から雑談をしながら歩いてくる、セルカと同じ首下鎧姿の娘集団に遭遇した。

 鎧騎士娘の一人がセルカを見て言った。

「あっ、団長!」

「おまえたち、貞操男子の見廻りか」

「はい、結婚まで貞操を守っている男子が、性欲が強い女たちに襲われていないかと……あっ、支給されている性欲抑制剤はちゃんと飲んでいますよ」

 セルカと鎧騎士娘たちは、肩の金属防具を互いに接触させて金属音を路上で響かせる。


「そうか……」

「そう言えば、女性警察官の『槍田ヰやりたい』がミニパトで団長と、団長が連れて逃げた非童貞の男性を探していましたよ『見つけたら、じっくりと取り調べしてやる』とか言って」

「あの女も、しつこいからな」

 セルカが、馬波 遊馬の背中を押して、鎧騎士娘たちの前に出して言った。

「紹介しよう、別の世界から来た馬波 遊馬だ……非童貞の、○○チンらしい」

「えーっ、非童貞なんですか……この男の人」


 金髪の鎧騎士娘の一人が一歩前に進み出て、馬波に言った。

「あたしの魅力的な体を見て、どう思う……別世界から来た、○○チン男」

 この時、馬波は初めて気がついた。女性に対して自分が思い描いていたような性欲は起きず、むしろ【新婚初夜まで清らかな体で、貞操を守っていたい】という気持ちが強くなっていた自分に驚く。

(なんだ、この変な感覚……非童貞なのに、貞操を守っていたい?)


 鎧騎士娘たちが去ると、セルカが言った。

「わかっただろう、この世界は女の性欲が強くなった分、男の純白貞操観念が強くなる……○○チンで女が寄ってきてハーレム状態なんて不可能なんだよ」


 野望を絶たれた馬波が、セルカの後ろから肩を落として歩いていると、コンビニの前まで来たセルカが言った。

「元気出せ、ちょっとコンビニで休んでいくか」

 鎧姿で店内に入ったセルカが、コーヒーを注文している間、馬波は店内を見て回った。 

 馬波が立ち止まって凝視したのは、通常なら薄々の男性避妊具が置いている棚だった。

 男性の避妊具も少しは置いてあったが、主に売られていたのは女性向けの避妊具だった。

 胎内リング

 殺精剤

 精子検査薬

 そのどれもが、女性用に特化したモノだった。


 馬波は、次に雑誌が並べられているコーナーを覗いてみた。

 馬波の世界では、女性のグラビア表紙が主流だったが、ここでは男性のグラビア表紙が主流だった。

 少し過激なアダルト向けの雑誌を手に取った馬波は、少しぺージをめくって内容を確認する。

 袋とじのぺージの中身は、男性ヌードだった。

 他にも馬波の世界では、男性が興味を持つような女性の性的記事が、すべて男性の性的記事に入れ替わっていた。


 紙コップに入ったコーナーを持って近づいてきた、セルカが言った。

「馬波、その手の雑誌を男が立ち見をしている姿を見たら……さすがにコンビニの女性客は引くぞ」

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