真・貞操観念逆転世界~男は結婚するまで純潔を守り通します~

楠本恵士

第1話・男女の貞操観念が逆転した世界でオレは性器末覇者になる!

 多元世界パラレルワールドを研究している、研究所に風俗フリーライターを名乗る男性が、次元移動装置の調整をしている博士を訊ねてきた。


「博士はすでに、多元世界の確実な存在を発見して、そこへ行ける装置の開発にも成功したんですよね」

 作業を進めながら、博士が言った。

「まあ、そうだな……いろいろな多元世界は、すぐ近くにあったな……複雑な世界になればなるほど、わたしたちの住んでいる世界とは距離があるが」


 フリーライターが博士が調整している、立ち型の日焼けマシンのような機械を指差して訊ねる。

「そのマシンを使えば、別の世界に行けるんですよね」


「そういうコトになるな……よし、焼き切れていた箇所の修理終わりと」

 博士はメンテナンスを兼ねた修理のために、取り外していたカバーをマシンに取り付けて研究所を訪ねてきた……風俗フリーライター『馬波うまなみ』を名乗る男に言った。

「なにか、風俗の記事にするために別世界を体験したくて、この研究所に来たんだろう……どんな世界を見てきたいのか、言えば行かせてあげるよ」


「じ、じゃあ【男女の貞操観念が強烈に逆転した世界】に個人的に興味があるので行ってみたいです」

 馬波の要望を聞いた博士は眉をひそめる。

「男女の貞操観念が逆転した世界? やめておけ、あの世界は君が想像しているような世界とは違う……他の世界を選びなさい、例えば万年最下位だったプロ野球チームが優勝をした世界とか」


「いいえ、男女の貞操観念が逆転した世界をお願います」

 馬波には、ある野望があった。

 貞操観念が逆転した世界なら、言葉は悪いが女とやり放題でハーレム状態だと……記者は思っていた。


 少し考えてからは博士が馬波に訊ねた。

「どのくらいのレベルの【貞操逆転世界】を希望する?」

「選べるんですか?」

「ラーメン屋で麺の固さとか、スープの濃さを選ぶようなモノだ」


「じゃあ【女性が年中、発情している】ような世界を」

「本気か、どうなって知らないぞ」

 馬波が次元移動装置の中に入ると、博士はスイッチを入れた。

 奇妙な唸る音と、振動が機械に発生して。閉じた扉の隙間から眩い光りの筋が迸ったかと思うと、マシンから白い煙が出てきて。

 博士は緊急停止のボタンを押して、機械を止めた。


 フリーライターの馬波が入った次元移動装置の入り口を開けて中を見ると、馬波の姿は消えていて白い霧が充満していた。

 博士が呟いた。

「こりゃあ、直さないと当分使えないな」


  ◇◇◇◇◇◇


 気がつくと馬波は濃霧に包まれていた。

 手で霧を払うと体の周囲を包んでいた霧は、すぐに晴れて普通の現代の街が現れた。

「ここが【女性が年中、発情している】ような貞操観念が逆転した世界? なんか、普通だな」


 馬波が周囲の街並みを見回していると、首から下を甲冑女騎士のコスプレをした女性が、公園の中を通って車道の横断歩道を渡って、こちらに向って歩いて来るのが見えた。

「なんだアレ? イベントのコスプレ撮影会か?」


 馬波の前まで来たコスプレ女は、馬波を頭の先から爪先まで往復して眺めると、剣帯の鞘から引き抜いた長剣の切っ先を馬波の喉元に向ける。

「見慣れない顔の怪しい男だな、答えろどこから来た? 何者だ?」


 美人で痩身の女騎士が、近くの街路樹の枝に向けて振ると、切れた枝葉が歩道に落ちた。

(本物の剣だ⁉)

 馬波が、事情がわからないでいると。今度はミニパトが走ってきて、車道の脇に停車すると運転席から女性警察官が降りてきた。

(今度は、女性警察官? いったい、この世界はどうなっているんだ?)


 馬波は女性警察官に向って言った。

「助けてください、この人、本物の剣を持っています」

 しかし、女性警察官は女騎士には目もくれず、馬波に職務質問をしてきた。

「『童貞証明書』を見せてください」

「童貞証明書? なんだ、それ? 第一オレ童貞じゃなし」

「非童貞? 怪しいな……ちょっと、そこの交番まで来ていただけません。不審物を所持していないか、じっくり身体検査をして確かめるから……はぁはぁはぁ」


 明らかに色情な目に変わった、女性警察官から離すように女騎士は、馬波の手を引っ張って駆け出した。

「逃げろ、あの女に捕まった男は精を搾り取られるぞ」

 馬波の目に、ビル群の向こう側に、綺麗な洋風城の尖塔が見えた。


 背後から女性警察官の声で。

「また、国家公務員の邪魔をするの『王立男性貞操自警団』の団長、その男は逮捕して交番で裸に剥いて、じっくり取り調べするんだから……はぁはぁはぁ」

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