第9話

 いよいよ球技大会が一週間後に迫ったこの日、練習に意気込んでいた皆の気持ちとは裏腹に、今日も雨が降りしきっていた。

 所々で見かけるアジサイの葉をカタツムリが這いずり、そこに雨の水が滴る様子を見ると、本格的に梅雨に入ったのだなと感じさせられる。

 この調子では当日も雨が降ってしまうのではないかと少し不安になっていた。

 雨の日は体育館で男子はバレー、女子はバスケをすることになっていた。

 奥からはバレーボールを強く叩く音が聞こえてくる。ボスッと少し鈍い音と共に跳ね上がったボールの下に潜り込み、トスを上げる。すると助走をつけ高く飛び上がった生徒が、またバチンと音を立てボールを床に叩きつけた。

 こうして外から見るとバレーをしている姿というものはなかなかにかっこいいものなのだなと感じた。

 一方女子はというと、ダムダムと鈍い音を響かせ流動的に試合が展開される。バレーのようなスピード感はないが、常に試合が展開され細かい陣形やパス回しなどで相手にボールを取られないように、いかに早くいかに点数を稼ぐかの戦略が見られるのは見ていて面白いものがあった。

 そしてこの試合を中心となって作っていたのは夏葉だった。やはり夏葉が一番輝けるのはスポーツをしている時なのだなとつくづく実感させられる。

 そんなキラキラと輝いた夏葉の様子を、私はコートの外から一人で眺めていた。こうしているとやはり私にスポーツは向かないなと感じる。

 これまでテニスの練習はまじめにやってきたつもりなのだが、一向に上達する気配がない。

 努力は裏切らないというが、ことスポーツにおいて私の努力が結果として表れたことは一度もなかった。努力が足りないのではと言われるかもしれない。実際その通りなのかもしれない。

 私は人より運動の才に長けてはいない。むしろ劣っているとも言えるだろう。それなら人より努力をすればいい、とスポーツ漫画の主人公が言いそうなものだが私はそこまで執着できるほどの関心を持っていなかった。

 それも相まってか、頑張っても追いつけないのなら他の長所を伸ばせばいいと考えるようになっていた。

 そしてその行き着く先が料理と勉強だった。この二つに関しては人並み以上であると自負している。

 こうして長所を伸ばし続けてきたからこそ、短所である運動には一切興味を示さなかったのだが。今は関心がなかったはずの球技大会が雨で中止になったしまう可能性があると考えると、残念で仕方なかった。

 これも夏葉のおかげだろう。夏葉と一緒でなければここまでスポーツに興味を示すこともなかっただろう。

 きっと夏葉はスポーツの才だけでなく、周りの人を惹きつける魅力を持っているのだろうと、コートの中心で試合を動かしている夏葉を眺めながら思った。

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