生きてますか 3
居候しないかという提案に、ヨモツと名乗った死神は顔しかめた。長い前髪から覗く冷たい目線がこちらの真意を伺っているようにさえ思える。
「正気ですか?」
「ああ正気だよ」
ヨモツは表情を保ったままだが、声は僅かに動揺していた。
我に返ってしまえば、今まで霊だの神だのの存在を感じたことの無い俺の目の前に死神を名乗る男が現れたこと事態正気ではないが、まあその辺は納得してしまっているいる自分がいるのでよしとしよう。
「会って間もないし、貴方から見たら私は訳の分からない存在でしょう。それでよくその提案が出来ますね」
「言っとくけど気が狂ったわけじゃないからな。ただ、俺の生きてる限り根無し草になっちまう奴がいるって考えると、どうもおちつかねえんだよ」
すっかり短くなった煙草の灰を落としてから、灰皿に擦りつける。ヨモツは未だに居候という提案に困惑っだたり、遠慮しているような様子を見せている。
遠慮してる奴に、遠慮すんななんてそのまま言って上手くいくとは思っていない。そう言うときは交換条件のような形に落とし込んでしまえばいいというのが持論だ。
「そうだな、変わりといっちゃなんだが、何でも屋の仕事を少し手伝って欲しいんだよ」
「なんでも屋?」
「ああ、事故に遭ったって言ったろ。その時の影響で元の仕事が続けられなくなってな。それで始めたのが何でも屋の仕事だ。浮気調査とかペット探しとか、あとはイベントの臨時スタッフとか色々やる。要は便利屋だよ」
ヨモツは顎に手を当てながら、茶の粉だけが残った湯飲みを気まずそうに眺めている。
「……私は、貴方以外のこの世の生きてる人間にあまり干渉できないので、ほとんど手伝えることは無いですよ」
「良いんだよ別に。一人で仕事してるときに話し相手になってくれるやつがいるだけで、大分居心地がいいだろうからな」
「臆面も無く言いますね」
口をもごもごと動かした後、ヨモツはカバンを漁り黒い革張りの小さな手帳の物を取りだした。会社員経験があるものならピンとくる。よくある名刺入れだ。無地という訳ではなく、端の方に小さな鎌のマークが描かれていた。
「世話になるんですから、改めてきちんと名乗らせて下さい。私は死神のヨモツ、貴方の魂を回収するために、あの世から来ました。これから貴方に死訪れるか、あるいは気が変わって私のことを追い出すか。その時まで、どうぞよろしくお願いします」
渡された名刺の左上には、こいつが所属してるあの世の組織の名前が書かれているんだろう。けれど、俺が知っている日本語よりも大分字が崩れていて、なんて書いてあるかは分からなかった。
その下の名前の部分には『ヨモツ』とだけ書かれている。名字は見当たらなかった。
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