第7話 戦闘

 「ぐあっ!」

 テラさんを中心に、二人が斜め後ろに控えている陣形で、僕たちは今敵地に攻め込んでいる。

 「すごいな…。」

 前から敵が来るが、一瞬で左右どちらかの壁に叩きつけられる。

 「龍哉!大丈夫か!」

 「大丈夫です!」

 そのような会話をしていると、前と後ろから挟み撃ちのような感じで敵が来た。

 「煌雅!お前は後ろで龍哉のフォロー!ケイ!お前は俺とだ!」

 「オーケー。」

 「分かった。」

 テラさんとケイさんはそのまま、煌雅さんは180度回転して、こちらへ来る。

 「ふっ!」

 相手が血潮で攻撃してくるが、煌雅さんはそれをいなし、掌底を相手の顎へ打ち抜く。

 「すごいな…。」

 これしか言ってない気がする。

 「っと…。危ない。」

 そんな感想を頭の中で出していると、前から相手が血潮を上から串刺しにするように攻撃してきた。それを僕はバク転で避け、足刀蹴りを相手の腹にかます。

 それにしても、すごい勢いで敵が倒れてくな…。三人とも血潮使ってないよな。素手であの戦闘力とか…。改めて強すぎるだろ。

 そんなことを考えていると、たくさんいた敵が全員床に倒れていた。

 「よし、先を急ぐぞ。」

 「うん。」

 そうして、僕たちはまた走り始めた。



 「ここだ。一応警戒しておけ。」

 「分かってる。」

 僕たちは、それぞれがひし形の頂点にいるような陣形を取った。

 「よう。」

 後ろから、笑っているのか、少し高い声を含んだ声が聞こえてきた。

 しかし、後ろを振り返ってみると誰もいない。

 「上だよ。」

 ケイさんにそう言われ、上を見てみると、二階に黒いフード付きのパーカーを着ている人物がいた。

 「よう五舛目。お前には組織から殺害命令が出てる。死んでもらうぞ。」

 テラさんが冷たい声でそう言い放つ。

 「お前ら、それで俺が大人しくはい殺されます、なんて言うと思うか?」

 「思わないな。実力行使か?俺は別にどっちでもいいぜ。」

 そうテラさんが言うと、五舛目は二階の手すりに立つと

 「もちろん、実力行使だっ!」

 と言い、手すりを蹴って思い切りこちらに飛んできた。

 当たり前のように僕たち全員が、彼の進路から離れて、彼は地面に激突した。

 かに思われた。

 「ふっ!」

 舞う土煙の中からは赤いものが飛んできた。

 それは他の三人にも飛んできたようで、ケイさんと煌雅さんは両手を交差させ受け止め、僕とテラさんは片手で弾いた。

 「なにっ!」

 その声が合図のように、三人は一直線に声の方へ向かった。テラさんは顔面を拳で、ケイさんは左わき腹をつま先で、煌雅さんは右わき腹を足の甲で攻撃していた。

 「があぁっ!!」

 五舛目は苦しそうにもがく。

 もがいている五舛目にテラさんが歩み寄った。

 「さて、大人しく捕まれ。」

 え?指令には殺せって書いてあったんじゃ…。

 僕と同じことを思ったのか「あぁっ?」と苦しみながら言っている。

 「あぁ、龍哉くんには言ってなかったよね。うちの組織ややこしくてさ。殺せのときは捕まえろ、捕まえろのときは殺せなんだよね。」

 意味がさっぱり分からん。なんでそんな風なことにするんだ?

 「くはは…、くははははは!」

 五舛目がおかしいように高笑いを上げた。

 「思えばお前ら、俺の部下も殺さなかったよな。本当は一人一人は弱くて、三人だから俺に勝てたんじゃねぇのか?」

 その発言を聞いた三人の空気がビリッとなる。

 この空気には流石に五舛目も怖気づいたようにビクッと体を震わせている。

 「問題だ。五舛目。」

 テラさんが口を開くと、なぜか問題を出してきた。

 「相手を殺さないやつには二種類あります。なんでしょうか。」

 …意味が分からない。なんでこんな変な質問出すんだ?

 「そんなの知らねぇよ。」

 「正解は、一つ目、殺す度胸が無いやつ、二つ目は」

 テラさんは数秒程、間を開けて声を出せた。

 「相手を圧倒的に蹂躙して殺せるやつ。」

 この言葉で本当に周囲が静かになった。風の音も聞こえなくなった。

 「いいか?五舛目。お前は生きてるんじゃない。生かされてるんだ。そこをはき違えるな。あと、俺たちは殺せないんじゃない。殺さないんだ。そこも覚えておけ。」

 もう一度数秒程間を開けてテラさんは

 「殺さないというのは、圧倒的な実力を持つ強者がすることができる権利だ。これを一番大事に覚えておけ。ケイ。手錠あるか。」

 ケイさんに聞くと、ケイさんはダッフルコートの内側から手錠を出し、五舛目の手に掛けた。

 「行くよ。」

 そう言い、ケイさんは彼の背中を押した。

 「ああそうだ言い忘れてた。」

 テラさんはそう言うと、五舛目に人差し指を指し

 「俺たちは弱くない。」

 そう言った。

 やっぱり凄いな、この人たち。

 密度の高いこの一晩の夜は、これで終わった。

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