第5話 来客

 「……い、お…、おーい、おーい、大丈夫かい。龍哉くん。」

 「あ、ここは…。」

 ズキィッ

 体も持ち上げると頭に激しい痛みが走った。

 「……!!!!いったぁ…!」

 続けざまに、吐き気まで襲ってきた。

 「大丈夫かい?お酒、飲めるけどとても弱いんだね。ごめんね。無理して飲ませちゃって。立てるかい?」

 「は、い…。立てます…。大丈夫ではないです。」

 「これ、お水。」

 僕は、ケイさんから受け取ったコップ一杯の水を一気に飲み干した。

 「大丈夫か?ほい。」

 テラさんは、箱状のなにかを投げてきた。

 「これは……?」

 「胃薬と酒の酔い覚ましだ。飲んでりゃ幾分かましになるぞ。」

 「ありがとうございます。」

 僕は、薬をゆっくり嚥下えんげし、コップをテーブルに置いた。

 …ていうかテラさん、お酒強いイメージなのに、胃薬と酔い覚まし持ってるんだ。なんか可愛いな。

 ギャップについフフッと笑ってしまった。

 「なに笑ってんだよ。」

 「いえ、なんでも。」

 カランカラン

 そんな会話をしていると、お客さんが入ってきた。

 「いらっしゃいませ。」

 「どうも。」

 入ってきた人は、灰色のスーツに臙脂えんじ色のネクタイを付け、白いワイシャツを着ていた。

 その人はカウンターに座ると、「バーボン。」とだけ言って黙ってしまった。

 「かしこまりました。」

 ケイさんは、テラさんにしたことと同じように、棚から瓶を取り、グラスに注ぎ、カウンターへと出した。

 「どうぞ。」

 「ありがとう。」

 その人は、少しづつ飲んでいき、二杯目を頼んでいた。

 「東雲さん。」

 どうやら、その人の名前は東雲というらしい。

 まぁ、学のない僕にはどういう字を書くのかわからないが。

 「なにか、ありましたか。」

 ケイさんが優しく、落ち着いた口調でその人に語り掛けると、東雲さんはスーッと涙を流していた。

 「実は…、部下が死んだんですよ。吸血鬼を追ってるときに、その吸血鬼に…。」

 僕は心が震えた。自分がやったわけではないのに、なぜかとても罪悪感を強く覚えた。

 「それは、残念でしたね…。」

 「ええ。今ここにきているのは、あいつとここで過ごした時間を思い出したいからかもしれません。ケイさん。よく分かりましたね。」

 「東雲さんがいつも頼むお酒は、ウィスキーだったのと、いつもここにはあの人と二人で来ていましたから…。」

 「ケイさんには、敵いませんね。」

 東雲さんは、二杯目を飲むとお代を払って店を出た。

 「おい龍哉。」

 「はい?」

 「お前、あいつの職業分かるか?」

 テラさんは、とても分かりようがない質問を投げかけてきた。

 「いえ…全然分かりません。」

 「あいつは、黒服クロだよ。」

 「クロ…?」

 「お前知らないのか?吸血鬼対策室、世間はVPR、俺たちは黒服クロって呼んでる。」

 「クロ…ですか。なんでそんな呼び方なんですか?」

 「あいつらが、俺たちを討伐するときに身に着ける服が黒色だからだ。まぁ、血が目立たないためだろうが。」

 「そういえば、僕がいたところでも襲われましたね。でも、僕はあの人のような灰色や白色に襲われたような…。」

 「あの人は多分、准特等だろう…って、お前今なんて言った?あの服の色や白色に襲われた?」

 「それは…、龍哉くん強いね。」

 「ホントホント。」

 みんなが驚いていることに、僕は訳が分からなかった。

 「え、なんでですか?」

 「だって、灰色と白色っていったら、准特等と特等じゃないか。そんな人たちに狙われるなんて、龍哉くんすごいね。」

 「お前、そいつらどうしたんだ?」

 「えっと、声を大にしては言えないんですけど…、殺してました。殺して食べてました。」

 僕がそういうと、三人はとても引いていた。

 「お前、まじか…。」

 「龍哉くんやばいね…。もっと気にいっちゃいそうだ。」

 三人が引いている理由が僕には全然分からなかった。

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