第2話 眼球

 「ここか…?」

 僕はあの後、すぐにテラさんに言われた場所に行った。

 カンカンカンカンカン

 鉄の階段を降りて突き当りにその店はあった。

 〔Bar usaretira〕

 ゴクッ

 なぜかそこの前に立つと、とてつもなく緊張して体が全然動かなかった。固い生唾を飲むと僕は勇気を出してドアノブに手をかけた。

 カランカラン…

 「いらっしゃい。初めてかい?」

 そこにいたのは、20代中間くらいだろうか。黒髪で顔立ちがとても整っているかっこいい人だった。その人の左耳には、テラさんと対になるようなピアスがつけられていた。

 「あ、どうも…。」

 「テラに呼ばれてきた?もしかして。」

 「え?」

 「やっぱり。テラはよくここに人を連れてくるんだよね。あ、自己紹介がまだだったね。僕は綿亜飛ケイ。よろしくね。」

 「紅峰龍哉です。」

 「んー。なんか名前負けしてるね。」

 僕は顔をしかめた。名前負けしていることがコンプレックスだからだ。

 「言わないでください。コンプレックスなんです。」

 「ふーんそうなんだ。ねぇ。」

 「なんですか?」

 「あかみねのあかってどんな漢字?」

 「紅です。」

 「へぇ、良い名前だね。」

 「そうなんですか?」

 「うん。名前に紅が入っている吸血鬼は並の吸血鬼の数十倍強いっていう伝承があってね、まぁその強さが本当なのかはわからないけど、吸血鬼にとって名前に紅が入っていることは名誉あることなんだよ。」

 キィ

 ケイさんと話していると奥のドアが開いた。

 キュッ

 そこから出てきたのは、ウェイター姿のテラさんだった。

 「おっ、さっきの奴じゃん。」

 「どうもテラさん。」

 「早速来たのか、えっと…。そういや名前聞いてなかったな。」

 「紅峰龍哉です。」

 「テラってばなんでもかんでも拾ってくるんだから、少しは自重しなよ。」

 「分かってるよ。」

 (僕は犬か猫みたいなものなのか?)

 そう思っていると

 「そういえば龍哉。」

 「はい?」

 「お前の血潮、見せてくんね?」

 「え⁉」

 なんと僕の血潮を見たいと言ってきた。

 「なんでですか、別に血潮なんて変わらないじゃないですか。」

 「さっきお前を蹴り上げたとき、お前一瞬だけ血潮を使おうとしただろ?そのときになんか他の吸血鬼たちとは違うにおいがした。」

 (それだけなのか?本当は自分たちは人間で僕が使ったら通報するとかじゃないのか?)

 そんな風に考えすぎていると

 「龍哉くん、大丈夫だよ。僕たちはそんなことしないから。」

 ケイさんが僕の考えを察したように、僕をなだめてくれた。

 (そうだ。大丈夫だ。今回は信じろ。もしこの人たちが人間だったとしても――)

 「…通報される前に殺せばいいだけだ。」

 僕は覚悟を決めるとガリッと親指の腹を嚙みちぎった。

 ポタッポタッポトプン

 「ッ!」

 「これは、すごいね…。」

 (なんだ?僕はなにもすごいことしてないぞ?)

 二人の反応の見ながらそう思っていると、テラさんが僕を指さしながら

 「…、カラコンじゃないよな?」

 「はい…。なんでそんなこと聞くんですか?」

 「気づいてないのかい?龍哉くん。君の眼、。」

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