紅の王

霜月 識

第1話 出会

 夜の帳が下りたころ、活動を開始する生物がいる。

 それが僕たち、吸血鬼。

 さぁ、今日は何処で人を喰らう。



 「フッ。」

 バキッゴキャベギャギバキャリ

 「はぁ、おいしい…。」

 そんなことを呟きながら食事をしているのは僕、紅峰龍哉。

 さて、少し歴史の勉強をしよう。

 この世には、なぜか人ならざるものが棲んでいる。

 それが、吸血鬼。

 古来から吸血鬼がなぜ生きているのかは謎に包まれている。

 しかし、確実に存在している。

 僕もその中の一人だ。

 「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…。」

 何を飲んでいるのかは、想像にたやすいだろう。

 「ハァ…、もう一体いくか。」

 吸血鬼には血を操る力があり、それを僕らは「血潮」と呼んでいる。吸血鬼はそれを使って狩りをすることは滅多にない。なぜなら身体能力がとてつもなく高いからだ。人を裏路地に誘い込み、それを使って殺す。これが一連の流れだ。

 「ん…。あの人よさそうだな。」

 僕が目を付けたのは、白髪で片方の耳にピアスをつけている人だった。

 なぜかその人は夜なのにサングラスをかけていた。

 僕が喰おうとその人に近づくと、その人は離れていって、スピードを上げるとその人もスピードを上げていって全然追いつけなかった。

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…。」

 その人は途中で曲がり角右に曲がった。

 (しくったな、バカが!)

 なぜならその向こうは、行き止まりだからである。

 (追いついた!)

 そう思って曲がり角を曲がった瞬間

 バキャ

 僕の体は空中ちゅうに浮いていた。

 「…は?」

 その高さ、十メートルはあるだろう。数秒後には落下が始まっていた。

 ドサッ

 「おーい、その程度じゃ死なねぇだろ?」

 その男は僕に語り掛けてきた。

 「あんた…、何者なんだ?」

 「んー、お前と同種。」

 なんとこの男も吸血鬼だったのだ。

 「ていうか、お前しつけぇなぁ。逃げても逃げても追ってくるんだもん。ちょっと怖かったよ。」

 「ここに来たのは…。」

 「お前がしつこかったから、一遍お灸すえようと思ってね。」

 僕はひどく安堵した。この男があの一瞬に出した恐ろしい殺気を感じてしまったからだ。

 「すみませんでした!」

 「なんで謝るんだ?」

 「飲もうと、したので…。」

 その男は少し驚いた顔をすると

 「クッ…アッハハハハハ!」

 なぜか笑い出した。

 「いやぁ…、飲もうとしただけで謝られるとはねぇ…。冗談もほどほどにしろよクソガキ。」

 なぜか怒っている。

 「え…?」

 「飲もうとしただけで謝ったら、これまで飲まれた人たちはどうなる?それともお前は俺が格上だから、かなわないから自分の命はやめてくれとでも言うのか?ふざけるなよ。だったらこれまでに殺された人たちはどうなる!」

 僕は身の毛がよだった。

 この人は死に対して、嫌悪感を抱いていることが痛いほどわかった。

 「すいませんでした…。」

 「いや…、俺も言い過ぎた。すまんな。」

 僕たちは互いに深い反省をした。

 「でも、俺たちは人の血を飲むことでしか生きられない。そんなことは俺もわかっている。」

 「……。」

 「俺はもう行く。それじゃあな。」

 「あの!」

 「ん?」

 「名前を、教えてくれませんか。」

 なんでそんなことを言ったのか僕にもわからない。でも言葉が告げていた。

 「テラだ。宵闇テラ。」

 「テラさん、ですか。」

 「あぁ、じゃあな。…おっといけない。」

 テラさんは引き返してくると僕の手を握った。

 「この店、良い店なんだ。よかったら来てくれ。俺の友達がやってるところだ。」

 その店の住所が書かれた紙を僕に渡すと、軽く手を振って行った。

 紙には住所と店の名前が書かれていた。

 「usaretira…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る