第十九話 舞い踊る焔との戯れ④
『ソぅデスか! ……さテ、ド〜でショう? フゥ、お願いデす!』
ガイトさんがフゥに問いかける。私は改めてじっと真ん中のフゥを見つめる。すると、その姿が薄れ始めて……。……え、待って。消えちゃうの?
『オ! こ〜レは!』
ガイトさんはそう叫ぶ。……え、待ってよ。やっぱり見間違えてた? ……いや、でも、あんなに自信があったのに……。
薄れゆくフゥ。……そして、完全に消えてしまうかと思われたその時。フゥの姿が、再び現れた。真ん中の、フゥの姿が。
「あ……!」
私は思わず声を上げた。……ちゃんと、当たったんだ。これで良かったんだ!……そう思うと、なんだか嬉しくなってくる。
『おォ〜! 当タりマしタね! ワァシ、間違エちャいマシた!』
ガイトさんはそう言って、四本の腕で器用に拍手する。そして本物のフゥは大きく一回転、二回転と回ってから、私の元へ飛んできた。ひらひら私の周りを飛ぶフゥ。……なんだか、すごく嬉しそうだ。他の四羽はというと、いつの間にかまた姿を消していた。
『ミチル! オめデとうごザイマす!』
「ふふ、ありがとうございます」
ガイトさんの言葉に、私はそう返す。……良かった、フゥが喜んでくれて。
「ふふ……当たると、やっぱり嬉しいですね」
『はイ! 楽シいでスよネ! ワァシ、フゥとコレでヨく遊ブんでスケど……ミチルと一緒ダとモッと楽シいでス!』
ガイトさんはそう言って腕を大きく広げた。尻尾もどこか嬉しそうに、ゆらゆら揺れている。
『ミチル! モット遊びマしょウ!』
「はい。私ももっと遊びたいです」
私はそう答える。……それからも、私たちは“ミアテ”を何度もやった。フゥが六羽や七羽に増えてしまったり、ガイトさんが連続で間違えてフゥに
それでも、とても楽しい時間を過ごすことが出来たのだった。
◇
『や〜……ミチル、ミアテうマいでスネ〜!』
「ふふ、ガイトさんもなかなかでしたよ」
ミアテを何度もやった後、私たちは少し休んでいた。……フゥは遊び疲れてしまったのか、ガイトさんの頭の上で
『フ〜ふフ……そゥでスか?』
「はい。……フゥ、眠そうですね」
『オや、珍しィ。フゥがこンなニ眠たがルなんテ……』
ガイトさんはそう言って、フゥをちょんちょんと指でつついた。……でも、フゥは嫌がるように少し体を動かすだけで、起きる気配はない。
『……マぁ、寝かシテあげまショう。ミチル、イイですカ?』
「はい、もちろん」
私はそう言って
前に、ガイトさんは“眠い”という感覚がないと言っていたけれど、フゥにはあるのがなんだか不思議だ。……まぁ、ガイトさんとフゥも別の生き物なのだから、当たり前といえばそうなのだけど……。
「ふふ……」
私は小さく笑みをこぼした。するとガイトさんが『ドぉかシマしタ?』と聞いてくる。私は首を横に振った。
「いいえ、なんでもないんです。……ただ、フゥも眠くなったりするんだなって」
『ソぉでスね。あンまりネェですガ、ソ〜みタいでス』
ガイトさんはそう言いつつ、頭の上のフゥにそっと手を伸ばして、二つの手で包むように持った。フゥは羽を閉じていて、動きも少なく見える。眠っていても、羽の炎は消えずにあるようだ。弱火でちらちらと燃えている。
『フゥはネ、ワァシが散歩しテた時に出会ッタんでスヨ』
ガイトさんはそう言って、フゥを優しく
「そうなんですね」と
『ソぉでス。……ワァシは、ずットワァシだケで拠点ニ居マしタ。ソれが、フつゥでシタ』
そう言って、ガイトさんはまた優しくフゥを撫でる。……ガイトさんは、フゥと出会う前はずっとひとりでいたんだ。……それは、いったいどんな気持ちなのだろう。私の周りには、いつも誰かがいてくれた。一緒に笑ってくれる人がいた。だけどガイトさんは……ずっとひとりぼっちだったんだ。
『でモ、フゥに会っテ……一緒に暮ラすヨ〜にナッて……。ワァシ、一番ノ楽しィを知リましタ』
ガイトさんの頭の内部の炎がパァッと明るくなり、大きく揺らめく。満面の笑みを浮かべたようなその炎に、私も釣られて笑顔になってしまう。
「ふふ……フゥとの生活が、ガイトさんにとって一番の楽しみなんですね」
『はイ! 一番でス!』
そう言って、ガイトさんはまた大きく笑う。……本当に、フゥと出会えて良かったんだなと思う。ガイトさんが幸せそうで、私も嬉しい。
『ア、ミチルはダレかト暮らシてまスか? 知りタいでス!』
「私ですか?」
『はイ! ミチルの楽シいモ教エてくダさイ!』
ガイトさんは、ワクワクを抑えきれないといった様子でそう聞いてくる。……私の楽しい、か。
「そうですね……。私は、今の生活がとても楽しいです」
『ホぉ! 楽シいデスカ!』
ガイトさんはそう言って、嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らした。そして、私の言葉の続きを待つようにじっと見てくる。
「えぇ。私はひとり暮らしなんですが、こうしてガイトさんたちと出会えて、一緒に過ごせて。……とても楽しいです」
……そう。楽しいのだ。ひとり暮らしが長いから、ひとりで過ごすのには慣れているし、むしろひとりの方が楽だと感じることもある。
でも、誰かとこうして一緒に過ごすのは……やっぱり楽しいのだ。ガイトさんは優しく接してくれるし、フゥは可愛くて癒される。……だから、ガイトさんたちに会える新月の日が、待ち遠しくて仕方がないのだ。
『ソぉでスカ! ワァシもミチルと居テ楽しイでス!』
「ふふ、私もですよ」
私とガイトさんはそう言って笑い合う。……あぁ、幸せだなと思う。会える日は限られてはいるけれど、こうして幸せな時間を過ごすことが出来るのだから。
◇
「……そろそろ、私は帰りますね」
少しして、私はそう切り出した。……楽しい時間はあっという間だ。腕時計を見れば、もう十時近くになっている。さすがにこれ以上は長居出来ないだろう。
『あァ、もウでスか……』
ガイトさんはそう言って残念そうにした。フゥはいつの間にか起きていて、私の肩辺りをひらひらしている。……きっと寂しいんだろうなと思うけれど、こればっかりは仕方ない。
「また、来ますから。……そうだ、次の新月の日はお休みをもらおうと思っていて」
『おォ! お休ミでスカ!』
「はい。……だから、次は少し早い時間に来ても大丈夫ですか?」
今回は、約束の時間よりもだいぶ遅くなってしまったから……。その分、次は早めに来て、ガイトさんとフゥとゆっくり過ごしたい。埋め合わせとまではいかないけれど、それぐらいはさせてほしい。
『はイ! 大丈夫デすヨ! ワァシも、フゥも、待っテまス!』
腕を大きく広げて、ガイトさんはそう言ってくれた。……その言葉が、本当に嬉しいと思う。
「ふふ、ありがとうございます」
ガイトさんの言葉に、私はそう返した。すると、ガイトさんは『コちらコそ!』と言ってくれた。
それから、いつものようにガイトさんに
「ふぅ……」
私は、ひとつ息を吐いてから伸びをした。……今日も楽しかったな。約束通りフゥとたくさん遊べたし、ガイトさんともたくさん話が出来た。
「ふふ……」
思わず笑みが
……さて、次の新月の日はいつだったかな。お休みの申請を出しておかないとな……と思いつつ、私は駐車場を歩いたのだった。
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