第9話 アリサの告白

「香織、エリック・ホールが待っているわ。」涼介がエリックの部屋のドアをノックしながら言った。扉が開くと、エリックは少し怯えた表情で私たちを迎え入れた。


「どうぞ、中へ。」エリックは急いで部屋の中に招き入れ、周囲を警戒するように目を光らせた。


部屋に入ると、エリックは重々しい口調で話し始めた。「君たちに話さなければならないことがある。」


「エリックさん、私たちはここにあなたを守るために来ました。何が起こっているのか、全て教えてください。」私は冷静に彼に促した。


エリックは深呼吸をし、椅子に腰を下ろした。「実は、ルビーの涙の盗難事件に私は関与していた。しかし、それは私の意思ではなかった。私は黒幕に脅されていたんだ。」


「黒幕?」涼介が興味深げに尋ねた。


「そうだ。彼の名前はまだ分からないが、彼はこの船を支配しようとしている。私たちは彼の手下に過ぎない。」エリックは肩を落としながら言った。


「エリックさん、何か手がかりになるものはありますか?」私はさらに質問を重ねた。


エリックは机の引き出しから一枚のメモを取り出し、私たちに見せた。「これが彼からの指示書だ。」


メモには、「次のターゲットはアリサ・タカハシ」と書かれていた。


「アリサ・タカハシ……彼女も狙われているのね。」私は呟いた。


「彼女を守らなければならない。」涼介が決意を固めたように言った。


「エリックさん、このメモは非常に重要です。私たちがアリサを守るために動きますので、あなたも安全な場所に移動してください。」私は彼に指示を出した。


「わかった。どうか、彼女を守ってくれ。」エリックは祈るように言った。


私たちはエリックを安全な場所に移動させた後、アリサ・タカハシの部屋へと向かった。アリサは美術史学者としてこのオークションの監修者として招かれている。


「香織、急がないと。彼女が狙われる前に到着しなければ。」涼介は焦りを隠せない様子で言った。


「大丈夫、間に合うわ。」私は彼を安心させるように言った。


アリサの部屋のドアをノックすると、彼女が出てきた。鋭い眼差しで私たちを見つめながら、「どうしたの?」と尋ねた。


「アリサさん、私たちはあなたを守るために来ました。あなたが次のターゲットにされているのです。」私は急いで説明した。


アリサは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。「分かりました。どうすればいいのですか?」


「まずはこの部屋を離れて安全な場所に移動しましょう。詳しいことはその後で説明します。」私は彼女にそう言い、部屋を出る準備を促した。


部屋を出ると、私たちはアリサを安全な場所に連れて行った。途中、何者かが私たちを監視しているような気配を感じたが、気のせいかもしれない。


「香織、この辺りに何か異変があるわ。」涼介が周囲を警戒しながら言った。


「気をつけて、涼介。何かが起こるかもしれない。」私は彼に警告を発した。


安全な場所に到着し、アリサを保護した後、私たちは彼女に状況を説明した。


「ルビーの涙の盗難と山田真琴の殺害事件の背後には、黒幕がいるのです。あなたもそのターゲットにされています。」私は丁寧に説明した。


アリサは深く考え込みながら言った。「なるほど……実は、私も気づいていたことがあるんです。」


「何ですか?」私は興味深げに尋ねた。


「ルビーの涙が盗まれた時、私はすぐに調査をしました。その結果、盗まれたルビーの涙は偽物だった可能性が高いのです。」アリサは真剣な表情で語った。


「偽物……?」涼介が驚いた声を上げた。


「ええ。本物のルビーの涙には特有の輝きがあるのですが、盗まれたものにはそれがありませんでした。」アリサは続けた。


「それなら、なぜ偽物を盗んだのか……?」私は疑問を抱いた。


「おそらく、本物のルビーの涙を隠すためのカモフラージュでしょう。本物はまだこの船のどこかに隠されているはずです。」アリサは推測を述べた。


「そうか……本物を見つけることが重要ね。」私は決意を固めた。


その時、船内の非常ベルが鳴り響いた。乗客たちは一斉に動き出し、パニックの様相を呈していた。


「何が起こっているの?」アリサが不安げに尋ねた。


「これは……ただ事ではないわ。」私は緊張を隠せなかった。


「涼介、乗客を避難させるのを手伝って。私は原因を探ってくる。」私は涼介に指示を出し、非常ベルの元を目指して駆け出した。


涼介は乗客たちを安全な場所へ誘導し始め、私は非常ベルが鳴り響くデッキへと向かった。そこで見たものは衝撃的だった。


デッキには、船医のレオ・ハリスが倒れていた。彼の顔は蒼白で、胸には血が流れていた。


「レオさん!」私は叫びながら彼に駆け寄った。彼の脈を確認すると、まだ微かに脈があるのを感じた。


「助けを……」レオは弱々しく言った。


「涼介、すぐに救急キットを持ってきて!レオさん、しっかりして!」私は叫び、応急処置を始めた。


涼介が救急キットを持って戻り、私たちは協力してレオを治療し始めた。傷は深かったが、彼の命を救うために全力を尽くした。


「レオさん、誰があなたを襲ったのですか?」私は慎重に尋ねた。


「彼は……暗闇の中で見えなかった……でも、声は覚えている……」レオは苦しそうに答えた。


「声?それが手がかりになるわ。」涼介が言った。


その時、レオのポケットから一枚の小さなメモが出てきた。私はそれを取り出し、読み上げた。


「船尾の機械室に隠し部屋がある。そこに何かが……」と書かれていた。


「機械室の隠し部屋……これが次の手がかりかしら。」私は考え込んだ。


「香織、急いで機械室に行きましょう。そこに本物のルビーの涙が隠されているかもしれない。」涼介が提案した。


「分かった、行きましょう。」私は涼介と共に機械室へと急いだ。


機械室に到着すると、そこは通常の設備で満たされていたが、隠し部屋の入り口を探し出すのは容易ではなかった。


「涼介、何か手がかりがあるはずよ。注意深く探して。」私は彼に指示を出し、自分も周囲を調べ始めた。


しばらく探し回ると、涼介が機械室の一角に不自然な壁パネルを見つけた。「香織、ここを見てくれ。何かおかしい。」


私は涼介の指摘した場所に駆け寄り、パネルを調べた。「確かに、普通のパネルとは違うわ。隠し扉があるかもしれない。」


涼介と私は協力してパネルを押したり引いたりしてみた。やがて、パネルがスライドして開くと、小さな隠し部屋が現れた。


「やったわね!」私は興奮を抑えきれずに言った。


「中に入ってみよう。」涼介は慎重に言った。


隠し部屋に足を踏み入れると、そこには古びた棚と机が置かれていた。棚には様々な古書や地図が積まれており、机の上には幾つかの宝石と共に小さな金庫が置かれていた。


「この金庫に何か重要なものが入っているはずだ。」私は言いながら、金庫を調べ始めた。


「開ける方法を探さなければならないな。」涼介が言った。


その時、棚の上に置かれた古書の一冊が目に留まった。「これを見て、涼介。この本はルビーの涙に関するものだわ。」


「それが手がかりになるかもしれない。」涼介は本を手に取り、中を開いた。


本の中には、ルビーの涙の歴史や特性について詳細に記されていた。そして、その中に金庫の開け方に関するヒントが隠されていた。


「金庫の開け方は、この本に書かれているかもしれない。」私は本を詳しく調べながら言った。


「そうだな。見てみよう。」涼介も本に目を通した。


本の一節には、「ルビーの涙の真価を知る者のみがこの宝を手にすることができる」と書かれていた。その下には、特定の数字の組み合わせが示されていた。


「これは……金庫の暗証番号かもしれない。」涼介が言った。


「試してみるわ。」私は金庫のダイヤルをその数字に合わせて回した。


ダイヤルを合わせ終えると、金庫のロックが解除され、扉がゆっくりと開いた。中には、輝くルビーの涙が入っていた。


「これが本物のルビーの涙ね。」私は感嘆の声を上げた。


「ついに見つけたか。」涼介も驚きの表情を浮かべた。


その時、背後から物音が聞こえた。振り返ると、黒幕が隠し部屋の入り口に立っていた。


「ここまでたどり着くとは……だが、これで終わりだ。」黒幕は冷笑を浮かべながら言った。


「あなたが黒幕ね。もう逃がさないわ。」私は毅然と言い放った。


「お前たちには何もできない。」黒幕は不敵な笑みを浮かべ、拳銃を取り出した。


「香織、気をつけて!」涼介が警戒の声を上げた。


「私たちはあなたを止めるためにここにいるのよ。」私は冷静に言いながら、黒幕の動きを注視した。


黒幕が引き金に手をかけた瞬間、涼介が素早く動き、黒幕に飛びかかった。二人は激しくもみ合い始めた。


「涼介!」私は叫びながらも、黒幕を取り押さえるために駆け寄った。


もみ合いの末、涼介が黒幕の拳銃を奪い取り、彼を押さえつけた。「これで終わりだ。」


「ちくしょう……だが、まだ終わらない。」黒幕は悔しそうに呟いた。


「あなたの計画はここで終わりよ。」私は毅然と言い放ち、黒幕を縛り上げた。


黒幕を取り押さえた後、私たちは本物のルビーの涙を持ち帰り、船内の乗客たちに状況を説明した。エリック・ホールやアリサ・タカハシも無事であり、事件は無事に解決に向かっていた。


「これで事件は一段落ね。」涼介が安堵の表情を見せた。


「そうね。でも、まだやるべきことがあるわ。」私は微笑みながら答えた。


次回、「黒幕の正体」。香織と涼介の捜査がついに黒幕の全貌を明らかにし、事件の真相が解き明かされる。お楽しみに!

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