第8話 デッキでの対決

夜が更け、スターオーシャン号は静かな海を進んでいた。涼やかな夜風がデッキを吹き抜け、星空が一面に広がっている。私と涼介は、次の取引が行われるとされるデッキに向かっていた。


「香織、緊張している?」涼介が私に尋ねた。


「少しね。でも、この瞬間が探偵の腕の見せどころよ。」私は涼介に微笑みを返しながら、デッキに足を踏み入れた。


デッキは広く、夜の静けさの中に包まれていた。遠くで波の音が聞こえるだけで、他には誰もいないように見えた。


「ここで待ちましょう。必ず現れるはず。」私は低い声で涼介に言った。


「了解。」涼介は頷き、二人で物陰に隠れて様子をうかがった。


しばらくすると、足音が聞こえてきた。デッキの向こうから、二人の影が現れた。エリック・ホールともう一人の男だった。


「彼らが取引を始めるわ。慎重に見守りましょう。」私は涼介に耳打ちした。


エリック・ホールは男に何かを手渡し、男はその対価として封筒をホールに渡した。取引は静かに進行しているようだった。


「何を渡しているのか確かめる必要があるわ。」私は涼介に囁いた。


取引が終わり、エリック・ホールが男と別れて一人で歩き出した。その瞬間を狙って、私たちはホールに近づいた。


「エリック・ホール、少しお話ししましょう。」私は彼の前に立ちふさがった。


「な、なんだ?君たちは……」ホールは驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「今夜の取引について説明してもらいます。」私は冷静に言った。


「取引だって?何のことだか……」ホールはとぼけたが、私はその表情から動揺を読み取った。


「もう隠さなくていいわ。私たちは全てを見ていた。あなたが何をしていたのか、知っているのよ。」私は一歩前に出た。


ホールは一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに強がりを見せた。「君たちに証拠があるのか?」


「証拠ならあるわ。あなたが渡していたものを見せてもらいましょう。」私は手を差し出し、ホールの持っている封筒を指差した。


ホールはしぶしぶ封筒を渡した。中には現金が詰まっており、その金額は相当なものだった。


「これは……」涼介が驚いた声を上げた。


「不正な取引をしていた証拠ね。この金は何のために渡したの?」私はホールに問い詰めた。


「それは……私のビジネスのためだ。君たちには関係ないことだ。」ホールは言い訳を始めたが、私は引き下がらなかった。


「関係ないこと?山田真琴が殺されたことと、ルビーの涙の盗難も、全て関係ないと言えるのかしら?」私は鋭く問いかけた。


ホールの顔が一瞬青ざめた。その反応が、彼が何かを知っていることを示していた。


その時、突然背後から声が響いた。「それ以上話すな、エリック。」


私たちは振り返ると、もう一人の男が現れた。彼は冷たい目で私たちを見つめていた。


「君が……?」私は警戒心を強めた。


「俺が全ての黒幕だ。ルビーの涙も、山田真琴の命も、俺の計画の一部だった。」男は冷静に語った。


「君の計画だって?」私は疑念を抱きながら聞き返した。


「そうだ。エリックはただの手先に過ぎない。俺はこの船を支配するために動いている。」男は冷笑を浮かべた。


「君の名前は?」私は彼に名を尋ねた。


「名前などどうでもいい。だが、君たちが邪魔をするなら、消えてもらうだけだ。」男は冷酷に言い放ち、私たちに向かってナイフを抜いた。


「涼介、気をつけて!」私は涼介に警告し、身構えた。


男は素早く動き、私たちに襲いかかってきた。涼介が即座に反応し、男のナイフをかわした。


「香織、気をつけて!」涼介は男と対峙しながら叫んだ。


私も素早く動き、男の背後に回り込んだ。二人で連携し、男を取り押さえようと試みた。


「君たち、なかなかやるな……だが、俺には勝てない!」男は必死に抵抗し、ナイフを振り回した。


私は冷静に隙を見つけ、男の腕を掴んでナイフを奪い取った。涼介が男を押さえ込み、彼を動けなくした。


「これで終わりだ。」私は息を整えながら言った。


「ちくしょう……覚えていろ……」男は悔しそうに呟いた。


その時、男が最後の力を振り絞って涼介を突き飛ばし、私たちの足元に何かを投げつけた。それは小型の爆弾だった。


「香織、危ない!」涼介が叫び、私を庇うように押し倒した。爆弾が爆発し、デッキに煙と火花が飛び散った。


煙が晴れると、男の姿は既に消えていた。私は涼介の無事を確認し、二人で周囲を見回した。


「彼は……逃げたのか?」涼介が息を切らしながら言った。


「追いかけなければ……でも、どこに行ったのか……」私は焦りを感じながら、辺りを見渡した。


その時、デッキの端に何かが落ちているのを見つけた。そこには、男が持っていたと思われる小さなメモが残されていた。


「これは……次のターゲットの名前が書かれている。」私はメモを拾い上げ、驚愕した。


「次のターゲットは……!」涼介が声を上げた。


メモには、美術品オークションの主催者であるエリック・ホールの名前が書かれていた。私たちはエリックの命を守るため、急いで行動を起こさなければならない。


「涼介、急いでエリックのところに戻りましょう。彼の命が危険にさらされている。」私は決意を固め、涼介と共にデッキを駆け出した。


次回、「エリックの最後の試練」。香織と涼介がエリックの命を救うために奔走する。新たな危機が迫る中、探偵コンビの運命は……。お楽しみに!

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