短編ホラーの集まり

雪 牡丹

期間限定、今月限定、数量限定。


「あれれ……? 可笑しいなァ」


思わずそう口遊んだ、娘は首を傾げた。

巷の『噂』には聞いていたが、まさかここまでとは。そう思いながら、もう一度不思議そうに瞬きをする。

知らぬ間に溶けゆく生活資金、閑古鳥の鳴り止まない財布、気が付いた頃にはもう遅く……気を緩めた途端、明日の我が身と降りかかる。


———帰宅した私のカバンに「ソレ」は入っていた。


「あれれ……? 可笑しいァ」


初夏を肌に感じる、緑の美しい日の出来事だった。

多忙極まる現代社会の中、ようやく重なる暇を見つけた。高校時代からの友人と久方ぶりにランチに行っただけ、そんな僅か4時間程度の外出であったはずなのに……。


「あれれ……おかしいなぁ……」


帰宅した私のカバンに「ソレ」は入っていた。

なので、


(もしや、これが噂に聞く現代病の一角。歳若くして認知に問題が……??)


何それ怖すぎる。

と一瞬、確かにその可能性が脳裏を過るも、すぐさま思い直す。


……だたそれでも、外出したが最後。友人と地元のレストランで一しきり盛り上がり、店を出て……可愛いお姉さんに"試し塗り"させてもらったとこまで覚えてるけれど、そこからの記憶が途切れている。

友人のYちゃんにさよならバイバイした帰宅のち、気づけば「ソレら」は己がカバンに入っていた。


それこそ、あの種の破滅へのカウントダウンともとれ得る。薄くすすり泣く財布の代わりに、赤ならぬ、心覚えのない"黒模様の入り乱れる白い紙"が入っていた件について。


(い、いつの間に…… !!)


思わず内心そう叫んだ娘、私は心から恐れ慄く、白紙しらがみを握りしめる右手が震えた。

正直に申し上げるなら、初めてではない、この現象。巷の『噂』には聞いていたが、まさかここまでとは……そう何度も思いながら、私は怯えた目で「ソレら」をテーブルに並べる。

その様な中、特に黄色のボトルに印刷された兎が、まるでこちらを嘲笑っているかのようだ。


人の業とも、不治の病とも、疫病ともとれる、この現象の正体を私は知っている。また同時に、この世に生を受けた日から、恨んでもいる。


『期間限定、今月限定、数量限定』


わたしは、


おまえらを、


ケッシテ、


「ユルサナイ……」


竦みあがる湿度塗れ、女の怨みがましい声が初夏の部屋に響く。

もうすぐ夜が来る、黄昏れの射す時間帯のコトであった。

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短編ホラーの集まり 雪 牡丹 @yukibotan1999

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