第4話 隠れ聖女と第2王子
駆け付けた騒ぎの場所にいたのはレオンハルトだった。
先ほどの悲鳴は、この場所で魔物に襲われた騎士によるものだったらしい。
レオンハルトは騎士団の者たちと訓練を積んだ騎士の1人だ。騎士団長である私の父から直接剣を教わったのだから弱いわけではない。
だが、そうは問屋が卸さない。相対している相手は討伐級10の大物魔獣。
そして何より厄介なのが地中から影響を与える毒だ。人間は地面に立っていないといけない関係上、毒をもろにくらってしまう。ここで倒れている騎士たちも、そのせいで怪我をしたのだろう。
「くっ....!なんとしても殿下をお守りしろ!!」
「いや、俺のことはいい!お前らだけでも逃げろ!!」
「いえ、あなたは王族です!我々騎士団のほうこそ、この国を....ひいてはあなた様を守る盾!!ここはどうか、我々に守らせてください」
泣ける主従関係だこと。でも、この状況で仮にレオンハルト殿下を逃がしても、騎士たちが全滅したらすぐさま後を追うでしょうね。そうなれば意味がない。
つまり、この場にてこの危機的状況を回避できるのはライラ....いや、A級冒険者のアリアだけだった。
そうこう迷っているうちに、段々と犠牲者は増えていく。地中からの攻撃を避け切れずに数人がやられ、この場をまとめる騎士もやられてしまう。
怪我と毒が全身に痛みを与え、気づけば残るはレオンハルトと学園で見た側近の青年のみとなってしまった。
「あー....これはヤバいな。レオ」
「まったくだ。ついてないな」
「こりゃここで全員死ぬかもな....お前が死んだら、きっとシノブは悲しむぜ?」
「彼女の主君は俺ではなく陛下だ。一時的に仕えてる俺が死んだところで、そう問題はあるまい」
そうは言いつつも、まだ諦めてはいなかった。毒で体の動きが相当鈍くなっていても、2人とも動きにブレがない。
(さすがですね。騎士団で訓練していたとは聞いていましたが、討伐級10の魔獣にかなり善戦しています。物理攻撃なんてほぼ効かないはずですのに....)
そうこう言っているうちに地中から飛び出してきた地癌双蛇ネッドサーペントの尾による攻撃。辛うじて受けるものの、重量とスピードによる加速に負け、従者は飛ばされ木に激突し、当の殿下は満身創痍であった。
「ここまでか....」
王族の護衛依頼、話を聞いていたがために妙な罪悪感が心の中で芽生える。周囲を見るに他に冒険者がいた形跡はない。ということは、あの依頼なしでここに彼らは来たのだ。
誰か冒険者がいれば話は別だったが、たらればの話をしても意味がない。
そして等々、レオンハルトに入った毒が周り力を無くして膝をついた。
「あぁ....くそ。俺にもっと力があれば....いや、己の力不足を恥じて死ぬくらいなら王族らしく誇らしく死ぬ。そっちの方がいいな」
ははっ....と乾いた笑いをこぼすレオンハルト。生粋の騎士ではないため、さすがに体力の限界に到達したのだろう。
(どうする....?私1人なら
考えてる暇など無い。この場で私が動かなければ、結局みんな死んでしまうのだ。この場の人間が全員死ねば当然国家を揺るがす事件になりかねないし、なにより目の前の人間を見殺しになどできなかった。
***
ガキィンッ!!
という音とともにその頭が弾かれた。殿下は驚いた様子で目の前に現れたそれを見る。それは倒れている仲間にまで張られていた。
「これは....障壁?」
「そうです。私が張りました」
驚いた様子で声のする方を見るレオンハルト。そこにいたのは銀色のローブにフードの奥の肩から金髪の三つ編みを一房垂らす少女、私だ。
「君は....?」
「話は後です。なんとなく状況は理解しました。今は目の前の敵を倒すことに集中させてください」
「あ、あぁ。わかった。俺は何をすればいい?」
こんな状況でも冷静に指示を仰げる....さすがは第2王子ですね。でも、今この場でボロボロの彼に協力できることはない。戦闘の邪魔にならないよう避難してもらうことだけだ。
「何も。ですが、動けるのであれば他の騎士の皆様を戦闘圏外まで運んでいただけると助かります。巻き込まない保証はないので」
「わかった。痛ッ....!!」
レオンハルトが唸る。恐らく、全身に回った毒による痛みの増加が来たのだろう。これが来るとまともには動けなくなる。
私は先にネッドサーペントに向けて魔法を放った。
「サンダーウィップ」
杖の先端から放たれた無数の雷撃が鞭のように収束し、数本の雷の鞭がネッドサーペントを縛り上げる。地面にも潜れず、暴れまわるネッドサーペントを見ながら、思念携帯鞄イメージバッグから取り出した解毒剤と簡易回復薬を殿下に放り投げた。
「使ってください。他の方々は後回しです。ひとまず殿下だけでも」
「あぁ。ありがとう」
殿下が飲んだことを確認し、すぐさま行動に移す。その瞬間に、サンダーウィップの拘束を解いたネッドサーペントが再び地中に潜った。
(ネッドサーペントに物理攻撃は効きません。地中に潜られれば当然ながら剣など届かない。まさに騎士の天敵。ですが、地中に潜る理由も、そのあぶり出し方もわかってます)
飛翔状態から着地し、杖に魔力を帯びさせる。そのまま杖の下端を地面に突き刺した。
「魔法領域、展開」
魔力を地面に伝わせて、円形状に領域を作り出す。パッと見変化はないが、自身の魔力を消費して魔法の伝導率を上げるのだ。まぁ効率が悪いためあまり使われない魔法だが、罠やあぶり出しには最適解だといっても過言ではない。
「
炎属性魔法の初歩も初歩の魔法である
これは術者から他の場所・空間へと熱を伝え、その温度を操作するというものだ。操作できる温度はせいぜいプラスマイナス5度まで。
基本は物や空間にしか機能せず、人体にはほぼ影響のない初歩的な魔法である。
だが、これが対ネッドサーペント戦の最適解。少なくとも、私はそう思っている。
(
そう考えていると、案の定凄まじい地響きとともにネッドサーペントが飛び出してきた。
ギシャァァアアアア!!と雄叫びをあげ、地面を熱した私に襲い掛かってくる。
「!!危ない!!」
騎士たちの避難を終えた殿下が声を上げるが、私の耳には入ってこなかった。
迫る敵を見ながら、私は魔力を練る。
熱き陽よ、逆巻く風よ、大地を燃やす光よ。我が魔力を糧とし、その自然を覆す一筋の刃となりて、眼前の敵を貫け。
「ーーー貫け、炎×風複合魔法“コンバージフレイム・ランス”!!」
極度の熱さを誇る炎の塊が風によって火力を増し、さらには収束されることによって1つの槍のように形成される。その炎の槍がまっすぐネッドサーペントに向かって飛んでいき、そのまま2頭分の喉元を貫いた。
熱量による発光と風による周囲への暴風が凄まじく、気づけばフードが取れている。だが、今の私はそんなことに気づく余地もなかった。
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