第5話 隠れ聖女とお呼び出し
ズズン....と倒れる
思ったよりも魔力消費が多かったですね....と思いつつ、周囲を見るとふと気づくことがあった。なんか周囲が見やすいなと。
(あっ?!フード取れてる?!)
身バレはマズイ。今まで誰も素性の知らない凄腕冒険者で通ってきたのに、こんなことでバレるのは勘弁だ。
咄嗟にフードを被りなおし、少し離れた場所にいたレオンハルトを見つけて駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。助かった、礼を言う。俺はエキドナ王国第2王子のレオンハルト・アヴァロンだ。あなたは?」
「私はアリアです。A級冒険者のアリア」
「ありがとうアリア。この音はいつか必ず返す」
「別にいいですよ。たまたま通り掛けに目に入っただけです。王族からの感謝なんて重たいものもらえません。強いて言うなら、あの蛇の素材を下さい。それでチャラってことにしましょう」
その言葉に面食らったのか驚くレオンハルト。その程度では気が収まらないと言いたげだが、相手方がそう言っているのだ。これ以上何かを押し付けるのは野暮だろう。そう考えたのか大人しく引き下がった。
「これ、他の騎士の方々に飲ませて下さい。回復薬と解毒薬です。先ほど殿下にお渡ししたのは“簡易”回復薬ですので、短時間しか動けません。なのでこちらも飲んでください」
そう言って薬を複数個放り投げた。
その行動に疑問を抱いたのか、不思議そうに殿下が尋ねる。
「なぜ放り投げるんだ?直接渡してくれればいいじゃないか」
「....諸事情ありまして」
その回答に益々不思議そうな顔をするが、とりあえず後回しだと渡した回復薬を飲むレオンハルト。すぐに効果が表れたようで、他の騎士たちに薬を飲ませに行った。
だがやはりすぐに効くものではなく、動けるようになった者は少ない。
(このままだと夜になる....この状態で魔獣に襲われれば生き残れる可能性は五分五分ってところですかね。でも、私が護衛として残るのは私のリスクが大きい)
となればどうするか?結論は1つしかない。
だが、これを見せれば怪しまれる可能性はさらに高くなる。
(まぁ....殿下にさえ黙ってていただければ問題ないだろう)
「殿下、容態はいかがですか?」
「あまりよくはないな。回復薬と解毒薬があっても傷が深い。失った意識までは戻せないだろ?」
「....彼らを助ける方法が1つだけあります」
「!!本当か!!」
「ただし....ただし殿下、これから起こることは誰にも言わないと約束してくださいますか?」
「....人には言えない事情があるんだな?」
察しがいい。コクンと私は頷いた。
騎士団の仲間を助けるためならば、そんな約束はいくらでも守ってやると言いたげな目で私を見る。
「わかりました。では僭越ながら....」
そう言って掲げた杖の先端に魔力が灯る。その魔力には光魔粒子が流れており、神聖なる光が周囲の自然にまで影響をほんのり与え始める。
その瞬間、やはりというべきか殿下の持っていた聖結晶のペンダントが光り始めた。それに気づいた殿下が私をペンダントを交互に見る。
「セイクリッド・ヒーリング」
私が唱えると周囲に倒れていた騎士たちの傷に光が降り注いだ。すると傷が塞がり、血が消え、そしてゆっくりと目を覚まし始めた。
全員が目を覚ますころには光は消え、ペンダントの発光も収まっていた。
「殿下、お約束守ってくださいね」
そうすれ違いざまに耳元でささやき、そのまま森の中に向けて私は消えた。
「あっ....おい!!」
殿下が振り向くころには、私はその場にはいなかった。
***
「アーリアさん!何をやらかしたんですかぁ?」
にっこにこの笑顔で聞いてくるリンリー。休日なのをいいことに今日も今日とて冒険者ギルドに来ていた私は、受付嬢リンリーの元にたどり着くや否やそんなことを言われた。
「やらかし....?昨日の依頼に何か不備でもありましたか?」
ホーンディアブルの角はしっかりと納品済みだし、死体処理も冒険者ギルドに任せてある。達成報酬も貰っている以上、不備など無いはずだが....
「そーいうんじゃなくて!昨日王族の方からギルドにこんなものが届きましてね?」
そう言って見せてきたのは感謝状だった。それも飛び切り豪華なものが。
「なんでも、王族の方々を救ったらしいじゃないですか?宮廷魔法師にしようなんて意見も出てるらしいですよ?」
「え゛っ....」
おおよそ普段は出ないような声で反応してしまう。
宮廷魔法師....そんな役職に就いてしまったら、なし崩し的にいろいろバレる。私の素性も、聖女紋の事も....そんなことになったら面倒極まりないと、回避方法を必死に考える。
「....逃げようかな?」
「あ、たぶん手遅れですね」
リンリーがそう言った瞬間、出入り口の前に止まった馬車から降りてきた誰かが入ってくる。
複数人の騎士を連れ、中央を歩く人物に見覚えがあった。
あぁ....これは確かに手遅れだ。そう感じた頃には私の目の前にその人物が立っていた。
「昨日ぶりだな。アリア」
「....どちら様でしょうか?」
「とぼけたふりをしないでくれ。目が泳いでるぞ」
「はぁ....何の御用でしょうか?レオンハルト殿下」
「陛下からお前へのお呼び出しだ。王宮へ同行してもらう」
ほーらやっぱり!!面倒ごとだと思った!
そう考えるも口には出せない。だが、全身で嫌々オーラを振りまいて遠回しに拒否してみる。
「ちなみに拒否権はないぞ。君の素性は知らないが、陛下に逆らえる権力を持つ生物は竜神様以外にいない」
「ですよねー....」
「依頼を理由に断るのもなしだ。既に支部長から依頼停止と同行命令が飛んでいる」
「裏切りましたねあの人....!!」
そこまで手が回されていれば、私は同行せざるを得ない。
めちゃくちゃ大きなため息を1つし、差し伸べられた殿下の手を無視して馬車に向かっていった。
***
案内されつつ王宮の中を歩く。てっきり大広間に通されるものかと思っていたら、案内されたのは小さな応接室だった。
「大広間ではないんですか?」
「どうして大広間だと?」
「こういった王族関連の感謝や祝い事は大抵大広間だったと思います。十数年前の北の国レンベルグとの戦争で武勲を上げたおと....騎士団長様の表彰もそこで行われましたし、殿下の社交界へのお披露目もそうでしたよね?」
その説明に驚いたのか、しばらく空を見ながら何かを考えるレオンハルト殿下。
....?何か変なことでも言っただろうか?
「いや、そうだな。その通りだ。よく知っていたな」
「あー....昔王立図書館で歴史書を読みまして。歴史書の更新は3年毎ですから、4年前の殿下の社交界についても書いてあったのです」
嘘はついていない。だが、うっかり素性のバレそうなことを口走ったのは反省すべき点だ。
今後は発言にも気を付けないと....
ソファに座る私の隣に座った殿下。なぜ私の隣?と思ったが、“触らぬ神に祟りなし”という言葉があるように、スルーするのが一番だろうと平静を装った。
「陛下が参りました」
しばらくして扉の向こうから聞こえた護衛の声を聴き、開かれた扉から国王が入ってきた。
白髪ではあるがその顔は老けていず、まだまだ現役を思わせるその風貌は一国の主として十分すぎるほどのオーラを放っていた。
「遅れて悪かったね。なかなか会議が終わらなくて」
正面のソファに座り、その背後に護衛の騎士が2人立つ。まっすぐにこちらを見るその目は一見優しそうに見えるが、その裏....瞳の奥の奥に光るのは観察の感情だった。
まるで狸の腹の探り合いでもするかのようだと思ったのは内緒である。
「初めまして、かな。私はエキドナ王国第38代目国王、ベルンハルト・ペンドラグナ・アヴァロンだ。今日はゆっくりお茶でもしながら話そうか、お嬢さん」
そう言ってベルンハルト国王はニヤリと笑った。
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