第23話 進展

 唐突な「態謁群」の長の登場に思わずベッドから滑り落ちそうになるも何とか耐え、そこから降りて一度呼吸を整えると、自らを謁長と名乗ったジルクを見据えた。


『あ、あの・・・』


『・・・?』


『レファを、レファを助けていただき・・・本当に、ありがとうございました・・・!!』


『・・・いや、礼には及ばんよ。これは交換条件で、その代わり君たちは我々の一員となってもらうのだからね。まだしばらくは調子が戻らないだろう、彼女の調子が戻ってからでいいから、それまではずっと傍にいてあげなさい。今日は、少し顔を合わせに来ただけだ』


『わ、分かりました。ありがとうございます・・・!』


『うむ、ではな。行くぞ、フラント』


『はっ———』


 去り際に軽く会釈をし、彼も去っていった。頭を深く下げたまま見送ったラグヴェアは落ち着かない心臓の鼓動を鎮めるように、ゆっくりと腰を椅子に下ろした———


 それから一週間以上が経過し、レファもその意識をはっきりさせていった。

しかし、彼女は自分の今の体についてあまり質問をしようとはしなかった。ラグヴェアはそれについて説明する責任があるとは感じていたが、それを正直に話すとレファにとって余計な負担になると思い、なかなか言い出せずにいた。


 術後、落ち着いてからフラントに改めて聞かされた、レファに施されたもの。

それは、損傷が少なかった彼女の頭部以外の部位を、3Dプリント機構技術を用いてほぼそっくりそのまま義体に置き換えられたということだった。

その過程で内蔵など臓器は取り除かれ、軽量金属フレームと人工筋繊維で構成された体となった。

 しかし、そのボディ全体を覆う人口皮膚の下部には人間らしい質感を残す為にシリコンフレームが使われ、また機械ボディが駆動する際に発生する熱をシリコンフレームに送ることで人肌のような暖かさを実現していた。

そして、その温もりがラグヴェアにとって、彼女が人間そのものであると実感させてくれるのだった。


 ただ、フラントからそれを伝えられた時、彼はある逸話を想起した。部品を入れ替えた物は、元の物体と同じ物と言えるのかというパラドックスの逸話を。


 頭部以外はほぼ全て別の物質に置き換えられた彼女はレファと言えるのかと、そんな漠然とした疑問が降ってわいた。ただ、その疑念はラグヴェア自身に向けられたものというよりは、彼女自身がそれによって混乱したり悲観しないかということだった。


 衝動的にその手術を受け入れたのはラグヴェア自身であり、レファがどのような形であろうと生き返るならば生き返らせて欲しいと。

自分勝手な願いのもとでそれを実現させてしまったが、息を吹き替えした彼女にとって、果たしてこれは最良の結果だったのだろうかと。


 時折、困惑したような瞳でラグヴェアの顔を見つめ返す彼女の様子を見ると、胸がどうしようもなく痛んだ。


 今後一生付きまとうかもしれない過去のトラウマを背負わせることになるかもしれない。本当は生き返ることなど望んでいなかったかもしれない。本当は自分のことを恨んでいるのかもしれない。

 どちらにせよ、緊張地に踏み込んでから利己的な自分が選んだ道だった。


 彼女をこのまま失いたくないという一心で決断した未来は、彼女にとって、果たして明るいものなのだろうか。


『ただいま・・・。レファ、今、大丈夫か?』


 組合の手伝いを終えた彼はそのような事を頭の中で巡らせながら、自分の家に戻るようにレファが伏す病室に戻り、彼女の傍らに置かれた丸椅子に座る。

戻ってきた彼に反応し、窓の方を向いていた顔は自然にラグヴェアの方に吸い込まれ、安堵したように静かに微笑んだ。


『お帰りなさいませ、ラグヴェア様。・・・はい、大丈夫ですよ。何かありましたか・・・?』


『・・・・・その、ずっと言えてなかったことで・・・』


 問われてから少し間を置き、膝の上に置かれていた彼の手には自然と力が入る。

僅かに口が開くが、思いとどまるように、そこからは声ではなく躊躇いが混じる吐息だけが弱々しく空間に流れた。


レファはそんな彼の様子を見て、僅かに逡巡した後、先に言葉を発した。


『私の身体のこと、ですよね・・・?』


『・・・っ、そう・・・そう、だよ。ごめん、説明しようと、したんだけど・・・』


『分かっています。ラグヴェア様は、私を見るたびに、とても苦しそうな表情をなさっていましたから・・・。顔は笑っていても、瞳の奥はとても不安そうで・・・』


『ごめん・・・言い出せなくて。レファが苦しまないようにって、思ってたはずなのに。俺自身が・・・一番怖かったんだ・・・』


『・・・私も、気が付いたらこの身体になっていて、とても混乱しました。でも、ラグヴェア様がずっと隣にいてくださったから、そんな不安は直ぐに無くなりました』


『・・・・・・・』


『けれど、ラグヴェア様はずっと不安そうな顔をしていますから・・・きっとこの身体のことで何か言いにくいことがあるのだろうと推察していました。ですから、ラグヴェア様が気疲れしないように、このことには触れないようにしていましたが・・・逆にラグヴェア様を不安にさせてしまっていたのですね。私の方から尋ねればよかったです・・・申し訳ございません・・・』


『や、やめてくれ・・・レファが謝ることじゃ・・・』


『記憶を辿っても、思いだすのは苦しい感情と暗い場所だけで、正確なことは未だ思い出せません。ですから、もういいのです・・・自分がこの身体になった理由も、正確な記憶も全て。今、ラグヴェア様が傍に居る。それだけで、私は常に満たされているのですから・・・』


 彼女は、震えるような声音でそう告げた。その目じりは仄かに赤く、透き通るような水滴が僅かに浮かんでいた。


『レファ・・・・・』


 あの事件があった日からずっと感じていた負い目。悔やんでも悔やみきれないその深淵のように深く、暗黒のような後悔。

 その闇に沈んでいた心を、レファはそっと拾い上げるように、清らかな清流で包むようにして抱き留めた。


『細かいことは、分かりません。なので、私も気にしないことにします。ですから、ラグヴェア様ももうそれに囚われることなく、これからもずっと、ただ私の傍に居て欲しいのです・・・。私が貴方様に求めるのは、贖罪の言葉ではなく、感謝の言葉なのですから————』


 レファはベッドから起こした上半身をラグヴェアの方に向けると、おもむろに両の腕を伸ばし、その肩に触れた。彼女の視線は彼の瞳の奥に深く入り込み、どこまでも見透かしてしまうかのようだった。


『っ・・・・』触れられた時、心のどこかで抑えていた感情の本流が溢れ出した。気付いた時には、ラグヴェアの頬に雫が伝う。


『ですからどうか、これからも私だけの・・・ご主人様でいてください。どれだけ貴方様がご自分を責めようと、私はそれを赦しますから』


 今度は自分から、最も大切な存在である彼を、ただ真っすぐに抱擁した。



 ————それから数日後。二人はフラントに連れられ、都市部から繋がる地下通路を通り神殿の地下へと移動していた。

 薄暗くも焚火で照らされた中には数人の謁者が二人の到来を歓迎するかのように立ち並び、無言でその様子を見守る。


 ここに来る前。レファには、これから自分たちはこの地を守護する者として生きていくのだと、そう告げた。無論、彼が謁者と交わした取引の話は伏せたまま。

 しかし、彼女は特に言及することもなく、ラグヴェアと共に歩める事と、新たに与えられる身分にどこか満足しているようでもあった。



『———では改めて、ラグヴェア・リードバン。レファ・シムルカース。君たちは今より緊張地を守護する者として、責を負う人生を歩むこととなる。歴史を重んじ、調和を尊び、安寧を求めることを常として、この責を全うすることを誓いたまえ・・・』


『・・・誓います』


『・・・お誓い致します—————』


 二人は同時に跪き、頭を垂れた。これより、二人にとって第二の人生が幕を開けたのだった。



 レファが義手を探しに離れてから、既に数時間近く経過しているように感じた。

実際は五分も経過していないのだろうが、彼女が離れると体感時間が些か狂うような気がする。


 そんなぼんやりとした感覚の中、尻ポケットに突っ込んでいた携帯端末が前触れなく振動した。


「・・・・・・?」


 老いぼれの尻肉を震えさせるそれを残っている方の手で取り出すと、ブルーライトの中で主張する新規メッセージの存在に気付く。


「・・・外部から・・・? いや、これは・・・オルカフィ・・・?」


怪訝に思いながらも、見知った人物から唐突に送信されたその文面に素早く目を通す。


「っ・・・・・・なるほど・・・。そういう、話か・・・」


『ご主人様、何かありましたか・・・?』


「ん・・・?あぁ戻ったのか、どうだった?」


『義手自体はいくつもありましたが、ほとんどが廃品でした。その中で使えそうな物を・・・。武装内蔵型のモデルです』


 ラグヴェアは、サイドテーブルにゴト——と重々しく鈍い音を立てながら置かれた金属の塊を見る。


『流石に、これは重すぎますでしょうか・・・』


「いや重さは気にしなくていい、ありがとう。それとレファ、これを見てくれ」


『・・・これは、オルカフィ様から・・・!? ですが、どうやって・・・』


「詳しいことは中に書いてあるが、アイツなりに上手くやってくれたらしい」


ラグヴェアから端末を受け取り、レファはその文面に視線を落とした。



 少し前—————


 統制庁にて、緊急のメッセージを部門統括長から受け取った機関情報部各位。

その中でオルカフィは喫緊の内容を読み取ると、まるで天啓を得たかのように脳を働かせていた。


 その内容は、正体不明の暗号通信が「華幕」の幕を突破したというものだった。


 「華幕」のシステム上、ターヴォル側が設定した特定の暗号通信を内部に送信すると、幕に接触する段階で、それが正規の通信規格であるか否かを瞬時に判断し、電波の通過を機械的に処理している。

 だが、正規ではない模倣した通信規格が別口から送られた場合、それが精巧に模倣されたものであっても僅かな違いを検知し、システムは直ちにアラートを鳴らすのだ。

 比較的短時間で連合側が組み上げた模倣暗号通信は見事に幕を突破。内部へと通信を届けたが、その細工は直ぐに見破られてしまう。


 その緊急事態が、オルカフィにとっての突破口となった。自らを危険に晒すことなく、比較的安全に緊張地内の仲間にディミュタの情報を届ける方法。


 統括長から賜った指令は、検出された不明な通信の出元を辿ることと、その解析だった。


「華幕」への直接的なアクセスは依然として禁じられているが、「華幕」の通信許可履歴は閲覧することが出来た。

それによると、確かにターヴォルが作成した量子暗号規格と酷似した特定の電波が少し前に幕を突破していることが分かる。


これだ。これを使えば————


 チャンスはシステムがアップデートされ、模倣規格が通用しなくなるまでの時間。正確な時間は分からないが、それほど猶予はないだろう。


 部門で共有される解析データを参照し、慎重にそれの模倣暗号通信モデルを作成していく。

 まさか連合側がそれを成し遂げるなど思いもしなかったが、オルカフィからすれば千載一遇の機会だった。


 伝えるべき情報を簡潔に、そして正確かつ迅速に入力し、件の模倣暗号規格で処理。まだ完全に解析さていない内に、改造を施した個人端末で統制庁の監視に引っかからないよう、緊張地に向けてデータを送信する。


(頼む・・・これで、どうにか・・・)


 それから一分ほど経過したところでシステムのアップデートが完了し、その通知がデスクトップに表示された————


 僅か数分の出来事だったが、数時間に及ぶ作業だったかのように感じられる。

運動をしていたわけではないが、額には汗が浮かび、呼吸はにわかに荒くなっていた。

 涼しい顔で同様に作業をこなしていた同僚たちを、目線だけ動かしそっと観察するが特に変化はない。

 露呈することなく、一連の操作をやりきったのだという達成感の余韻だけが、彼を静かに称賛していた—————



 そこには攻略不可能にも思われた「騎士」改めディミュタのデータがまとめられており、まさにこちらが欲していた情報が揃っている。


『すごい・・・「騎士」の弱点まで・・・』


「下の連中も勢いづいてる。この情報が届いた現状、機を逃すわけにはいかない」


『ですが、どうなさるおつもりですか?無酸素空間などそう都合よく・・・。オルカフィ様が具体例として提示された神殿の地下という案も、現状では・・・』


「まぁ・・・それはこれから考えるしかない。とにかく、奴の動きを封じることを最優先に考えないと・・・」


『一度、連絡可能な謁者や軍団長方と連絡を取り、改めて作戦会議を開きますか?』


「そんな余裕はなさそうだが・・・謁者の半数近くの信号が消滅してるし、主戦場に腰を据えていた双方の軍団長たちもおそらく既に・・・」


 無計画にこの情報をネットワーク上に投下しても逆効果になりかねない。現状、ヒントもなく手探りで「騎士」と交戦し続けている彼らからすれば、「騎士」を打倒出来る情報は喉から手が出る程に欲しているはずだった。しかし、「騎士」の周囲を無酸素空間で覆うなどという実現性がおよそ不明瞭なものを知らせたところで混乱を招くだけだろう。


 だからこそ、確実にそれを用意出来る環境を整えてから判断を下す必要があった。


 ラグヴェアはおもむろに立ち上がり、痛みに顔を歪めながら小屋の外に出る。慌てて追従するレファにその体を支えられながら、双眼鏡を通して「騎士」の様子を見た。

相変わらずデタラメな挙動を繰り返しているが、猛禽類が空を駆るような、激しくも素早い以前の動きとは違い、その一挙手一投足は鉛が張り付いているかのように鈍重なものに見える。


 オルカフィから送られた文書によれば、あれは酸素を供給できる環境である以上は「ほぼ」無制限に動き回れるはず。

であれば、今奴の動きを鈍らせている理由は何なのか。


 それが「ほぼ」の部分。結局のところ、あれの中に入って操縦している人間の精神状態にその動きの良し悪しは左右されるということだった。

いくら外部装甲のスペックが高かろうとも、操縦者の体調が優れなければ本来の出力を発揮することはできないのだ。


 オルカフィからは、内部で「騎士」———ディミュタを操作している人間の情報も幾分か送られた。

 当然ながら、人間である以上は精神に限界はやってくる。どれだけ心を深淵に沈めようとも、数時間に渡り人間をその身一つで殺し続けるなど常軌を逸している。




 死の淵で、生を渇望してしまった男がいた。生きるためには、殺さなければならない。

この身に纏う気色の悪い装甲が良い物だと、自らの精神と肉体を犠牲にしてあの拝金主義者共に証明しなければならない。

あの時願った思いと真逆のことをする。人を殺すなと、命を粗末に扱うなと、争いは忌避すべきものだと。


《あ゛ぁ゛—————ッ!!!》


 自分でも動作出力が低下していることには気づいていた。血を浴び、肉を吹き飛ばし、地形を抉り、破壊をもたらす。

 その光景は、やがて精神を摩耗させ、自分も一人の人間に過ぎないのだという現実を呼び起こすに足るものだった。

自身の体に特殊な溶液を流し込み、加工を施していなければ移動時の重力負荷には耐えられず、体はぐしゃぐしゃになり、脳も正常に動いてはいなかっただろう。


《気狂い共がッ!なぜ降伏しようとすらしない・・・!!》


 既に相当な数を殺したはずだった。彼に正確な数など把握できないだろうが、恐らく歴史上、個人で最も人間を殺したのは間違いなく彼であろう。


 そんな躍動する殺戮兵器に臆することなく、一体何処に隠し持っていたのか、次から次へと新たな武器を持ち出し、鉛玉、榴弾、携行ミサイルなど、発射できる物の全てが豪雨のように迫る。

つい数時間前までは圧倒していたのはこちらのはずなのに、今では半ば防戦一方となりつつある。いくら破損部位を再生できるとはいえ、それにも限度はあり、同時に複数個所を再生しようとすると脳に大きな負荷がかかり隙を晒す要因になる。


 脚部のスラスターで方向を微調整しながら、最低限の動きでそれら予測された弾幕を避け、大きく跳躍し空中へと飛び上がる。トンボのような急制動を織り成しながら回避を続け、時折レーザーを放ち一度に殲滅する。


 どれだけ最新鋭の技術の元に圧倒しようとしても、自分を包囲し迫りくる彼らは、皆一様に何かに憑りつかれたかのように、退くということを知らないように、汗と血と泥を振り払い、それぞれ声を挙げながら突き進む。


何があろうと、この外来種を緊張地から駆逐する————


俺たちの聖域から出ていけ————


ケルペの主の名のもとに————


《ッ・・・・・・!! 俺だってなぁ・・・ここで死ぬわけには・・・》


 手を開き両腕を天に突き上げると、二の腕はつぼみが開花するかのように形を変え展開する。その花びら一枚一枚から、まるで花粉が飛ぶように量子の粒が辺り一面に散布される。


 見たことがない現象に突撃を続ける戦闘員たちは思わず足を止め、その奇妙な現象に目を丸くし、動揺が広がる。


「なに立ち止まってんだ!!突っ込め!!」


 駆ける。後退するにも遅く、決死の覚悟で飛び込んだ男が持つ鉄塊による一撃は確かに「騎士」をボディを打ち据えた。しかし————


《いかねぇんだよ・・・!!!!!!》


 その直後、開いた手をグッと握ると、脳が沸騰するかのような熱を感じた。

同時に、散布された黒コショウのような粒子全体が指向性のビーム領域を形成し、網膜を焼くような閃光と爆発を起こし、周囲十メートル四方は黒煙とプラズマに包まれる。


《う゛ぅ・・・!?》


 辺りは瞬く間に赤黒く染まり、目の前に群れを成していた人影は消え去る。

蟻をまとめて蹴散らした代償は大きく、思わず吐き気と動悸が全身を駆け巡った。しかし、伏兵は「騎士」が怯んだ隙を逃さない。


「今だぁ!!!」


 バン! パシュ! ドン! ガガガガガ!!———多様な発砲音が聞こえた時には、既にボディは空中を駆け、どれだけ息が苦しくても動き続ける。


 僅かな被弾、貫かれる装甲、脳を犠牲にして瞬時に再生する外殻。遮蔽物を必要ともしない狂気の戦意。

まるで終わりが見えない。形容しがたいその理不尽は、確実に「騎士」を追い込んでいた。


 しかし、緊張地の戦闘狂の数も徐々に底が見えており、実質的な戦闘員の数は千を割っていた。



「謁長、そちらの容態は?」


 一方、カフェに後退していたロロンチームは、一息つきながらも負傷したという謁長に再度連絡を取っていた。


「はい・・・そうですか。私もネットワーク上で戦況は確認しています」


 通話をする彼女の表情は暗く、動揺が明らかだった。しかし、唐突にその顔が晴れる。


「えっ・・・オルカフィが!? 本当ですか?・・・はい、そうです。それは・・・確かにそうですが・・・。えぇ、分かりました。では—————」


 車体に寄りかかりながら通話をしていた彼女は、時折感情を発露させながら、通話相手と若干の戸惑い交じりに言葉を続けた。

 その通話を終えると何か考え事をするかのように、耳元から外した端末を少しじっと眺めていた。


『謁長はなんと?』


「・・・ひとまず彼の体調は安定してるから問題はないそうだ。なにより驚くべきことは、あの「騎士」の弱点が判明したことだ」


「本当ですか!?」


「あぁ、オルカフィ・・・ターヴォルに潜入していた謁者が上手くやってくれた。とはいえ、まだ本格的に動き出せないというのが現状だ。・・・そこで、ドンワーズ。君に、折り入って頼みたいことがある」


「頼みたいこと・・・?」


 少し間を置き、ドンワーズに向き直った。そして言う。


「・・・君には、緊張地の英雄になってほしい—————」


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