シンとした孤独

 先日東京を旅行した際、少女漫画月刊誌50周年を祝う「花とゆめ展」を見る機会があった。遠い昔、小学校高学年の頃漫画を浴びるように読んでいたことを思い出した。今から45年ほど前だ。


 当時、私はシンとした孤独の中にいた。両親とも仕事で忙しくあまり家にいなかった。家にいる長い時間いつも漫画を読んでいた。


 母は家事を手伝うと月に3000円給料をくれた。小学生にとっては大金だった。それをほとんど全て漫画につぎ込んでいた。少女漫画の月刊誌は当時400円くらいだったように覚えている。それを月に6冊買っていた。漫画とはいえ、すごい読書量だった。


 小学生の時に読んだ漫画は孤児が出てくるものが多かったように思う。中学生になれば深い友情を取り扱った作品、さらに成長すると恋愛についての内容も出てくるが、小学生が読む内容は孤児や親を早くに亡くした子供が登場することが多かった。


 いがらしゆみこ作のキャンディキャンディは、孤児院で育ったキャンディがお金持ちに引き取られるのだが、それをやっかんだ。親戚にいじめられたりする。でも、キャンディは持ち前の明るさとバイタリティで、看護師という職業を持ち、自分の人生を切り開いていく内容だ。


 小学生の頃、しんとした孤独を持て余し、孤児が出てくる漫画を読みふけっていたことを思い出し、あの頃の私は本当に寂しかったのだなと思い返した。そして今までその寂しさは親がそばにいてくれなかったための寂しさだったと思っていた。


 しかし、今回も展示を見ながら別の見方もあると気が付いた。小学校高学年といえば反抗期の入り口だ。私には反抗期というものはなかったが、漫画を読みふけることで親に反抗することを試みていたのではないだろうか。


 親がそばにいたとしても1人になりたいという気持ちが芽生える年頃だ。自分だけの世界を持ってみたい。しかし、肉体的にも経済的にも精神的にもまだまだ親の保護を必要とする。だから、漫画を読みながら、いろんな試練を乗り越えていく主人公に感情移入しながら、これから大人になる予行練習をしていたのではないだろうか。


 漫画雑誌の50周年展には平日だったのもあり、大人が大勢つめかけていた。人生に悩みがない人なんて誰もいない。みんな子どもの頃、辛い気持ち、満たされない気持ちを漫画にぶつけて助けてもらった人たちだ。見ず知らずの人たちだが、なぜか懐かしさを感じつつ、会場を後にした。

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