Intruder ージャマモノー

さらに2日が経ち、やっとのことで俺は復活した。

体のだるさは治り、頭痛も落ち着いた。


都も魔物の襲撃がなくなったためか、落ち着きが戻っている。

他の都も魔物の襲撃はここ5日はない。

ミカゼさんや風使いで都の結界を強くしようと取り組んでいるのだそう。


結界は各都に魔物の襲撃に備えて昔に張られたらしい。

しかし、魔物は100年前に滅亡したため、結界は弱くなっている。

前回は都まで侵入はしなかったが、また魔物が来た際に結界を破って襲われると大変、ということで話を進めている。


今俺はと言うと、いつも通り図書館にいる。

魔物のこと、一からすべてを知るためだ。


また魔物が来た際にはぜひよろしく頼む、と風使いから頼まれたからだ。

それに関しては全く問題はないのだが、魔物が来るたびに魔力切れで倒れるのは嫌だから、効率の良い方法を見つけるために調べている。



あの魔石の耳飾りが飾られている本はまだあった。



調べた本には、魔石の大きさが大きいほど、輝きが強いほど魔力は強く、安易に魔物を倒せる、とあった。


俺が持っているものは大きくないし、濁っている。

別の大きい、輝きが強いものを使いたいと思うが、魔石はそう簡単に遺っている物ではない。

今は自分が持っているものでどうにかするしかない。


「……魔物の特性……?」


魔物にも特性があるのか。


「『魔物は人々の魔石を喰って成長する。その魔石の特性に合わせて使える魔法・攻撃が特定する。全身で攻撃する魔物は魔石を喰っていないので魔法を使えず、下級の魔物だと思われる。それに対し、中級・上級魔物は魔石を喰っているので魔法で攻撃をし、その証として、魔石を喰った魔物の額には魔石がへばりついている』……」


俺は五日前のことを思い出す。


俺が倒した魔物。

赤い目に禍々しい邪気。

額に魔石は……なかった気がする。


ってことは、あれは下級の魔物だったのか。

あれより強い魔物がということは想像したくない。

下級魔物で俺は苦戦したのだから。


「『また、魔石の大きさにより魔物の強さは異なる。小さいものから大きいものにかけて強くなる。下級魔物は自然魔法で基本対処できるが、中級上級となると、そうはいかない。魔石の種類によって効果が異なる』……」


次のページをめくると、表が描かれていた。

存在する自然魔法の種類は「炎、水、木、地、天、花、風、氷、月、星、日」の11種類。


俺が使えるのは「氷」だから……「炎」には効かず、「水」、「花」、「木」には効果がある。

しかし、両者に魔力の差があるなら効果が逆になることもあれば、互角になることもある、のか。



そろそろ家に帰ろう。

本を元に戻して、図書館を出る。


「あ」


図書館の前に見覚えのある男子グループがいた。

4、5人で俺と目が合った瞬間、瞳の色がスッと変わった。


「……レン」


「あいつ、この前の魔物倒したんだろ?」


「ありがたいけど、やっぱちょっと気持ち悪いよな」


「こいつだけ自然魔法使えるの変だろ」


コソコソと話す。

こいつらは俺が自然魔法を使えることに対して、「気持ち悪い」と言う、クラス中のでは一軍みたいなものだ。


別に、魔物を倒したことはどうだっていい。

風使いだけだと都は潰れているだろう、という予想が当たっただけだ。


こいつらの相手をしている暇はない。

疲れるだけだ。


その場を去ろうとした時だった。


「おい!!何逃げようとしてんだよ!」


俺は振り返って、奴らを睨む。

目が合った瞬間、奴らは一瞬ひるんだがすぐに睨み返してきた。


「……何が言いたい?何の文句がある?」


「お前、さっさとここから出て行けよ!!」


「みんな気持ち悪いって思ってんだよ!!」


「自然魔法を使いやがって!!調子に乗んな!!」


いつの間にか連中は俺を囲んでいた。


「……はあ」


相変わらず、だな。


「……俺はお前たちに何をした?自然魔法で攻撃したのか?住民を殺したのか?」


「ぐっ……お前、自然魔法を使えるってことは、あの魔物もお前の仕業なんだろ」


「「「えっ……?」」」


中心メンバーのアランがそう言い、取り巻きが驚いたように見る。

そして、瞳の色がさらに怒りの色に変わった。


「……証拠は?」


「お前が自然魔法を使えるからだ」


「倒した意味は?」


「……チッ」


やっと黙った。

……どいつもこいつも口先だけだな。


「とにかくさっさと出ていけ」


「そうだ、出ていけ!!」


「邪魔なんだよ!!」


アランがつき飛ばし、マントを引っ張られる。


この世界のことなんだ。

どうせどこの都に行っても邪魔者扱いされるんだ。


それならいっそ消えたっていい。

このまま『俺』が誰なのか分からなくたっていい。

俺は……そういう運命なのだから。


「……なあ、今あっちから何か聞こえなかったか?」


取り巻きの一人が北の方を指して言った。

アランが苛立ちながら耳を澄ます。


「何も聞こえないけど」


「いや、今雄たけびが聞こえた気がして……」


「雄たけび」という言葉が聞こえた瞬間、俺は耳を疑った。

連中も俺を見た。



まさか、また魔物か……!?!?



「いい加減にしろよ!また魔物を召還したのか!?」


「自分で魔物を創って信頼を得よう企んでるのか!?」


「絶対そうだよなー。こいつ異国者だし」


……何を、何を根拠に……?

何でも好き勝手言いやがって……!!


「ひっ……」


先に目が合ったアランの表情が怯えている。


その時、北の方から人の騒ぎ声が聞こえた。

図書館からも人が慌てて出て来た。

司書も出てきて、俺たちを見てぎょっとした。


「早く逃げなさい!鉱山の方から魔物が出たらしいわ!!」


「が、ガチ!?」


「早く逃げるぞ!!」


連中は慌てて南の方へ逃げ出した。

やっぱり口だけなんだな。

情けないな。


司書は残った俺を不思議そうに見る。


「あ、あなたも、」


「俺は大丈夫です。の俺なんか気にしないでください」


俺はそう言って司書の横を通り過ぎる。


「ま、待ちなさい!そっちは、」


司書の言葉なんて聞きたくない。

いや、誰とも話したくない。

俺は走り出す。



――俺は、邪魔者なんだ。



でも、ここは俺が守りたい。

俺しか、いないんだ。


そのことしか頭にはなく、俺は無我夢中で鉱山に向かって走った。

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