決着は一瞬
若葉が泣き止み、仮面を返してもらった後、俺は彼女と向き合って立っていた。
「俺は、絶対に黒龍を倒して帰ってくる」
「…………………うん」
「だから、さよならは言わない」
「………うん」
若葉は俺の言葉を信じていてくれているが、さっきのやり取りで、俺の言葉にどうも説得力を感じられない。なら、少し変えてみるか。
「俺が帰ってきたら、この森を案内してくれないか?」
「え?」
「俺、まだこの世界にきて日が浅いから、いろいろなところを案内してほしいんだ」
「………………………うん、分かった」
「じゃ、行ってくる」
「楽しみにしてる…………………行ってらっしゃい」
俺は、今回は指切りをせずに黒龍のもとへと向かった。
既に指を切っているためというのもあるが、別に指切りをせずとも信じてくれていると感じたからだ。
俺は、前回とは全く違った視線を背中に感じ、黒龍のもとへと走った。
そして、黒龍の前で止まった。こいつにはお礼を言わなければならない。
「さっきお前が目の前にいたのに、なぜか仮面が外せたよ。空気を呼んでくれたのか?」
「……………………」
「だんまりか。まあ、伝わってるかどうかわからないが、一応言っとくぞ。ありがとう」
「……………………」
俺の言葉を聞いても、奴は一言もしゃべらない。だが、こいつが俺たちに気を使っていたことは確かだろう。俺が霧になって逃げたとき、あの仮面は俺の血にくっついてきたのだ。その後も若葉のもとへ戻っても外れる気配はなく、黒龍が定位置に着いた時ですら外れることはなかった。
もしかしたら、こいつが望んでいるのは_______
「ま、どうでもいいか」
「…………………」
黒龍は、さっきと変わらず黙っている。だが、どこか早く始めろとうんざりしている気がした。
安心しろよ。こっちだって最初から覚悟はできてるさ。
「今度は最初から、全力を出させてもらうぞ!」
俺はないはずの右腕に半分の魔力を込める。そしてもちろん発動するのは_____
「神話再臨(イミテーション・ゴッズ)!!」
神話再臨。
それは、万物の源である魔力を、かつて存在した神器(・・)を模した形にすることで、無理やり神の力に変換し、その権能をふるう奥義。
魔力を神の力に変換し、神の力を人が使うという無理に無理を重ねた、身を亡ぼす技。
「モデル:古き神々の神話(ケルト)」
モデルは、かつて一度は破れ右手を失い、銀の腕を得て勝利した神。
そしてその権能は、逆転。
「銀の腕(アガートラーム)!!」
俺の右腕に、銀色の機械のような手が生成された。
そして、ようやく危機感に気づいた黒龍が俺の方へと向かい、腕を振るおうとするが。
「遅い!!!」
俺は素早く黒龍の懐へと潜り込み、生成された銀の腕を振り上げ、飛び上がり、アッパーカットを食らわせた。
空高く舞い上がるほどの速度で繰り出された神話再臨で生成された腕。かつて破壊魔法ですら破壊できなかった鱗にはひびが入り、黒龍は大きくのけぞって体勢を崩していた。
だが、さすがは最古の魔王というべきか。黒龍は俺の一撃にのけぞりはしたものの、顔を俺の方に向け、口を開きブレスの準備をした。
俺はそれを気にも留めず、振り上げ握りしめていた銀色の拳を開き、手の中に残っていたすべての魔力を込めた。そして_____
「神剣(ひっしょうのつるぎ)」
黒龍の口が輝きを帯び始めたと同時に、手の中に光り輝く巨大な剣が出現する。
俺の身長の三倍ほどの長さで、十字架のような形をしたそれは、黒龍のブレスに勝るとも劣らない光を放っていた。
俺は黒龍がブレスを放つと同時に、剣を振り下ろす。
前回よりも魔力が多くこもった黒龍のブレスだったが、神剣は一瞬にしてブレスを切り裂き、巨大なアギトへと到達してしまった。ブレス対神剣の勝負は一瞬にして決着がついた。
だが、ここからが本番と言ってもいい。
一瞬でブレスを切り裂いた神剣だが、黒龍に到達した瞬間、その勢いが弱まってしまう。
それもそのはず、黒龍が持っているのは“絶対防御”という神の力で、俺が使っているのは、相手を絶対に切り裂く神の剣。
神の力(カリモノ)と神の力(ニセモノ)の戦いだった。
「っっ!!」
神は神を傷つけられるというルールがあるように、ゆっくりと黒龍のアギトを切り裂いていくのだが、黒龍も負けじとブレスを吐き続けるため、その余波が俺にダメージを蓄積させていった。
「うぉぉぉおおおおおお!!」
だが、既に魔力を必要としない俺に対し、魔力を注ぎ込み続けなければならない黒龍。どちらが勝つかは明白だった。実際の時間は短いのだろうが、ずいぶん長く感じた攻防は終わりを迎え、黒龍のブレスの輝きが収まったときには、神剣の輝きに包まれ、黒龍は真っ二つに引き裂かれた。
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