未知との遭遇

俺は自身のレベルを見て、これまでの苦労を思い浮かべてしまったが、その思考を遮り、先ほどまでオオカミがいた場所を眺めた。

「血、おいしかったなぁ」

 最初は血を飲むことに抵抗があったのだが、吸血鬼の亜人だからか血がおいしく感じるため、今ではもう抵抗はなくなっている。

ちなみに、味は変わらないけど、結晶よりも血のまま飲んだ方がお腹がいっぱいになるので、どちらかというとそのままの方が好きかなぁ。

「………………………噛まずに舐めとけばよかったか」

 それでもレベルを上げる効率を考えると、やはり結晶にするべきなのだろう。

 “真祖”の称号の能力の一つである、血と魔力を操る力は、自分だけでなく、倒した魔物にも効果があるようで、血の翼を操り、凝縮する要領で先ほどのオオカミのように小さい結晶にすることができるようになったのはこれまでの生活の中で大きな発見だろう。

 幼女神(黒)の言っていた通り称号というのは強力なもので、それでも“真祖”はかなり特別なものだった。

  “真祖”の称号は、吸血鬼の種族固有の称号でその中でも一人しか持てず、生きている人や魔物の血を飲むと眷属にできること、その持ち主が死んだ場合他の吸血鬼に称号が移ること、そしてその称号を手に入れた瞬間、年を取らなくなることなど、戦闘以外での効果が大量にあった。

 メアリーの外見が年齢のわりに小さいことや、もう他に吸血鬼がいないこと、そして以前のこの称号の持ち主は_________いや、ただの想像だし、やめておこう。

 この一カ月で何十回目かの考えを遮り、バシャバシャと水を意味もなくかき回す血の翼を収める。そしてそろそろ岸から出ようとするのだが。

 あれ、何しようとしてたんだっけ?

 何かしようとしていたことがあった気がして俺は動きを止めた。

「………………………あ、変態仮面」

 そして本来の目的を思い出した俺は仮面を外そうと仮面に手をかけたが、何やら森の中から足音が聞こえてきたため、仮面を外すのを再び諦めることになってしまった。

「はぁ、今日は敵がよく来るなぁ…………」

 俺はまた戦わなければいけないことに辟易しつつ、血の翼を出す準備をして音の聞こえる方へと顔を向けた。

 すると、川に囲まれた方の森の中から、二匹の赤いスライムと、緑色の髪をしたアンと同じくらいの年齢の少女が出てきた。

「「!?」」

 俺は魔物ではなく人が出てきたことに驚き、少女は俺の格好に驚いて顔を赤くしてしまっていた。そして俺が驚いたのにももう一つ理由がある。

 顔を見たとき、一瞬だけ幼女神(黒)に似ていると思ってしまったからだ。

 だが、よくよく見ると美少女ではあるもののあまり似ていないことに気づく。いや、似てるのかな?

 俺がそんな考え事をしていると、目の前の少女はさらに顔を赤くしてしまった。

別に同性なんだから裸をそこまで気にしなくても______いや待て。同性?俺はもともと男じゃないか。

俺は裸を見られても動じずに彼女にかける言葉を考えていたのだが、思いとどまった。

異性に裸を見られたんだぞ。体を隠すべきじゃないのか?それとも、悲鳴の一つでもあげてみたほうがいいのか?

 だが、初めてのことが多すぎて何をするのが正解なのかわからず、俺は混乱していた。そして混乱している間も、目の前の少女はさらに顔を赤くして手で顔を隠してしまう。

 このままではまずい。早急に次の行動を決めなければ……!!

 そう思った俺は、結局悲鳴を上げるという選択肢を選び、恐らく人生初であろう悲鳴を上げようとしたのだが

「き______」

「な、なんて格好をしてるんですか!?」

 目の前の少女の叫びにかき消されてしまった。

「………………え?」

「早く服を着てくださいっ!!!」

「………………え??」

 これ、俺が悪いの?どちらかというと、そっちが覗いてきたみたいな状況だと思うんだけど。

「えっと………………ごめんなさい???」

 俺は少女の発言に納得がいかなかったものの、結局謝ることにした。多分、裸を見られたはずの俺より見たほうの少女の方が顔を赤くして照れていたため、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになってしまったからだと思う。

でもやっぱり納得はできなかった。

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