暗い道のり

「そういえば。結局、アンのお母さんを殺したのって誰なの?」

「!!」

 流石に俺がこの質問をすると思っていなかったのか、かなり驚いていた。

「推理小説とかだと、第一発見者が一番怪しいと思うんだけど……………どう?この推理。当たってる?」

 サムさんは口だけではなく目を閉じ、この件に関しては何も言いたくなさそうだった。

 だが、メアリーの姉が犯人でないことはなんとなくわかった。

「それはアンも知っているのか?」

「………………直接お教えしたことはありませんが、なんとなく察しているでしょう」

 俺は軽々しくできると言ってしまったが、アン、そしてメアリー。君たちの道はこんなにも困難な道のりだったのか。

「それじゃ、短い間だったけどお世話になりました」

 森にたどり着いた俺は、先ほどの会話がなかったかのようにサムさんに別れの挨拶をした。

「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そして、お嬢様をお守りくださり、ありがとうございました。お気をつけてください。」

 お辞儀ができない状況で、それでもお辞儀をしそうになる。それほどの感謝をサムさんから感じた。

 俺がサムさんから手を放し森へと入っていく直前、少しの間振り返り、困難な道をこれからも歩み続けていく少女の顔を見た。すると、俺が仮面越しでも見ているのが分かったのか、アンと目が合った。

 そして俺は口パクで、頑張れ、と声なき声援を送った。

 騎士たちが追いかけてきそうだったので、そのあとすぐに森に入り、奥へ奥へと進んでいく。

 俺の声援が届いたのかどうかはわからないが、木々の隙間から見えた彼女の顔は、笑っているように見えた。




どれくらい走ったのだろうか。

道なき道を進み、木の根をよけながら森の奥へと進んでいくこと数刻。

俺は、森に逃げるという選択をしたことを早くも後悔していた。

それもそのはず………。

「はぁ……はぁ……」

 どこから走ってきたのか分からなくなるまで走った俺は肩で息をするほど疲れていたのだ。

 それに、フルマラソンを走った後のようにわき腹が痛い。

 いや、この痛みはわき腹というよりも、腹の中心というか____

「はぁ……はぁ……そろそろ…休憩したほうがいいか……」

 戦いが終わってアドレナリンが切れてきたのか、再び熱を帯びてきたおなかに手を当て、近くの気に手をつき、寄りかかる。

「…………………」

 森の奥深くまで逃げ、追手も来ないというのに、なぜかこのまま進み続けなければならないという焦燥感にかられる。

少し周りを見渡すと、まばらに生えている木々を見た。地面の見えているスペースがかなり広いが、木の高さが相当あり、幹も太いため、重圧感を感じた。

それに、木が一定間隔で生えているため、どこか道のようにも見える。

「……いや、これは_____」

 俺が前世で死んだときのような、城の長い廊下のようだった。

 上を見上げると、空のほとんどは枝葉に覆われている。どこか閉塞感を感じる薄暗さも、それを思い出させたのだろう。

 そして、おなかに怪我をして、息を切らしながら進んでいるという状況も、あの時とほとんど同じだった。

 だが_______

「まあ、穴が開いていないだけましか」

 声に出したことにより安心したのか、焦燥感はなくなり、その場に腰を下ろすことができた。

 だが、あの時と同じように、また一人に戻ってしまったことにより、少し気分が落ち込んでしまった。

 久しく感じていなかった孤独感が、戻ってきたのだ。

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