混沌×混沌=?

「よし、こっちに来い!」

 俺はアンを盾にしつつ、サムさんにこちらへ来るように促す。

 すると、すぐにいろいろと察してくれたのかサムさんは急に真顔になり、こちらへ向かって歩いてきた。

 今までの行動と言い言動と言い少し、いや、かなり不安だったが、サムさんはこういう時しっかりできる人らしい。アドリブの苦手なアンとは大違いで、俺に魅了されて操られている演技が上手かった。

「「………………」」

 本当に魅了されてないよね?大丈夫だよね?

「まずい!親父を止めろ!!」

 俺に意識が集中していたため、サムさんが俺の方に歩いてくるのが予想できなかったのだろう。騎士(リーダー)改めサムさんの息子が焦るが、もう遅い。

 俺は左にアンを、右にサムさんを従え、その二人を盾に騎士と神官たちの前に立ちふさがった。

形勢が逆転したことに騎士と神官たちの緊張感も高まり、これから何をすればいいのかが分からない俺と、指示を待ってアドリブで何とかするしかないアンとサムさんも緊張をしていた。

 そしてその緊迫した空気の中、一人の若い騎士が声を上げる。

「おい、お前!副領主様を人質にとって、何をするつもりだ!!」

 普通だったら相手を刺激してしまうので絶対に言わないような一言。若いからこその正義感の空回りというべきなのだろうが、その正義感は一周回って俺に深々と突き刺さった。

 俺はこれからどうすればいいのかを考えていない。完全に図星だった。

「おい!余計なことを言うな!!」

 だが、彼の一言が俺にとって図星だったことは俺にしか分からない。そのため、当然のようにサムさんの息子に怒られてしまっていた。

 そんな二人を見ていると、二人の顔というか雰囲気がどこか似ているような気がしてきた。

これ、もしかしてもしかするのかな?

「ですが、父上………!このままではあいつにいいようにされるだけです!それと母上、お二人の洗脳を解くような魔法はないのですか?」

「あったらもっと早くから使っていますよ」

 おっと、母親もいた。

騎士と神官がなぜ自然に連携が取れていたのかが謎だったが、そういうことだったのか。

どうなってんの?この職場。サムさんの家系の比率高すぎないか?

俺がサムさんの家系が気になりすぎてそちらに意識を集中させていると、アンとサムさん以外の視線が俺に集中していることに気づく。

「「「…………………………」」」

軽く周りを見渡してみると、俺の指示で動くアンとサムさんを含め全員が俺の次の行動を待っていた。立場が逆転した以上、彼らも俺の行動を待つしかないのだろう。だが、俺はそれでも彼らの行動を待ち続けた。

「…………………………」

 先ほどまで受け身の対応しかしてこなかったため、急に自分の思うように行動していいと言われても、どう行動すればいいのかを考えているはずがない。だからこそ相手の行動を待ったのだが、今回ばかりはその時間を待つことではなく次の自分の行動を考えるべきだった。そして長い静寂の時を経てその考えに至ったときには、連戦続きの俺の脳はすでに限界を迎えてしまっていた。

 そもそも、俺はサムさんを魅了して何がしたかったんだ?

 そこから一切、思考が進んでいない。

 そもそも脳だけでなく、体力が限界を迎えてしまっているらしい。

 もう適当に場を混乱させれば何とかなる気がする。俺が混乱して訳の分からないことになっているときは、他の全員も混乱させてしまえばいい。もう訳のわからないまま行動してしまおう。

「そうだな、副領主も手に入れたことだし、代わりに領主は返してやろう」

 そう言って俺はアンの背中を押して騎士と神官たちのもとへと向かわせた。

 訳も分からず領主を騎士と神官たちのもとへ返す俺と、訳も分からず返されていくアン、そして、なぜ領主が帰ってきたのかが分からない騎士と神官。

 俺たちに再びカオスな時間が訪れた。

「領主様が帰ってきたぞ!………???」

「いや、帰ってきたが、副領主様が…………」

「どうするつもりだ?まさか、ここに副領主様の家族が多いことを知って!?____」

 何かわからんけど成功したらしい。やっぱりあの時、手を挙げて俺がミサキだって言った方がよかったぽいな。

 まあ、今の俺にはこれくらいが限界だろう。本来であれば騎士と神官たちを説得するところまではいけるのだが、それはもう諦めるしかない。

 ということで。

「お前たち、そこを動くなよ。動いたらどうなるか…………今度こそわかるよな?」

「「「「!!!」」」」

 俺はサムさんを盾にしつつ、ゆっくりと俺たちが来た森とは逆の森へと下がっていく。

 アンの言っていた、黒龍のいる森の方へ。

「巻き込んですみません、サムさん」

 俺は騎士や神官たちに聞き取られないように、小さい声で話す。

「いえ、こちらこそ、念のためを思って連れてきたのにそれが逆効果になってしまい、申し訳ありません」

「「………………」」

 しばらく続く沈黙。

 俺がゆっくりしか進めないせいで、気まずい。何か話す話題は_____

「あ、あと気になってたんだけど、あの中にサムさんの親族ってどれくらいいるの?」

「十人です」

「十人!?………あっすみません」

「い、いえ、大丈夫です」

 まずい、驚きすぎて大きな声が出てしまった。耳元で叫ばれたサムさんの耳に少しダメージを負わせてしまったかもしれない。

 というか、十人って、え?

 息子か娘の家族と、その孫で数えればそれくらいいるのか。いや、そんなにいるのか?

「もしかして、ここ以外にも城で働いていた親族の方もいたりします?」

「えぇ、六人ほど」

「へぇ~六人か」

 さっきの十人と比べると結構少ないな。いや、少なくないのか?

「えっと、その、お幸せに?」

「はい、ありがとうございます?」

 再びの沈黙。

 後ろの森とかなり離れていたせいで、まだ半分しか進んでいない。

 他に話題…話題………あ。

「そういえば。結局、アンのお母さんを殺したのって誰なの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る