混沌
「おい!領主様に何をさせようとしている!!領主様を開放しろ!!!」
俺が仮面を外すのをあきらめて棒立ちしているにもかかわらず、アンが必死に仮面を外そうとしているのを見た騎士(リーダー)が、剣を抜いてこちらに近付こうとしてきた。
それに合わせ、他の騎士たちも剣を抜いてそれに続き、神官さんたちは逆に後ろに下がって魔法か何かでサポートできるように立ち回った。
メアリーとの戦いは一対一だったため何とかなったが、満身創痍の今、大勢と戦うのは少しきつい。だが、戦うことは避けられそうもない。
どうにか戦わずして切り抜けられる方法はないのか?
俺は脳をフル回転させ、この場を切り抜ける方法を必死に考えた。
そして、出た答えは______
「そ、それ以上近づくな!近付いたら撃つぞ!!!」
「「「!?」」」
目の前で仮面をとろうとしていたアンを人質にすることだった。
騎士と神官たちは俺の行動に焦って立ち止まる。
そしてアンは俺に羽交い絞めにされたことに驚き、俺はというと撃つものがないのに撃つぞと言ってしまうほど焦っていた。
これほどまでにカオスな状況は味わったことがなかった。
「くそっ!!領主様を人質に取るとはっ!!」
「少しでも怪しい動きをしたら………どうなるかわかるよな?」
「くっ、最初に亜人かどうか確認をせずに、真っ先に領主様と引き離すべきだったか………!!」
「………………」
ホントにそうだよ。もし俺がアンに危害を加えようとしていた亜人だったらどうするつもりだったんだ?
よかったな、俺が本物のメアリーじゃなくて。
「だが、残念だったな。俺たちは無策でこんなことをしていたわけではない!」
「なにっ!?」
何だ!?まだ何かあるのか!?
ここまで続くアドリブの中、俺の頭はもう限界に近かった。これ以上この謎の攻防が続くと、ぼろが出てしまうかもしれない。
「お前はそうやって俺たちを脅しているが、領主様を傷つけることができないんじゃないのか?」
「あぅえっ!?な、何のことかわからないなぁ!!」
真相を言い当てられて動揺した犯人みたいになってしまったが、俺はそれとは逆で、本当に何のことかわからなくて動揺していた。
「領主様は初代から続く、幻惑魔法のエキスパート!お前の魅了など、少し衝撃を与えられただけで領主様は自力で解くことができる!!」
そうか!そういえば森に入るときそんな話をしたようなしないような、したけど脳裏の片隅に置きっぱなしだった!!
「ぅぇ、あ、そ、それはどうかなぁ?」
ここから再び立て直そうとするが、真相を言い当てられて動揺した犯人みたいな言い方しかできない。もはや絶望的な状況だった。
そして、絶体絶命な俺にさらに追い打ちがかけられる。
「いや、もうほとんど解けかかってるんじゃないか?」
「ぐっ…………」
やっぱり、こんな適当なアドリブじゃ無理だったか。いったいどこで間違ってしまったのだろう。そもそもなぜ騎士(リーダー)はアンの魅了が解けかかっているのが分かったのだろうか。そんな決定打になるようなことはしていないはずだが____
「領主様を見てみろ!先ほどから何か頭の中で抵抗しているかのように、うなされているぞ!!」
「「………………」」
俺は後ろにいたためアンの表情を見ることはなかったが、覗き込んで見てみるとちょっと苦しそうにしているように見えなくもない。
実際は何が何だかわからず焦っているだけなのだろうが、冷や汗もかいているし、相手目線ではそういう風に見えるのだろう。
というか、俺もそれにしか見えなくなっちゃった。
「領主様が魅了を解いた時が、お前の命運が尽きるときだ!」
これ以上アンを人質にしてもどうにもならなそうだった。アン人質作戦は失敗。やはり、思い付きで行動するとろくなことにならない。
だが、もうここまで思い付きで突っ走ってしまったのだ。ついでに今思いついた作戦でうまくいくかどうかも試してみるか。
「ふっ、ばれていたか。だが、これには気がつかなかったようだな」
「なにをだ?」
「俺はさっきからずっと仮面越しに、そこの戦えなさそうな爺さんと目を合わせていたんだよ!」
俺はサムさんと面識があることがばれないように、あえて外見の特徴だけで指名し、勢いよく指をさした。
「な、なに!?まずい!!親父!!!」
「え?」
焦る騎士のリーダーと、状況が呑み込めずおろおろしているサムさん。
ああ、あとお二人はご家族だったんですね。やけに顔が似てると思ったら、そういうことだったのか。
「よし、こっちに来い!」
俺はアンを盾にしつつ、サムさんにこちらへ来るように促す。
すると、すぐにいろいろと察してくれたのかサムさんは急に真顔になり、こちらへ向かって歩いてきた。
今までの行動と言い言動と言い少し、いや、かなり不安だったが、サムさんはこういう時しっかりできる人らしい。アドリブの苦手なアンとは大違いで、俺に魅了されて操られている演技が上手かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます