面倒くさい状況
「「「________怪物め」」」
まずい。
いろいろと思考を整理したいところだが、まずはこの場を何とかしてもらわなくてはならない。俺は隣にいるアンに目配せをして、何とかしてもらうよう諭した。
「皆さん、落ち着いてください!この方は______」
「領主様!そいつから離れてください!!そいつは、またあなたを騙そうとしているのです!!」
領主らしく毅然とした振る舞いで騎士たちに説明をしようとしていたが、一瞬で遮られてしまい、どうしましょう、と言いたげな様子で俺に目配せをしてきた。
いや、そんな目で見つめられても。
俺はもう少し頑張れ!という念を込めて見返すが、なぜか、ごめんなさい無理です…と言いたげな諦めの念のこもった視線が返ってきた。
「あれが、かの悪名高き亜人なのですか!?まさか、勇者ミサキ様もそいつに殺されて____」
「あぁ、その可能性が高いだろう。ここは協力して____」
ついに騎士と神官が手を取り合い、協力することになってしまった。
あぁ、どんどん取り返しのつかない方向へ話が進んでいく。
頼む!アン!!何とかしてくれ!!!
俺は泣きそうになりながらアンを見るが、アンは俺から目をそらし、かなり焦った表情で騎士たちを見ていた。
領主であるアンが何とかすれば解決する気がするのだが、なぜここまでアンは焦っているのだろうか。
アンが俺に脅されていると思われているのか、よっぽどアンが信用されていないのか、それとももっと別の理由が______
「神官たちも、そいつと長時間目を合わせるなよ?
あいつは、人を魅了して操ることができるんだからな」
「まさか、領主様が魅了されて_____」
「………………」
なるほど。アンが言っても無駄な理由ってこれか。
これはアンが諦めるのも仕方ないな、うん。あと、ごめんね?信用がないとか一瞬でも思っちゃって。
俺はいまだにこの状況を何とかするべく頭を悩ませているアンに、もういいよ、君は悪くない、という念を込めて温かい視線を送った。
「なるほど。あの仮面越しにも伝わってくるあの美しさは、魅了の影響なのですね。危うく騙されるところでした」
というか、え?魅了?俺知らないんだけど。あの監獄での体験はそういうことだったのか?だったら、そのまま騙されちゃえばよかったのに。
だが、ある意味これはチャンスだ。もし相手の何人かを魅了することができれば、この状況を何とかすることができる。
そう思ったが、どうすれば魅了できるのかが全くわからない。一体どうすれば_____
「奴の右目は魔眼で、詳しい能力はわからないが人を魅了して操ることもできるらしい。
それに、成長して魔眼の真の力を開放しているかもしれない_____」
「わかりました、それは要注意ですね。ですが、そちらは任せてください_____」
「……………………」
なるほど。魅了はあの魔眼本来の力である換魂とは別にある能力の一つだったのか。魂を引き寄せるみたいな、そんな不思議な力があったのかもしれない。
どうしよう、魅了することができなければ、もうどうすることもできな_________いや、待てよ?
この仮面を外して魔眼がないことが分かれば、何とかなるのでは?
俺と同じことを思ったのか、アンがはっとした顔をして俺の方を見てきた。
よし、そうと決まれば________
「ってちょっとまって、これ取れないんだけど」
「え?て、手伝いましょうか?」
「お願い、こっち持って引っ張って」
仮面を外そうとしたものの、なぜか取れる気配のない仮面に悪戦苦闘する俺とアン。
「これ、紐とかなしでどうやってくっついてたのか不思議だったけど、こういうことだったのか」
かぶったら二度と外せないものだと一瞬思ったが、それはあり得ないと考え直す。これを外すことができなかったら、食事をとることができないのだ。何か、外すために必要な条件があるに違いない。アンならもしかしたらそれを知って______
「欠けているので本来の力はありませんが、敵と対峙しているときは外すことができないという、所有者を守る防衛機能が残ったままなのかもしれません」
「…………………」
やっぱり知ってたか。
「もう少し慎重に被るべきだったなぁ」
「も、申し訳ありません。その前に私が言っておけば…………」
「いや、アンは悪くないさ。俺の運が悪いだけ______つまり全部俺が悪いんだよ」
「いえ、やっぱり私が…………!」
「はぁ………アン、そのすぐに自分を責めようとする癖は直した方が______」
あれ?これって盛大なブーメランでは??
「おい!領主様に何をさせようとしている!!領主様を開放しろ!!!」
俺が仮面を外すのをあきらめて棒立ちしているにもかかわらず、アンが必死に仮面を外そうとしているのを見た騎士(リーダー)が、剣を抜いてこちらに近付こうとしてきた。
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