破壊魔法
とはいえ、今この状況からメアリーを油断させるのは簡単だった。
メアリーの逆鱗に触れるようなことをするだけでいいのだから。
「な、な…ぁ………メ、アリー」
「……………なんだ?」
メアリーは、俺がまた何かするのかといぶかしげに問いかけてきた。
残念だったな、メアリー。正解だよ。
「お前、さ…ぁ。俺のこと、運が………悪いとか言ったよ、な………」
「………………」
メアリーは無言で俺の目の前に立った。
どうやら、俺の茶番に付き合ってくれるらしい。
「俺が、こうなっ……たのはそもそも、俺が、死んだせいだ。」
「……………」
「俺があの時、死んで、ここでまた………戦うことを、選んだからこうなったんだよ。だから、こうなったのは、全部………俺のせいなんだ。すべての出来事は、自分の行動に、よって引き…起こされるんだよ」
「…………何が言いたい?」
メアリーは俺の放った言葉に疑問を覚えた様子だが、それと同時にいやな予感を感じているのか、声が震えていた。
「だから、さあ、メアリー。お前がこうなったのも……….全部おま、えのせいなんだって言ってるんだ」
「…………………………おい」
「お前は亜人と人が関わってはいけないとわかってたんだろ?なのに、アンと仲良くなったんだ」
「………………やめろ」
「このままじゃダメだって思いながらも、楽しいからってその関係を捨てきれなかったから」
「………やめろ」
「お前の姉が死んだのは、お前のせいなんじゃないのか?この人殺し_____」
「やめろって言ってんだろうがぁぁぁ!!!」
メアリーが叫ぶと同時に、彼女の体が何倍にも膨れ上がる。いや、これは黒炎が吹きあがったから体が大きくなったように見えたのだろうか。
だが俺はそれを確認する間もなく、メアリーが伸ばしてきた黒炎に包まれた右腕で、顔を鷲掴みにされ、そして_________
「ガっっ…………!?」
視界のほとんどが黒く染まると同時に、後頭部と背中に衝撃が走った。
「!?……!!……………!?」
痛みを感じているのか、熱さを感じているのか。どこが痛いのか、どこを怪我しているのか。
それすら判らなくなるほどの衝撃と激痛。
だが、俺はそれでも黒に染まった視界の隙間から、左目でメアリーを睨み続けていた。
「ぐっっ…………ぁ……」
顔を鷲掴みにされ、壁に叩きつけられる。それだけならよかったのだが、メアリーの左腕はどうやら俺の首を握っているらしい。
壁に叩きつけられたため呼吸がしづらくなっているのかと思ったが、どうやらこの左腕が原因だったようだ。
「テ………………ケr………!!……ッチ…………ダッ………!!!」
メアリーが俺に向かって何かを叫んでいるが、耳鳴りがひどくてほとんど聞こえない。
だが、何も問題はない。ここまで近づくことができたのだから。
「シn…、オm…………オマe…………………」
前世で俺の腹に穴をあけた、“破壊魔法”。それは、発動すれば対象を破壊してしまう、最強にして最弱(・・)の魔法。
「オマエ……、オマe……イn………!」
この魔法が最弱と呼ばれるほどのデメリットはやはり、対象に直接触れなくてはならないという避けることのできないルールがあるためだ。前世では、魔王ですら不意打ち目的で使っていたほどの、戦いに向いていない魔法である。
「オマエs…!………サエイn……バ!!」
だが俺は今、破壊魔法を仮面に使うことのできる距離にいる。
仮面に直接触れることができる。
ただ問題なのは、今の俺では魔力が少なく、仮面を完全に破壊することができないということだ。
それでも、仮面を割ることくらいはできるだろう。
「オmエサエ!!オm…………ナケレb!!!」
だが、頭を押さえつけられて首を絞められている俺では、どう考えてもリーチの関係で手は届かない。なら、どうやって仮面に直接触れるのかというと。
俺は、裸足になっている右足にすべての魔力を込め、右足で仮面を蹴った。
「ッ!?」
右足に感じる激痛と、足裏の何かに触れているというわずかな感触。
その瞬間、俺は破壊魔法を発動する。
「くっ……ははっ………ははっ………………」
呼吸困難と黒炎の痛みで意識が朦朧とする中、この魔法を使う瞬間だけは、なぜか俺の口角は吊り上がっていた。
そして_______
「ぐおあぁぁぁぁぁあああ!!!???」
仮面の下半分が割れ、砕け散った。
「ぐっっ!ごっっ!がっっ!!………………………ぐえっ………」
そしてそれと同時に激しく振り回され、放り投げられる俺。
解放されたはずなのに、いまだに息は苦しく、視界は暗いままだった。
「はぁ……はぁ……はぁ………………」
だめだ。指一本も動かせない。
呼吸を整えるために体勢を変えようとするが、それすらもできない。魔力を大量に失ったことが原因かどうかはわからないが、やけにだるい。だが致命傷を食らった時とは違い、ほんのわずかながら体力が回復しているのを感じていた。
「すぅぅ………はぁぁぁぁ………」
あ、少し体を動かせそうかも。指がほんの少しだけ動かせるような気がする。それに、あまり苦しくなくなってきた。
「ぐっっ…………うぅぅぅうう!!」
メアリーのうなる声が聞こえてくる。どうやら聴覚も回復してきたらしい。いまだにお腹と顔周りの痛みはひどいが、意識がはっきりとしてきたようだ。
その痛みのせいか目をうまく開けることができず視界はぼやけていたが、周りの状況を少し把握することができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます