決着
「ぐっっ…………うぅぅぅうう!!」
メアリーのうなる声が聞こえてくる。どうやら聴覚も回復してきたらしい。いまだにお腹と顔周りの痛みはひどいが、意識がはっきりとしてきたようだ。
その痛みのせいか目をうまく開けることができず視界はぼやけていたが、周りの状況を少し把握することができた。
「あ…………あぁぁぁぁ………」
少し離れたところに、黒い塊がある。あれがメアリーだろう。
全身を覆っていた黒炎は弱々しくなり、今までの勢いは見る影もない。ゆっくりと動くメアリーはどこか苦しそうで、かなりのダメージを食らっているのが分かった。
だがそれとは逆に、痛みはあるものの俺の体は動けるまで回復している。
「あぁぁぁ……あぁっ………………」
俺はゆっくりと体を起こし、呻くメアリーの方へ向かおうとするが、足が動かない。立ち上がるにはもう少し時間が必要なようだ。
「ぁ………あっつ………………」
だがそれ以上にメアリーはダメージを負っているらしく、弱々しくうめくだけで立ち上がることはなく、ゆっくりと地面を這っているだけだった。
それに、どこかメアリーの体が小さくなっているような______
「ぁ………ぁつ………あつい……………!」
まさか、燃えているのか!?
「メ、メアリー……!!今すぐ、そ……その仮面を…………!!」
メアリーに向かって叫ぼうとするが、声がうまく出せない。この声が届いたのかさえ怪しいほど小さい声しか出せなかった。
焦る俺に関係なく、メアリーはゆっくりと地面を這って進んでいく。
メアリーの進む先に目を向けると、気を失っているアンがいた。
「さ、せるかっっっ………!!」
俺はメアリーが何をしようとしているのかを感じ取り、気合で何とか動こうとするが、体はいまだに重く、メアリーと同じく這って進むことしかできない。
何とかしてメアリーよりも先にアンのもとへたどり着かなければ_______いや、待てよ?
よくよく見てみれば、どう考えてもアンにたどり着くよりも先にメアリーが燃えてしまう方が早い。
俺がすべきなのは、アンの方へ向かうのではなく、メアリーのもとへ向かい、あの仮面を外すことだ。今まで人を燃やすことのなかったあの炎がなぜメアリーの身を焼いているのかはわからないが、そこはもう何度目かわからない程の気合で何とかするしかないだろう。
「う、動けっっ…………!!」
もう限界も近い体を気合で動かす。そして、メアリーのもとへと向かっていく。
このままのペースなら、メアリーが致命傷になってしまうほど燃えてしまう前につきそうだ。
「う………うぅん………?」
そう、このままなら。
「……ここは…………メ、アリー…………?」
このまま、何も変わることがなければ、問題はなかったはずだった。
「「…………アン!!」」
アンの目覚めに叫ぶ俺とメアリー。
その叫びは重なっていたが、それぞれの叫びにこもっていた想いは対照的だった。
「…………メ、メアリー!?」
状況が呑み込めずずっと俺の方を向いていたアンは、メアリーの名を叫ぶと同時に、立ち上がり、メアリーの方へと駆け出してしまった。
「アン!そいつのそばに近寄るな!!」
俺は動きを止め、アンに向かって叫んだ。
回復してきた体力での限界の叫び。
この叫びは間違いなくアンに届いたはずだったのに、彼女の心に届くことはなかった。
「あぁ、メアリー!!私は………私はぁ…………!!」
メアリーの体を焼き焦がす黒炎などお構いなしに、メアリーのもとへと飛び込んでいくアン。
そしてメアリーの体を抱きとめると瞬間、弱々しかった復讐の炎(こくえん)はアンの体を包み込み、大きく膨れ上がった。
「私は………あな……、ずっと、言い………、とが…………!!」
それでも、何かを言い続けるアン。
まるで、黒炎に焼かれるのを受け入れるかのように。
まるで、黒炎が熱くないかのように。
まるで_______
?
「燃えて………ない……………?」
俺の疑問を代弁するかのように、メアリーは弱々しくつぶやいた。
黒炎は今までの恨みを晴らすかのように、アンを焼き尽くそうと吹きあがっているのに、アンは燃えるどころか熱さすら感じていないようだった。
それに、俺の場合は触れた装備が燃えていたのに、それすら燃える気配がない。
「………………!!………………!!!」
「なんで…………燃えて………………あぁ、そうか」
黒炎に包まれているアンの声は聞こえなかったが、小さくつぶやくメアリーの声がやけに響いた。
強く抱きしめ何かを叫ぶアンとは対照に、メアリーの体はどんどん小さくなり、それと同時にアンを包む黒炎も小さくなっていく。
「私は………!ずっと、ずっt……………!!!」
「この仮面は本当に、私の………願いを…………………」
そして黒炎は消え、アンと仮面だけがそこに残った。
「ぁ………メ………アリー……………?」
アンの嘆きとともに、仮面がカランと音を立てて地面に落ちた。
アンのメアリーを抱きしめようとしていた腕はむなしく空を切り、仮面とともに地面に手をついてしまっていた。
「…………………」
アンはうつむいたまま何もしゃべらず、ただ俯いているだけだった。
俺はそれに対して何もすることができなかった。俺もアンと同じように、状況を理解すること、立ち上がる体力を回復させること、そしてアンにかける言葉を考えることに集中していたからだ。
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