新たなる物語

「………」

俺って死んだはずだよな?

目を覚ましたら真っ白な空間で倒れていた。不思議に思いつつも体を起こして脇腹を見てみると、傷が綺麗さっぱりなくなっている。そしてなぜか服を着ていなかった。いろいろなことに疑問を抱きつつも、この状況から考えてここは死後の世界なのだろうという結論にたどり着いた。

異世界もあったのだから、死後の世界もあるのはなんとなくわかるのだが、なんか思ってたのと違う。

天国とかって、なんかもっとこう、ファンタジーな感じというか。雲の上みたいなところにあって、天使たちが舞っているような場所だった気がする。俺の知識が間違っているのか、それともこれが異世界式天国というやつなのか。でもせっかくの天国だというのに、これではどうも実感が湧かない。

あれ?そういえば、俺って今天国にいるって決めつけてないか?魔王を倒して世界を救ったという功績がある以上、天国に行けない理由がない。あの世界で悪いことなど一度もしてな………………いとは言い切れないか。流石にあれだけ苦労をしておきながら地獄に落ちるとか勘弁してほしいのだが。

「すまないね、こんなところに来てもらって」

そんなことを考えていると、背後から声をかけられた。その声につられて振り向くとそこには、

「また幼女かよ」

 黒目黒髪の幼女が立っていた。腰まで届くほどの黒髪が、真っ白な空間によく映えている。彼女は幼女神と同じように、髪の色が基調のトーガのようなものを身にまとっていた。なんとなく幼女神と雰囲気が似ている気がする。

「幼女とは失礼な。これでも一応神なんだけどね」

 なるほど、道理で幼女神と似ているわけだ。あれ?でもこの世界に神って二柱もいたっけ?

「いや、君がさっきまでいた世界とは違う世界の神だよ」

 違う世界?というか今、俺の心を読まなかったか?

「私は神だからね、何でもできるんだよ」

 神って心まで読めるのか。幼女神は神らしいことなんて何一つできなかったからな。

あれ?幼女神が何もできなかっただけ??

「ははっ!そんなことないさ。その万能な力もここでしか使えないからね」

「ここでしか?」

「そう、この空間の中だけでね」

 あぁ、それなら幼女神に聞いたことがある。“神域”というやつか。

「そう、ここは神域。誰からの干渉も受け付けない神の住まう絶対領域だよ」

 そんな便利な場所だったのか。たしか、幼女神は自分の世界の住人が心配で、神域を放棄して降りてきたと言っていた。そこから出てこなければ、魔王につかまることなんてなかっただろうに。

「いや、そんなことはないさ。彼女が正しかったんだよ」

 彼女が?

「自分の世界に侵略者が現れたとき、ほとんどの神々は神域に引きこもった。違う動きをしたのは私と彼女の二人だけ。彼女は自らの力を封印し、下界に降りた。そして私はここに引きこもると同時に、創造以外の神権を破棄したんだよ」

 幼女神が神の力を封印したのはわかる。力を奪われ悪用されないようにしたのだろう。だが、神権を放棄って、神の力を捨てたってことなのか?どうしてそんなことを?

「神の力を捨てたのとはちょっと違うけどね。まぁほとんど同じだよ。天使が堕ちると堕天使になるように、神の力も堕ちれば魔力になる。だからこそ、下界の力を強くするために、神の力を堕としたんだ」

 魔力は世界のあらゆる場所に満ち溢れ、あらゆるものを形作っているものだ。大量の魔力を下界に送るというのは、下界そのものを強化することになるので、いい判断と言える。

「そう。それが最善策だったんだ」

 ?失敗したのか?

「最初は成功していたんだけどね。というか、成功するはずだったんだ」

 成功するはずだった、ということは何か不測の事態が起きたってことか。

「君の世界と同じだよ」

 裏切り者か。

「裏切られたと気づくまでに時間がかかってしまってね。ここに引きこもると下界とのつながりが途絶えて、下界の状態を知ることができないんだ。だからこそ、特定の人物から教えてもらっていたんだけど」

 そいつに裏切られたってのか。

「そう。よりにもよって、一番信頼していた教皇に裏切られてしまったんだ」

 俺と同じってそこまでかよ。

「気づいた時には、すでに力のある者たちが迫害される社会が作り上げられてしまったんだ」

 俺が処刑されかけたのに対し迫害だけというのはどこか陰湿なものを感じる。気づかれないようにじわじわ追い詰められていったのだろう。表情を曇らせる幼女神(黒)を見ると本当に大変だったのが伝わってくる。

「こほん、それはそうと、君をここに呼んだ理由だけど………」

 それは俺も気になっていた。なんとなく予想はついているが、一応聞いておきたい。

「うむ。勇者ミサキ、もう一度世界を救ってみる気はないかい?」

 もう一度、ね。

「君は滅びゆく数多の世界の中で唯一、世界を救えた人間なんだ。もう一度世界を救うことだってできるはずだろう?」

 いや、そんな簡単に言うけどな。って、俺だけしか世界を救えなかった?いったいいくつの世界が滅ぼされたんだ?

「君のいた世界と私の世界以外すべて、だよ」

 なんか答えになってない気がするのは気のせいなのだろうか。いやでもやっぱり聞くのは怖いからそれでいいか。

「そのことについてはいつか話すよ」

 …………まじか。

「それで、どうかな?私の世界を救ってくれる気になったかい?」

 いや、だからそんなに軽く言うなって。

「おやおや、報酬が欲しいのかい?」

 いや、報酬目当てに渋っているとかじゃなくて。

「ま、そんな君に一応報酬は用意してあるんだ」

 ほう、一応聞いてみようじゃないか。

「やっぱり報酬が欲しいんじゃないか。そうだね、君が私の世界を救ってくれたあかつきには______」

 幼女神(黒)はためを作ってにやりと笑った。

「なんでも一つ、願いをかなえてあげよう!」

 なるほど、どうやら幼女神(黒)には俺のかなえたい願いとやらに心当たりがあるらしい。

「どうだい?悪い条件じゃないだろう??」

 ドヤ顔で自信満々に胸を張る幼女神(黒)。言っていることは神らしいのに、見た目と仕草が台無しにしてしまっている。ピンクも黒も女神はいろいろと残念なようだった。

「おい、今のは読み捨て(・・・・)ならないんだけど。私が残念だとかどうだとか思ったよね?」

 あ、そうだった。こいつ心が読めるんだった。

「おい、今私のことをこいつって言った?」

 おっと、心が(・・)滑った。

「はぁー、まったく。これじゃあどっちが残念なのかわからないね」

 今のが皮肉ってわからない程か。

「どういうこと??」

 いや、何でもない。

 本気でわからないのか、首をかしげて本気で悩んでいる幼女神(黒)。

 そいうところだよ。

「というより君!『また幼女かよ』くらいしか口に出していないじゃないか。もう少しコミュニケーションというものをだね______」

 いや、俺が口に出す前に答えるのがいけないんじゃないか?

「う……それはそうなんだけど…………」

 ぶつぶつ言いながら拗ねてしまった幼女神(黒)。まずい、幼女神とのやり取りを思い出してついついやりすぎてしまった。ここはさっさと答えてしまうのがいいだろう。

「報酬はともかく、その話、受けてもいいと思っている」

「本当に!?」

黒く澄んでいる瞳を輝かせ、嬉しそうな表情で幼女神はこちらを見てきた。そんな年相応(?)なリアクションを見ると、どうしても幼女神(黒)に幼女神を重ねてしまう。

「とりあえず頑張ってはみるが、魔王を倒せる保証はないぞ。あいつと同等の強さだったらもう倒せないだろうからな」

「あぁ、それなんだけど、教皇を除いて魔王が最低でも3体はいるんだ」

「え、そんなに?ってか最低でも?」

「私がここから下界の様子が分からなくなってから500年以上は経っていてね。私が指示をしていた50年間だけでも魔王が3体に増えていたんだ。流石に500年も経てばもっと増えているんじゃないかな?」

 これは新手の詐欺か何かなのだろうか。言質は取ったから何が何でもやってよね、というやつだ。いくら何でも無理ゲー過ぎる。

「いや、君なら多分すべて倒せるんじゃないかな?」

「多分って言っている時点でもう無理じゃね?」

被告が神という前代未聞の訴訟を起こすしかないのか。あぁ、被告人なのだから被告神か。マジ笑える。

「そ、そんなことないっ。絶対いける!絶対!!」

「慌てて言ってももう遅いだろ」

 まずは生き残ることが第一だな。生きていれば訴えることはできるわけだし。死んだらゾンビになって復活するか、死ぬ前に人を辞めてアンデッドになっておくか………。

「諦めないでほしいんだけど!君ならいけると思った理由はちゃんとあるんだ!!」

「ふーーん、一応聞いておこうじゃないか」

 よし決めた、術式も楽だしアンデッドになろう。

「聞く気ないよね!?私の世界には、君のいた世界と違って“ステータス“、そして”レベル“というものがあるんだよ!!」

 ふーん、たしかゲームでそんな感じのシステムがあったな。俺の記憶によると、ステータスは自分の強さを示すもので、レベルは上がれば上がるほど強くなるものだった気がする。

あれ?レベルを上げれば魔王討伐とか余裕じゃね?

「おぉ、聞いてくれた……!!そう、君のいた世界では魔王が強くなるのを防ぐために、レベル制を排除していたようだけど、私の世界ではあえてそれを採用しているんだ」

「じゃあ魔王も強くなっちゃってるじゃん。魔王ってどれくらいのレベルなんだ?」

「私が最後に確認できた魔王でもLv.500は超えていたかな?」

 あれ、俺の知ってるゲームじゃない。流石に高すぎないか?

「そう、不老不死である妖精族や精霊族、魔族たちでも必要経験値が多すぎてLv.300くらいまでが限界だったはずだよ」

「じゃあどうやってLv.500になれと?アンデッドになっても無理じゃないか」

「1体でも魔王を倒せばLv.500になれると思うけど」

「だから魔王を倒すこと自体無理なんだって」

 そもそもレベル制を採用したこと自体失敗ではないのだろうか。

「そこで、ステータスの出番というわけ。ステータスというのは、自分の能力を示すものなんだけど、正確に言えばその人の権限を示している者なんだ。私の与えた権限で私を超えることはできない。つまり、神の座まで永遠にたどり着けないというわけさ」

「そういう問題じゃなくて___」

「いや、だからこそ君に希望を感じたんだよ」

「………」

「君なら魔力さえあればあれが使えるだろう?確か______

  “神話再臨(イミテーション・ゴッズ)”だっけ?」

「………神はどこまでもお見通しってわけか」

「神だからね」

 またしても残念女神特有のドヤ顔を披露する幼女神(黒)。

 あれ?でも幼女神(黒)は自分の世界のことを知ることはできないと言ってなかったか?ってことはほかの世界のことも知ることができないはず。

「………」

 目を合わせようとしたらものすごい速度で目をそらされたんだが。

「まさかとは思うが幼女神(黒)、俺の記憶を覗いたなんてことはないよな?」

「………えへへ」

「いや、えへへじゃなくて」

「いや、記憶を覗いたと言っても死んでから3日くらい前までしかさかのぼれなかったから安心してほしい」

 そういうわけじゃなくて。

「俺の記憶を覗いたのならわかると思うが、あれは大量の魔力を必要としていて______」

 あれ、幼女神(黒)の世界には大量の魔力があるんだっけ。それにレベルアップで保有する魔力の量も増えるということは。

「そう。恐らくLv.100に到達すれば使えるようになるはずだよ」

「………いける、のか?」

「だから言ったじゃないか。まあ、とりあえず君の体を再構築して下界に送るから、そこでいろいろ試してよ。あっ、そうだ。ギフトという形で1つスキルか称号を授けることができるんだけど、何がいい?本来であれば、それぞれの魂の本質で勝手に獲得するものなんだけど、君は特別だからね。好きなのがあれば言ってほしいんだ」

 スキル?称号?なにそれ??

「ちょっと待て。スキルとか称号とかそこら辺ちゃんと説明してほしいんだけど」

「う~ん、見てもらったほうが早いかもね。頭の中で、ステータスって念じてみてよ。そうすれば出てくるから」

 ステータス?


ミサキ

Lv.0

種族:霊魂

称号:世界を■■者 悲■の勇者

スキル:


 よくわからないまま念じてみると、頭の中に文字が浮かんできた。

「慣れてくれば念じるだけで出てくるんだけど、最初のうちは声に出したほうが___」

「なんか出てきたんだけど」

「え?ほんとだ。普通はそんな簡単にできるものじゃないと思うんだけど」

 ゲームというよりは、あれに似てるな。レベルは視れなかったけど、前の世界で解析魔法を使うとみることのできるやつ。

「そんな高度な魔法まで使えるとは。流石、世界を救っただけはあるね。ちなみに、解析魔法を使うと人や魔物のステータスを確認することができたり、さらに、スキルや称号に解析魔法を使うとそれについて知ることができたりするから。覚えておくといいよ」

 なるほど、便利そうだな。積極的に使っていこう。

「さて、君のステータスは…………………って何その称号?」

「いや、俺もよくわからん。なんか文字が欠けてるけど、幼女神(黒)にはちゃんと見えているのか?」

「私にも文字が欠けて見えるし、どんな効果もわからない。多分、解析魔法でも視ることはできないんじゃないかな………っていうか、かっこ黒まで言うんだね君、ただでさえ幼女神の時点で失礼だというのに」

 なんだ、俺の称号が分からないとか神も大したことないじゃないか。

「ねえ、いくら温厚な私でもそろそろ怒るよ?」

「それより早くスキルと称号の説明を頼む」

「もうやだ泣きたい……………」

「そこはまあ、信頼があるからこその冗談ってことで」

 この一瞬で俺の信頼を得ているのだ。さすが幼女神(黒)。

「そ、それならいいかな……??」

ちなみに俺は騙された恨みを忘れていないからな。

「うっっ、あ、謝らないからね!称号っていうのは、常時発動しているスキルみたいなもので、1つの称号で複数の効果を持つものが多いから、強力なものが多い!スキルはそのまま、習得した技術や魔法のこと!説明終わり!!ほかに質問はないねっっ!!」

「………なんとなくわかった。下界に降りて確認するからもういいや」

「はぁ……やっぱり君は習うより慣れろ派だったか。そう思ったから下界でいろいろ試せばって言ったんだけどね。それで、そろそろどういう能力が欲しいか決めた?」

「あぁ。知らない言葉を理解できるような能力が欲しい」

 前の世界では言葉を覚えるだけでかなり苦労したからな。地球のように使用言語が多すぎて本当に大変だった。

「なるほど、結構苦労していたんだね………。たしか称号で言語理解(ワードマスター)というのがあったはずだから、それを授けておくよ」

「ああ、ありがとう」

「なんか、素直にお礼を言われると恥ずかしいね」

 急に照れだした幼女神(黒)。ちょろすぎだろ。本格的にこの世界が心配になって来たんだが。

「余計なお世話だよ!!」

 文句を言いながらも冗談だとわかっているのか、幼女神(黒)は笑った。

「いろいろと確認も終わったし、もう下界に送ってもいいぞ」

「うん、そうだね………」

先ほどまでの笑顔はどこに行ってしまったのか、幼女神(黒)は急に表情を暗くしてしまった。

「どうした?何か他に俺に隠していることでも?」

「違うよ………いや、違わないのかな。」

 幼女神(黒)はうつむいて黙ってしまった。そんな暗い空気を振り払うためにも励ましの言葉を探してみるが、何も思いつかない。

「ごめんね。私の事情に巻き込んでしまって」

 黙り込んだと思えば急に謝るものだから混乱してしまったが、よくよく考えれば彼女が俺に謝る理由など、俺をだまして下界に送ろうとしたことくらいしか______。

「神話再臨。それは魔力を強制的に神の力に変える、いわば奇跡の力だろう?」

「詳しく説明すると時間がかかるが、そんな感じだ。どんなに相手が強かろうと、神でないものには勝てない」

場合によっては神に勝てるほどだ。

「ちょっと身の危険を感じたんだけど………。」

 それだけ強い技なんだよ、ということをアピールしたかったのだが逆に怯えさせてしまったようだ。

「安心しろ、ここには魔力がないからな」

「まぁ、それなら………。じゃなくてっ!その、君の記憶を覗いたと言ったよね」

「あぁ」

「私が君の記憶を見た限り、君は、かなり短い時間しか神話再臨を使えなかった。それから推測するに、それは人には使えない技なんじゃないかな?」

「………」

「神の力は絶対に人には使えないものであり、だからこそ人は魔力を使っている。だから君はその力を使うために、“少しでも神に近づくために”犠牲を払っているんだよね?」

「………そうだ」

まあ、犠牲を払っているというより払わされていると言った方が正しいんだがな。

「そう、君は自身の記憶を犠牲にすることで神に匹敵するその力を使っているんだろう?私が思うに、犠牲に捧げるならほかにももっと選べたんじゃないかな?でも、君はその中で記憶を選んだ。それは何故だい?もっと別のものを犠牲にしようとは思わなかったのかな?」

「俺の断片的な記憶でよくそこまで考えついたな。だが、俺は犠牲にするものを選べなかったし、正確に言うと記憶だけを犠牲にしているわけじゃない」

「それはどういう………?」

「まあ、記憶を犠牲にしていることに変わりはないんだ。難しくて長い話を聞きたいわけじゃないだろう?」

「………そうだね」

「それに、俺に謝る必要もない。死んだ俺にもう一度チャンスをくれるんだ。逆に感謝したいくらいだよ」

「………それならいいんだ。でも、下界に送る前に謝らなくちゃいけないと思ってね」

「ははっ、幼女神(黒)は優しいな。こんな優しい神に呼ばれて俺は嬉しいよ」

「そっか………。私も嬉しい」

 優しそうに微笑む幼女神(黒)だが、こちらを見つめる黒い瞳は彼女の本心を代弁するかのように静かに揺れていた。

 不滅の存在のくせに、そんな儚げな表情をしないでほしいものだ。

「さて、もう一度世界を救ってきますかね!」

 俺が暗い雰囲気を吹き飛ばすために勢いよく立ち上がると、顔を真っ赤にして幼女神(黒)は顔をそむけてしまった。

 そうか、俺裸だったわ。最初に何も反応しなかったから大丈夫だと思ったのだが、羞恥心はあったらしい。

「い、いきなり立ち上がらないでほしいんだけど………」

 幼女神(黒)は恥ずかしがりながらもチラチラ俺を見ながら文句を言ってきた。

 隠さない俺も大概だが、俺を裸の状態で呼んだ幼女神(黒)も悪いと思う。しょうがなく俺は後ろを向いた。

「世界を救ったらまた会おう」

「うん。勇者ミサキ、君の未来が明るく、幸せなものとなるようにここからずっと祈っているよ」

「おいおい、神が何に祈るってんだよ?」

 ずいぶんとありがたい応援に俺は顔だけ振り返り、笑いながら言葉を返す。

「ふふっ、そうだったね。…………行っていらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 幼女神(黒)が目を閉じ、祈るように胸の前で手を握った。

「君の体を創るのに少し時間がかかる。少しの間眠っていてくれ」

 急に俺の体が輝きだしたことに驚きつつも言葉を返そうとするが、声が出ない。どうやら俺の体がゆっくりと消えているようだった。まるで天国にいるかのような心地よい感覚に身をゆだねながら、思考を放棄する。

 あぁ、ここって天国じゃなかったんだっけ_________

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