コーナー② ニッコリネーム

『ドミソーラージオ』



 太陽光でも集めそうなジングルが流れた後、奏空は待ちきれないといった様子で口を開いた。



「さっ、次のコーナーいくよ!」

「ソラさんや、なんかテンション高くないかね?」

「次のも新コーナーなんだけど、ソラ的には楽しみなコーナーなんだよ」

「そんなにやりたいコーナーがあるのか?」

「もっちろん! という事でリク、よっろしくー!」

「はいはい」



 やる気十分な奏空を見ながらため息混じりに答えた後に俺はボタンを押した。



『ニッコリネーム!』

「はい! それじゃあこのニッコリネームのコーナーを始めよう!」

「ニッコリネーム? ネームって事は何かの名前でも募集してるのか?」



 狂我弥が不思議そうに首を傾げる中、俺はある名前を思い浮かべながら狂我弥に話しかけた。



「狂歌、ソラの学生時代のあだ名って覚えてるか?」

「学生時代……あっ、狂犬ポメラニアン!」

「そう、それ! そのあだ名がどうにも気に食わなくて!」



 奏空が不満そうな顔をしていると、コメント欄にコメントが次々に流れていった。



『きょ、狂犬ポメラニアン……∪・ω・∪』

『ポメラニアンはいいとしても、狂犬は中々だな……』

『それだけ学生時代のソラタソがはっちゃけていたのはわかるな……』

「そうかなあ……」

「端から見れば結構ヤバイ事ばかりしてたんだよ。そんなソラの新しいあだ名をリスナーから募集していたから幾つか拾って紹介していくぞ」

「それにしても、あだ名か……ここのリスナーの事だから結構癖が強いのを送ってくるんじゃないか?」

「それはそれでネタにしちゃうよ! さーて、まずは……」



 奏空はコーナーに送られてきていたおたよりを一つ選んだ。



「これだ! ソラジオネーム、可憐な焼け野原さん。あ、この人は前回もいいおたよりを送ってくれた人だ!」

「あー、連れ去られるならどんな文句がいいかって送ってきた人か」

「そうそう。えーと……ソラさん、リクさん、狂歌先生、こんばんは。はい、こんばんは。ソラさんの新しいあだ名との事ですが、私が提案したいのはぷすかです」

「ぷ、ぷすか?」

「いきなりスゴいのが来たな……」



 中々クセのあるおたよりが初手から来た事に驚く中、奏空は楽しそうに続きを読み始めた。



「ソラさんのお名前の漢字は奏でる空と書きますよね。音楽を奏でるは英語でto play musicで空はskyなのでそれを合わせてぷすかはどうかなと思いました。これからもドミソラジオ頑張ってください。だって」

「理由は中々まともだったな。ぷすか……響きは可愛いよな」

「マジックペンみたいだよね。私の色にみんな染まっちゃえーみたいな」

「危ない危ない……商品名を言ってたら遮らないといけないとこ──」

「ぽす──」

『アレグロ!』

「言うなっての! まあフラグ立てたのは俺だけどさ」



 奏空の自由さを改めて感じていると、当の奏空はニコニコしながら狂我弥に視線を向けた。



「次のおたより、お願いね」

「あ、俺か。えーと……ソラジオネーム、コマヌナガさん。ソラさん、リクさん、狂歌さん、ぺいぺい。ぺ、ぺいぺい……?」

「あのバーコード決済の名前なのかこの人なりの挨拶なのかわからないから流したけど……いいのかな、これ」

「いいと思うよ。それで、コマヌナガさんはどんなあだ名を送ってくれたのかな?」



 奏空はワクワクした様子で続きを促した。



「えっとな、私が考えたのはそらもんです。キャラクターっぽい感じで可愛いと思います。だってさ」

「そらもんかあ……漢字にすると空の門になるのかな?」

「一気に仰々しくなったな、それ。それで、そらもんはどうなんだ?」

「いいと思うよ。ドラえ──」

『フォルテ!』

「おっと、ネコ型ロボットの名前は止めとけ。権利関係とか色々怖いからな」

「私は前の声の方が好きかなあ。元々あった耳をネズミにかじられて無くさないといけなくなった上に泣きすぎて声が枯れたり塗装が剥げてしまったみたいな話があったのも好きだったし」

「あー、そういう過去話みたいなのもあったな、そういえば。まあその話は後でするとして、次のおたよりにいくか」



 俺は送られてきていたおたよりの中から一つ選んで読み始めた。



「ソラジオネーム、夕焼けの雨さん。ソラさん、リクさん、狂歌さん、こんばんは。いつも楽しく聞かせてもらっています。ソラさんの新しいあだ名を募集との事ですが、スイはどうかなと思います。空の英語のスカイのカを無くしただけではありますが、可愛いかなと思って提案させてもらいました。これからも頑張ってください。応援しています。スイ、か……結構シンプルなのが来たな」

「私は中々好きだよ。どんなところもスイスイーと泳いでいけそうだし、すいってとても綺麗な感じの緑色だから、それがあだ名になるなら嬉しいからね」

「そういえば、カワセミの羽の色もそんな感じか」

「そうそう。綺麗だよねえ、あの色。翡翠の翠でもあるから私は中々好きだよ」

「結構好評だな。夕焼けの雨さん、ありがとうございました。さて、もう一つくらい紹介しとくか?」

「そだね。何がいっかな……」



 奏空は送られてきたおたよりを見始め、その中の一つを読み上げ始めた。



「ソラジオネーム……あ、巫女狐さんだ!」

「ゆきやこんこんさんとブックメーカーさんと一緒にユニット組んでる人か」

「うん。ソラさん、リクさん、狂歌さん、こんばんは。ソラさんの新しいあだ名との事ですが、私はクウがいいかなと思いました」

「クウ……ああ、空の漢字を読み方変えた感じか」

「だね。空の部分の読み方を変えただけではありますが、なんだか可愛らしい感じがしていいかなと思いました。雪月花のみんなと一緒にゲストに行ける日を楽しみにしていますね。これからもラジオ頑張ってください。だってさ」

「前の二つに比べて後の二つはよりシンプルな感じだな。クウといえば、なんか河童のキャラにいなかったか?」

「ああ、いるね。河童といえば、結局岩手まで行って見つけられなかったのは悔しかったなあ……」



 それを聞いた時、コメント欄に動きが見えた。



『カッパッパ? ( ゜Θ゜)』

『ソラタソ、座敷わらしだけじゃなく河童も探しに行ってたのか!?』

『妖怪ハンターソラ』

「座敷わらし探しの時に一緒に探してたんだよ。せっかく捕獲許可書まで買ったのにさ」

「そうは言いながらも部屋にまだ飾ってるだろ、あの許可証」

「うん、まだ諦めてないからね。ということで、リスナーに河童がいたら会いに行くから待っててよね!」

「リスナーに河童がいるわけ……いや、ないと言いきれないのがソラか」



 有名なVTuberのリスナーすらいるのだからそれもあり得てしまうと思わせるのが奏空のスゴいところだと思う。



「ふっふっふ、どんなリスナーもどんとこい! 以上、ニッコリネームでした。これからもこのコーナーでは私にピッタリだと思うあだ名を募集してるので色々送ってね~」

「今回の中の一番とかは決めなくていいのか?」

「決めてもいいけど……やっぱり優劣じゃないかなって思うからそういうのはしないかな。それじゃあ次のコーナーに行く前に曲紹介。リク、曲紹介よろしくね」

「はいはい。雪月花で『秋色奏あきいろかなで』」




 秋っぽさを感じさせる和風な音楽が流れ、それに続いて雪月花の三人の綺麗な歌声が聞こえてくる中、俺達はそれに癒されながら次のコーナーの準備を始めた。

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