コーナー① ネイキッドゲスト
『ド・ミソラジオ』
フランス語のようなジングルが流れた後、にこにこ笑う奏空を見ながら俺はボタンを押した。
『ネイキッドゲスト!』
「はい! それでは今回からの新コーナー、ネイキッドゲストを始めてくよ!」
「タイトルだけだとなんかよくわからないけど、簡単に言えばゲストへの質問コーナーだな」
「そういうこと。事前に送ってもらっていた質問をゲストさんにして、ゲストさんを丸裸にしちゃおうってコーナーだよー」
「どんな質問が来てるのか怖いとこだけど、リスナーがどんなことを知りたいのかっていうのも気にはなるな」
「だよね。それじゃあ一つ目の質問いくよー」
奏空はコーナーに送られてきた質問を一つ読み上げ始めた。
「えーと、ソラジオネーム……あ、また双葉音子さんだ」
「なんか今日はよく引くな」
「だねー。ソラさん、リクさん、こんばんは。あと、狂歌も仕方ないからこんばんは。こんばんはー」
「やっぱり呼び捨てのままか……」
「狂歌に質問とのことですが、自分を元素に例えるとなんなのか知りたいです。狂歌、ラジオをドッカンドッカン盛り上げるような回答をよろしく。だってさ」
「……え?」
「げ、元素……?」
狂我弥もそうだが、俺も困惑していた。自分をこれに例えるとなにという質問はよくある。けれど、元素に例えるというのは中々ないはずだ。
「げ、元素か……まあ、水素かな」
「ほう、水素。それは何故?」
「え……い、いても気づかれないから……」
その瞬間、コメント欄にコメントが次々と流れていった。
『狂歌先生……(´இωஇ`)ウルウル』
『あれ……目から大量の汗が……』
『いかん、雨が降ってきたな』
『大佐……』
「コメント欄は置いとくとして、狂歌ってそんなに気づかれないタイプだったか?」
「結構パーティーで気づかれない事が多くてさ……まあ自分から話しかけにいく事もあんまり無いんだけど」
「たしかに前に見かけた時も隅の方で静かにしてたしね。私は何かな……」
奏空は少し考えてから思いついた様子で答えた。
「やっぱり酸素?」
「その理由は?」
「みんなに必要なものだからね。さあ、みんなー! もっと私を吸いたまえー!」
『スーハー! スーハー!』
『つまり、酸素ボンベを買うと実質ソラタソが家に来た事に!?』
『貴様……さては天才か?』
コメント欄が少しカオスな事になる中、奏空はそれをクスクス笑いながら見ていた。
「いやー、今日もコメント欄は愉快だねえ」
「これを愉快と言えるのはお前くらいだよ。さて、次の質問にいくか」
「のっけからよくわからないのだったし、次も怖いな……」
「次は……これか。ソラジオネーム、ちとチートな
「七対子って麻雀の役だっけ?」
狂我弥の質問に俺は頷く。
「同じ牌の組を七つ揃える奴だな。ソラさん、リクさん、狂歌さん、こんばんは。狂歌先生への質問ですが、欲しいチート能力はなんですか? 差し支えなければ教えてください。だってさ」
「チート能力……あんまりチート能力物は好きじゃないけど、強いて言えば血を操る系かな」
「血を操る系かあ。中々厄介なの選ぶね」
「あとは毒かなあ……色々な毒を体内で作ってそれを相手に流し込んだり触れた相手を毒で倒したりとか」
「言葉の毒とか?」
「ソラさん? 俺、そういうイメージ?」
狂我弥の言葉に対して奏空は曖昧に笑って返す。
「さあ、次の行こうかな」
「あれ……なんか流された?」
「狂歌、気にしない方がいいぞ」
「次はね……これだ! ソラジオネーム、雨に打たれた獅子さん。ソラさん、リクさん、狂歌さん、こん──」
『アダージョ!』
「出たな、挨拶の時点でぶっ込んでくる奴……」
「ナイス、リク。狂歌先生、二度目まして。いや、初めましてだっけ? まあどうでもいいか。パーティーでお見かけしました。あのスーツどこで買いましたか? え、手作り!? やばすぎません?! あ、ところで結婚の予定とかありますか? ないですよね、知ってます。新刊いつ出ますか?」
「多い多い! というか、さらっと俺の結婚の未来を潰すな!」
キャラの濃い質問に狂我弥が大声を上げる。
「パーティーでお見かけしましたってことだけど、同業者かへんちゅうしゃちゃんかな?」
「ありそうだな……スーツは格好だけでもちゃんとしていけってウチの編集長に用意された奴で、結婚の予定はいい人が見つかったら。新刊は執筆中です。以上」
「書いてるのがあるのか」
「スランプ気味の中でもなんとか書いてるさ。内容までは流石に言えないけど鋭意制作中」
「ほうほう、それは楽しみだ。ところで狂歌氏?」
「ん、なんだあ?」
「さっき、結婚はいい人がいたらって言ってたけど……実はもういたりするんじゃない?」
「……ふぁ?」
驚きのあまり、狂我弥が変な声を出す。そしてコメント欄もそれに乗じて騒ぎ始めた。
『きょ、狂歌先生にいい人が!? ( Д ) ⊙ ⊙』
『い、いや、狂歌先生にだってEヒートくらい……』
『動揺し過ぎて誤字ってるの草』
『けど、誰だ……狂歌先生のいい人……』
「い、いないって! お、俺にいい人なんて……」
「そうかなあ……実はね、一人だけ心当たりがあったりして♪」
「……え?」
奏空の爆弾発言にコメント欄が更に盛り上がる。
『な、なにぃ!? (; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!!』
『ソラタソが知ってそうな人……』
『同じ作家仲間か……?』
『まさかのブックメーカー……か?』
『言われてみれば、さっきのおたよりもなんか好意的だったよな……』
『おいおい、信憑性増してきたか……?』
コメント欄がザワザワし始める中、狂我弥はポカンとしていた。
「ブックメーカーさんが、俺を……?」
「さて、真実はどうだろね。それは本人に直接聞いてみなよ。連絡先は知ってるでしょ?」
「し、知ってるけど……」
「それならラジオの後に聞いてみたら? ということでブックメーカーさん、後で狂歌先生からお電話がいきますのでお楽しみにー」
『わかりました。楽しみにしています』
「はーい。さて、コーナーはこんなところにしようかなと思うけど、これで狂歌先生がどんな人かわかってくれたかなー?」
それに答える形でコメントが流れていく。
『わかったよ、ソラタソー』
『狂歌先生、実はラブコメの鈍感系主人公だったのか』
『でも、不思議と恨めしく思えないし、たとえその相手がブックメーカーだったとしても狂歌先生ならいいかなって思えるな』
『それな』
『狂歌せんせー、結婚式の時は呼んでくれよー』
「みんな……」
コメント欄の内容に狂我弥は目を潤ませる。普段はふざけ倒しているコメント欄だけど、何だかんだで人の幸せを祝える奴らではあるので俺もそこは安心していた。
奏空もそれがわかっているからこそこういう話題を振っている。それがわかっているから俺も特には止めなかったのだ。
「リク、止めないでくれてありがと」
「お前なら悪いようにはしないと思ったからな。このネイキッドゲストではその回のゲストについての質問を受け付けているので、今後も色々な質問を送ってくれ」
「ふっふっふ、次のゲストは~あなただ! ということで、ネイキッドゲストでした。それじゃあここで一曲。狂歌先生、曲紹介よろしくー」
「え……あ、うん。えっと、作山文花で『ライブラリーハート』」
穏やかなイントロが流れ、静かだけど力強い声が聞こえ始める中、狂我弥はその声を噛み締めるように静かに聞いていた。
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