ふつおた

『ドーミーソーラージオー!』



 スーパーな戦闘民族の必殺技みたいなジングルが流れた後、俺はボタンを押した。



『ふつおた!』

「みんっなー! ふつおたのじっかんだぞー!」

「やっぱりオープニングの後はふつおたなんだな」

「まーねー。まあ狂歌君も知ってると思うけど、色々なふつおたが来るから覚悟しといてね?」

「いざ自分がゲストとして配信する側になると緊張するな。因みに、またふつおたから戻して○○みたいな事を言うのか?」

「そんなとこー。という事でふつおた、戻して不都合なお宝のコーナーです」

「なんだ、不都合なお宝って。残ってたらまずいものでもあるのか?」



 奏空はにこりと笑った。



「リク的にはあるじゃん? 若気の至りで積み上げてきたお宝が」

「あれはお宝って言わないだろ……! 狂歌、お前は取ってたりしないよな……?」

「あー……実はまだ持ってるし、なんだったらたまに聞いてるんだ。お前、クラスメート全員に渡してたから、たぶん当時のクラスメートならほとんどが残してるんじゃないか?」

「マジかよ……」



 それを聞いて今後の同窓会の事を考えて気が重くなっていると、コメント欄が賑わい始めた。



『あれは……名作揃いでしたねえ(´-`).。oO』

『あれは……うん、スゴかったよな』

『コメント欄にもなんだったら飛び火してたのは笑った(火傷を撫でながら)』

『お前も食らっとるやないかーいチーン』

『りっくん、多くの人間が通る道だから、あれらは』

「……そうだな。そう思う事にするよ」



 気を取り直していると、奏空はニコニコしながら話を始めた。



「という事で早速ふつおたを紹介していきまーす」

「今回はどんなのがあるやら……」

「ふつおたも色々クセが強いのがあるからな」

「そこがたのしーんだよ。さてまずは一つ目、これは……おっ、双葉音子さんからだよ」



 その名前を聞いて俺は前回の配信を思い出した。



「ああ、名物リスナーの一人だったか。たしか他リスナー弄りに定評があって、弄られた人はその後に良いことがあったとかなかったとかの」

「そそ。えーと……ソラさん、リクさん、そしてゲストの狂歌、こんばんは。はい、こんばんはー」

「……え? 俺、ナチュラルに呼び捨てされた?」

「ソラさん、リクさん、交際開始本当におめでとうございます。いつかリア凸してお祝いの言葉を伝えます。狂歌は二人の邪魔をしないように配信をしろ。二人のリアル知り合いでソラさんの作家仲間とか羨ましいから爆発四散するように。以上。というおたよりでしたー」



 奏空が笑顔で読み終えると、狂歌は焦った様子で俺達を見回した。



「いやいや! 双葉音子さん、なんでここまで俺に当たりが強いんだ!? 俺、あの人に何かした!?」

「リスナーなのに初回ゲストとして呼ばれた上におたよりに書いてた理由があるからなんだろうけど、ここまで敵意向けられるって中々だな……」

「それだけ羨ましかったんだよ。さて、次々ー」

「そしてこんな簡単に流されるのか、この件……」

「狂歌、これがソラだってわかってるだろ?」

「……そうだったな」



 奏空の自由さに俺達がため息をつく中で奏空は次のふつおたを見つけた。



「次は……あ、ソラジオネーム、ブックメーカーさん」

「ブックメーカー……ああ、あの人か」

「狂歌の知り合いか?」

「俺の知り合いでもあり、ソラの知り合いでもあるな。ほら、前回の配信に巫女狐さんとかゆきやこんこんさんがいたろ? あの人達の同期で俺達にとっては作家仲間なんだ」

「そゆこと。えーと、ソラさん、リクさん、そして狂歌さん。こんばんは。ソラさんとリクさんの交際開始、本当におめでとうございます。狂歌さんもゲストとしての出演、おめでとうございます。羨ましい限りですが、いつか私も同期の二人と一緒に呼ばれるように頑張ろうと思います。もちろん、作家としても。ソラさんはもちろんの事、狂歌さんも作家としての活動を無理せずに頑張ってください。仲間兼一人のファンとして応援しています。だってさ」

「ブックメーカーさん……」



 狂歌は目を潤ませるとやがて鼻をすすり、目に浮かんだ涙を静かに拭った。



「俺さ、アンチの言葉がきっかけでスランプになってて、結構苦しい状態なんだ。書こうとしてもうまくいかないけど、書かないといけないって自分にせっつかれる毎日でブックメーカーさん達にも心配かけてたんだよ」

「そうだったのか……」

『狂歌先生にそんな事が……。゚( ゚இωஇ゚)゚。』

『人気になってくるとアンチって出てくるもんだし、仕方ないものではあるけど、それが原因でスランプになるのは本当にヤバイな』

『狂歌先生が本当に心配になるな……』



 コメント欄が珍しくおとなしくなっていると、狂歌は涙を拭ってからにこりと笑った。



「けど、今のでかなり元気をもらえたよ。何だかんだで担当編集や編集長も心配はしてくれてるし、最近出会ったファンだっている。だから、俺は大丈夫だよ」

「そっか。まあ俺達も相談には乗るから、色々話してくれ。な、ソラ」

「うん、もっちろん! さて、次のふつおたにいこーかな」

「そろそろ新規のリスナーのふつおたを拾いたいよな」

「そうだな。けど、そう簡単にうまくは──」

「……あ、これは新規さんかな?」

「……あるんだよな、これが」



 奏空の相変わらずの引きの強さに苦笑いを浮かべる中、奏空は笑みを浮かべながらふつおたを読み始めた。



「ソラジオネーム、リズムギターがやりたいにゃんこさん」

「また変わったソラジオネームだな……ってリク、どうした? 首なんて傾げて」

「……いや、ウチの妹がアニメの影響でギター、それも担当をリズムギターでやりたいって言っててさ。その上、ネコが本当に好きだからなんかリンクするなと思ってさ」

「えー……ソラお姉さん、リク兄、そして狂歌さん。こんばんは」

「……え?」

「まず、ソラお姉さんとリク兄のお付き合いについては妹として本当に喜ばしいですし、ソラお姉さんが義理のお姉さんになってくれるのは本当に嬉しいです。ソラさん、今後とも兄の事をよろしくお願いします。いやあ、照れちゃうねぇ」



 奏空は嬉しそうにしていたが、このふつおたを送ってきた人物の正体に気づいて俺は頭を抱えた。



「アイツ、本当に何をやってるんだよ……!」

「え、まさか本当に妹さんか?」

「そうだよ。アイツ、ソラの事を本当の姉のように慕ってソラお姉さん呼びしてたし、ソラジオネーム的にも合致する。何より自分で妹って言ってるし……!」

「あははっ、妹ちゃんはノリがいいもんね」

「そういう問題か!」



 能天気な奏空の言葉にツッコミを入れていると、コメント欄が沸き立ち始めた。



『りっくんの妹さんのふつおた!?』

『リズムギター担当の猫、そしてあの声……影響を受けたアニメがだいたいわかったな』

『うんたん! うんたん!』

『それは絶対音感餅のリードギターだろ!』

『餅が誤字ってる件』

『なんかりっくんが参加してから神回続いてないか?』



 コメント欄がわちゃわちゃし始める中、それを見ながら奏空は嬉しそうにしていた。



「ふふっ、妹ちゃんには盛り上げてくれたお礼を後で言わないと」

「俺も後で説教しないとな。アイツ、ソラのラジオとはいえ公共の電波を使って何してんだよ……!」

「まあまあ、祝ってもらってるわけだから。ソラ、ふつおたはまだあるのか?」

「色々あるけど、とりあえずはこんなところかな? ふつおたはまだまだ募集してるのでどしどし送ってねー。という事で、ふつおたのコーナーでした。それじゃあ本日の一曲目にいこうか」

「一曲目……あ、これか」



 俺は気を取り直して曲名を口にしてからそれを流した。そして前奏が流れ、Aメロに入った瞬間、俺は崩れ落ちた。



「アイツ、またソラに音源を提供してるのか……!」

『妹さんの新曲!?』

『ほんときゃわいい声だよな、妹さん。なんか五つ子の次女やってたり舞台の上で歌って踊って奪い合ったりしてそうな声』

『リクお兄さん、妹さんを俺にください!』

「誰がやるか! ああ、もう……!」



 妹が気持ち良さそうに歌う声を聞いたりコメント欄が賑わう光景を見たりしながら俺がどうしたらいいのかという気持ちになる中、奏空はニコニコと笑うだけであり、俺を気遣ってくれるのは狂歌だけだった。

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