コーナー③ フリートーク

『どみらじ!』



 アニメのラジオのタイトルのようなジングルが流れた後、奏空はにこにこしながらコーナーのタイトルを口にした。



「フリートーク!」

「フリートークか。今回ものんびり話すのか?」

「そうしてもいいんだけど……せっかく狂歌君が来てくれてるから、狂歌君について色々聞いていく感じにしようかな」

「お、俺について!?」

「そそ。ほら、今はこうして小説家として頑張ってるけど、どうして書き始めたのかとかあまり話してこなかったんじゃない?」



 奏空の発言にコメント欄が沸き立つ。



『狂歌先生の誕生秘話!? (๑• ₃ั•๑)バブゥ』

『それだと赤ん坊として生まれた時の話になる件』

『けど、この話は興味あるな。狂歌せんせー、話してくれー』

「俺が書き始めたきっかけか……まあ、別に話せない内容じゃないし、話してみるのもいいか」

「楽しみだなあ……さて、それじゃあどうぞー」



 狂我弥は少し緊張した様子で話し始めた。



「俺さ、元々アニメとかゲームが好きで、色々なのを見たりやったりしてきたんだけど、その内に自分の中でも物語を作るようになったんだよ」

「あー、それはあるあるだね。誰かが作った物語に触れてると、自分だったらこのテーマでこう書くかなとかここはこうしようかなとか思うこともあるから」

「俺もそれはあるな。それで、高校三年生になった時にやる事が無かったから、自分でも書いてみようって思って書き始めたのがきっかけかな。最初は趣味でしかなかったし、こうして小説家になれるとも思ってなかった。だけど、今は俺が書いた作品で誰かが救われたらいいなと思うよ。俺の作品にそこまでの力があるかはわからないけどさ」

「狂歌……」



 自分について語る狂歌の表情は自信なさげだったが穏やかであり、本心からそう思っているのがはっきりとわかるものだった。



『狂歌せんせ……(T_T)』

『救われてる、俺達は救われてるよ……!』

『これからも楽しみにしてるからな、狂歌先生!』

「みんな……」

「愛されてるねえ、狂歌君。それじゃあ次は……今後の目標とか聞いちゃおうかな?」

「目標……まあスランプから抜け出す事が最優先だけど、やっぱり彼女も欲しいなあ。俺だってそろそろいい年だし、彼女がいればなあと思う時はあるよ」

「なるほどぉ。まあ彼女云々に関してはまずはブックメーカーさんに聞いてからでもいいし、もしその気がなくとも同じ作家仲間として支え合いながらスランプを抜け出せばいーと思うよ」

「そうだな。まだまだ大変だけど、頑張っていくよ」

「その意気だ、狂歌。さて、次は何かあるか?」



 促すと、奏空は少し考えてから口を開いた。



「じゃあちょっと真面目な話で、書いてる時に大切にしてる事ってあるかな?」

「大切にしてる事……意識してる事って言うなら、読者に情景がよくわかるように書くことかな。それでも読みづらいって言われる時はあるからまだまだ頑張らないといけないけどさ」

「わかりやすく書くのは必要だからね。だから意識して書くのはいいことだよ」

「ただ、中々難しいんだよな。まずは自分が頭の中にそれを思い浮かべていないといけないし、語彙力だって必要になる。そうなると、言葉だって色々知っていないといけないし、後はそれを操るだけの表現力も鍛えないといけない。だから、俺もまだまだなところは多いかな」

「語彙力に表現力……やっぱり作家っていうのは大変なんだな。仕事とはいえ、それをしっかりと鍛えながら活用してる奏空と狂歌は本当にすごいと思うよ」

「そんな事……けど、ありがとうな。それで、他に聞きたいことはあるか?」




 奏空はまた少し考えると、何かを思いついた様子でパンと手を叩いた。



「今後書いてみたいジャンルってあるかな? ほら、新しいジャンルに挑戦したいとか」

「書いてみたいジャンルか……ギャンブル系とか恋愛物かな」

「恋愛物……あ、もしかしてエッ──」

『アンダンテ!』

「はい、アウト。全部が全部そうだと考えるな、ソラ」

「ごめんなさーい」



 舌を出しながら奏空が言う。そんな奏空を見ながら小さくため息をついた後、俺は話の先を促すために狂我弥に視線を向けた。



「それで、ギャンブル系とか恋愛物って事だけど、そういうのに興味はあったのか?」

「ギャンブルに関しては実はちょっとしたエピソードがあってさ、大学生の時に文化祭で小さなカジノをやったんだよ」

「お、それは話してもいい奴?」

「まあ実際の金銭は賭けてないし、その場でしか使えないようなチップとかを使ってたからな。それでさ、どんなもんかと思ってたからちょっとやってみたら、なんと大勝ちしてさ」

「へー、それはすごいね。それじゃあ大儲けだったわけだね」



 奏空が感心する中、狂我弥は肩を落とした。



「けど、オールインとかも決めたからかその後は俺だけ追加チップを求められるようになって、大勝ちも完全にいいもんじゃないって思わされたな。ただ、そういう経験もあってギャンブル系に興味を持ったかな。恋愛物は前から書いてみたいと思ってたジャンルだからだな」

「ほうほう、それじゃあ書くのが苦手なジャンルや展開は?」

「え? ミステリーの推理や調査だけど……」



 その瞬間、コメント欄が加速した。



『狂歌先生!?Σ(゚Д゚ノ)ノ』

『代表作は推理物だろ!?』

『苦手な中で頑張ってくれてたのか……』

『それに対してアンチしてた奴、今ごろすごい顔してそうだな』

「あははっ、たしかにね。けど苦手なのをここまで書けてるなんてほんとにすごいね。このソラさんが頭をナデナデしてあげよう」



 その言葉に狂我弥が驚く。



「え、いいのか?」

「うん。あ、それともおっ──」

『ア・テンポ!』

「ソラさん!?」

「それもアウトだ。まったく……」

「えへへ。それじゃあ最後の質問。書いてて楽しいと思える展開やシーンは?」



 質問に対して狂我弥は少し考えてから答えた。



「やっぱり敵だった奴が改心したり感動できるシーンだったり敵の初登場、あとは胸が熱くなる展開かな」

「おお、少年心をくすぐるねえ。つまり、狂歌君はいつでも心に少年を宿しているわけだ」

「そう……なのかな」

「まあそう言ってもいいんだろうな。さて、これで質問は全部のようだけど、狂我弥はどうだった?」

「中々ない経験だったし、色々話せたからだいぶスッキリもしたし、ほんとに楽しかったよ。こういう質問に答えるのもたまにはいいもんだな」

「だね。さて、これでフリートークは終わりだよ。それじゃあここで一曲。狂歌先生、曲紹介をよろしくね」

「ああ。雪月花で『紅葉傘もみじがさ』」



 曲紹介と同時に和楽器をメインとした優雅なメロディーが流れてくる。その紅葉が降る中を傘を差している光景が浮かぶメロディーを聞きながら俺達は次のコーナーの準備をし始めた。

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