エンディング

『ドミソ~ラジオ~!』



 シンプルめなジングルが流れた後、穏やかなBGMが流れ始めた。



「はい! ここまで二時間続けていたドミソラジオもそろそろ終わりとなります。リクもお疲れ様~」

「ああ、ソラもな。こういう形で二時間もやるっていうのは初めての体験だったから緊張はしたけど、このドミソラジオの雰囲気でいい具合に緊張はほぐれた感じがするかもな」

「それはよかったよ。さて、このドミソラジオではコメントや各コーナーへのおたよりを募集しています。今回はやってないコーナーもあるから、今後も楽しんでもらえると嬉しいな」

「他のコーナーか……それも色々つっこまないといけないものなんだろうな」

「あははっ、まあね。コメント欄のみんなもお疲れ様~」



 奏空が呼び掛けると、コメント欄も次々にそれに答えた。



『おつおつ~( ゚ω^ )ゝ 乙であります!』

『今夜も二時間があっという間だったなあ』

『アシスタントのりっくんの色々な一面も知れたし、本当に今回は神回だよな』

『禿同』

『ソラタソ~アーカイブ残しよろ~』

「うん、オッケー。それにしても、リクには色々照れさせられたりドキドキさせられたりでだいぶ暑かったなあ。冬場はまだいいけど、夏場は熱中症になりそうだよ」

「人を暖房器具みたいに言うな。なんかその内、俺をカイロ代わりにしてきそうだな」



 奏空はそれを聞いてクスクス笑った。



「私はそうしたいけどなあ。リクって体温高めだし、人間カイロリクとして助けてもらおうかな」

「まあその内な。そういえば、こういう配信ってスパチャ読みみたいなのをするもんじゃないのか?」

「ああ、するね。今からするとこだよ。という事で、スパチャの読み上げをしていきまーす」



 奏空はスパチャをくれたリスナーのソラジオネーム、そしてコメントを読み始めた。それを聞きながら俺は奏空の姿をボーッと眺めた。


 ハキハキとソラジオネームやコメントを読むソラの姿はとても楽しそうであり、このラジオ配信を心から楽しんでるのがハッキリとわかるほどだった。



「……よし、こんなもんかな。それじゃあそろそろ締めていこうかな」

「ああ、そうだな」

「みんな、乙ソラ~」

「乙ソラ~」

『乙ソラ~( ゚ω^ )ゝ 乙であります!』

『乙ソラ~!』


 コメント欄に大量の乙ソラ~が流れた後、配信は終わり、奏空は息を大きく吐きながら椅子の背もたれに身体を預けた。



「ふうー……今夜も終わったあ。リク、お疲れ様~」

「ああ、お疲れ。二時間はやっぱり長いもんだな」

「そりゃあね~。でも、みんなも言ってくれたように二時間はあっという間だよ。みんなが応援してくれるし、退屈しないコメントも多いし、それに……今回はリクもいてくれたしね」

「そうか。まあ俺もだいぶ楽しめたかな。飄々としてるお前を何だかんだで照れさせる事も出来たしな」



 それを聞いて奏空は笑っていたが、やがて真剣な顔を浮かべた。



「あのさ、リク」

「ん、なんだ?」

「私達って学生時代から結構長いこと付き合いがあるよね」

「そうだな。これからもそのつもりだけど、それがどうしたんだ?」

「えっと、さ……今回のラジオ中に色々考えたんだけど、私達で付き合ってみるのもありかなと思ってね」

「恋人同士にってことか」

「うん……」



 奏空は俯く。その顔は少し赤く、いつもの奏空らしくはないと思ったが、それでも奏空的には勇気を出して言ってくれたのは間違いなかった。


 それを聞いて俺は考えた。俺の奏空への想いを。俺にとって奏空は異性の友達で悪友で、今回からはパーソナリティーとアシスタントの関係にもなる。だけど、異性の中では奏空が一番仲がいいと言えるし、奏空が彼女になるのはいい事だと思う。そうすれば、より奏空のそばにいて色々してやれるからだ。



「……まあお互いにそろそろ身を固めるのを考えないといけない時期だろうしな。それに、異性の中ではお前の事が一番好きだ」

「リク……」

「付き合おうぜ、俺達。これまでの友達同士から一歩踏み出してさ」

「うん、そうだね」



 俺達は笑い合う。これまでコイツに対してこんな感情を抱く事なんてないと思っていたけどそれは違った。何だかんだで俺は奏空の事が好きだったのだ。コイツに巻き込まれながらもそれをそばで助けたいと思うくらいには。そうして笑い合っていた時、奏空はクスクス笑い始めた。



「なんだかおかしいね。こうして付き合い始めるのも」

「まあ俺達らしくていいんじゃないか? それとももっとムードのあるところでロマンチックな告白でもするか?」

「ううん、これがいい。リクの言う通りで、これが私達らしい形だから。他のみんなもたぶんそう言うんじゃないかな?」

「そうだな。さて、ラジオも無事に終わって俺達の交際も始まった。これを記念してこれからゆっくりと飲むか。ここはお前の家なわけだから、お前がどんな酔い方をしてもすぐに寝かせてやれるしな」

「お、交際初日でリクのお泊まり? きゃあー、なんかされちゃうかも~?」



 奏空がからかうような顔で言うのを見て、俺は身を乗り出して奏空の顎に手を触れた。



「してもいいんだぞ? その場合、明日の朝まで寝かせないからな?」

「ひゅっ……!?」

「……なんてな。ほら、さっさと酒飲もうぜ。ツマミくらいなら作ってやるからさ」

「は、はーい……」



 しおらしくなった奏空を見てクスリと笑った後、俺達は配信部屋から出てそのまま酒盛りをした。そして三時間ほど酒盛りをして奏空が自分の部屋、俺が客間で寝た次の日、俺は少し眠気が残る頭で配信部屋に来た。というのも、昨夜ここに揃って携帯を忘れてしまったのでそれを取りに来たのだ。



「ふあぁ……やっぱり眠いな。アイツ、めっちゃ酔って抱きついて来たし、酒をしっかりと飲んだらすぐ寝るくせに今夜は寝かさないなんて言うから、思わず本気になるとこだったぞ」



 ただ、恋人になったからかアイツがいつもより可愛く見え、アイツが眠らずに同意があったら本当にそうしていたかもしれないくらいに俺も理性が飛びそうではあった。だけど、もし本当にそういう事をするなら、酒を飲んでいない時に真剣にやりたい。それがアイツの恋人になった俺の責務だからだ。



「さて、携帯は……あ、あったあった」



 俺はそれぞれの携帯を手に取った。すると、俺の携帯には狂いながら歌うからの着信が来ており、その時間はラジオが終わって俺達が部屋を出ていこうとした辺りくらいだった。



「なんだ、アイツ。ラジオの感想でも言おうとしてたのかな」



 俺がすぐにかけ直すと、三コールくらい鳴った後に狂いながら歌うが電話に出た。



「もしもし……」

『あっ、もしもし! お前、画面を見てみろ! いや、それよりもSNSか……!?』

「何の話だよ? 画面って……パソコンの画面の事か?」

『そうだよ! お前達、忘れてたんだよ!』

「忘れてた……?」



 狂いながら歌うが言った言葉に俺は驚愕する事となった。



『お前達……配信、切り忘れてたぞ』

「……は!?」



 俺はすぐにパソコンに目を向けた。すると、狂いながら歌うの言葉通りで配信は切れておらず、コメント欄は俺が来た事の喜びや狂いながら歌うの行動に対しての称賛のコメントで溢れていた。



「う、ウソだろ……」

『SNSでも昨夜のラジオの事が話題になってたし、#ドミソラジオで軽い祭りになってる。小説家の月神奏空が配信切り忘れで恋人を作るって感じでさ』

「おいおい……」



 つまり配信後のやり取りもすべてリスナー達に筒抜けだったのだ。それに気づいた瞬間に俺の顔は火がついたように熱くなった。そしてどうしたものかと考えていた時、配信部屋に奏空が入ってきた。



「あれ、リク? どうかした?」

「……ソラ、昨夜のラジオの事だけどさ」

「うん。昨日も盛り上がったね。でも、それがどうしたの?」

「……配信、切り忘れてたらしい」

「……え?」



 奏空は一瞬時が止まったように固まった後、珍しく本気で驚いた声を上げた。



「……えーーっ!?」



 その声は配信部屋に響き渡り、後日大空に響く天使のボイスとしてSNSのトレンドを賑わせたのだった。

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