コーナー⑦ アンガーエージェンシー

『ドミソラジオ~Z!』



 そろそろ怒られそうなジングルが流れた後、奏空はニコニコしながらマイクに話しかけた。



「はい! という事で、本日のドミソラジオもついに最後のコーナーとなりましたー!」

「やっぱり二時間って結構長かったな」

「それをこれまで数年もやってきた私を褒め称えてもいいんだよ?」

「はいはい、スゴいスゴい。それで、最後のコーナーは何なんだ?」

「最後のコーナーは……こちら!」



 奏空は楽しそうにしながらコーナーのタイトルを口にした。



「“アンガーエージェンシー”!」

「怒りの代行……なんか前にそういうのあったよな。壁殴り代行……だっけ?」

「そうだね。このコーナーではリスナーさんがこれまでの人生でこれはと思った怒りのおたよりを送ってもらい、私達がその代わりに怒るコーナーだよ」

「これって怒鳴る感じでいいのか?」

「声を荒らげてもいいし、静かに怒るでもよし。怒り方は私達次第かな」

「なるほどな」

「という事で最初のおたよりを行こうかな」



 奏空はコーナーに寄せられたおたよりを一つ選び、それを読み始めた。



「ソラジオネーム、黒鉄のシャチークさん」

「一瞬かっこよく聞こえるけど、よくよく考えたらブラック企業の社畜って事だよな、たぶん」

「ソラさん、リクさん、こんばんは。私の怒りは転売ヤーについてです。私は趣味でTCGを嗜んでいるのですが、新弾が出る度にそれを狙った転売ヤーも現れ、私達はレアカードを手に入れるのが厳しくなって困っています。是非とも転売ヤーに向けての怒りを私達の代わりにぶつけていただきたいです。よろしくお願いします。だってさ。まずは私が行こうか?」

「そうだな。お前がどんな風に怒るのかは見てみたいな」

「オッケー」



 奏空は頷きながら答えると、息を大きく吸ってから怒りをぶつけ始めた。



「転売ヤー! あなた達の利益のためだけにしっかりとプレイしたいカードゲーマー達のお金をむしり取るのは本当に最低だよ! もちろん、他のジャンルの転売ヤーもそうだけど、そんな姑息な真似をするくらいならまっとうに働いて! 正直そんな姿はカッコ悪いし、見ていて不愉快だからね!」

「おー……そんな感じでいいのか」

「そうだね。ふう、それじゃあ次はリクのターンだよ」

「わかった。えーと……ソラジオネーム、秘密結社サークレットさん。秘密結社なのにこういうのにおたよりを送るのはどうなんだ?」

「秘密結社の人達もたまには送りたいんだよ、きっと」

「ソラさん、リクさん、こんばんは。私の怒りは仲間はずれについてです。私が仲間外れにされているわけではないのですが、友達が元いたグループから仲間外れにされて、とても悲しんでいます。私から見ても友達は何かをしたわけではないですし、そのグループの子達はまるで最初からその子が加わってなかったかのように振る舞ってますし、何もしない先生達をバカにしてるようでした。こういう形で何かをやっても変わらないのはわかっています。けれど、やっぱり悔しいんです。お願いします。私達の代わりに怒りをぶつけてください。それじゃあ俺がやればいいのか」

「そうだけど……」



 奏空は不安そうな顔をしており、その声色にコメント欄も不思議そうにしていた。



『ソラタソ……?(゚_。)?』

『なんか……この感じ、不穏……』

『実はこのおたよりってりっくんに対しては地雷だったとか?』

『ありそう……』

「地雷……とまではいかないけど、ちょっとあるんだよ」



 俺は息を静かに吸った後、それを深く吐いた。それを聞いて奏空が身体をビクリと震わせる中、俺はリスナーの代わりに怒りをぶつけ始めた。



「あのさ、まず俺は仲間外れカッコ悪いとかそのグループが悪いとかそういう事を言う気はない。そんな綺麗事言ったところで何も変わらないし、リスナーもそれはわかってるようだからな。だけど、仲間外れにした奴らにこれだけは言っておく。お前達のやっている事は、ただの子供のやり方でしかないし、大人の真似事でしかない。大人でもグループから誰かを勝手に弾く事はあるからな。だけど、結局お前達は色々な形で大人をバカにしたり下に見たりしてるけど、やってる事はお前達がバカにしてる大人達となんら変わらない。むしろその大人よりもタチ悪い。それなのに、大人である先生をバカにする? 甘えるなよ、クソガキどもが。汚らわしいんだよ、お前達みたいなどうしようもない存在は」

「り、リク……」

『り、りっくんのガチギレこわ……』

『怪人人面疽ですら顔文字無しでコメントするレベルだもんな……』

『静かだけど本気で震え上がるタイプの声じゃんか、これ……』

『ヤバ……震えと鳥肌が止まらない……』



 その場が静まり返った後、俺はふうと息をついてから奏空に話しかけた。



「こんなもんでいいか?」

「あ、うん……大丈夫……」

『ソラタソの声が本気で震えてるし、これは俺達もふざけられないな……』

『正直それだけ怖いのを自分に向けてじゃなくても目の前で見てるわけだからそれは怖いって……』

『俺、りっくんだけは本気で怒らせない事をここに誓うし決めたわ……』

『同じく……』



 コメント欄が怖がる中、俺はまた息をついてからマイクに話しかけた。



「とりあえず、秘密結社サークレットさんとその友達はもうそんなグループの事は忘れて、自分達のグループを作った方が楽しいと思う。また入ろうとしたってどうせ反省しない集団だろうから同じ事になるだけで、最悪何か悪事に巻き込まれる可能性だってあるからな。とりあえず、秘密結社サークレットさんとその友達にこれだけは言っておくよ。何かあった時はまた俺達を頼ってくれ。不思議な言動をするパーソナリティーとかわけのわからないコメントやおたよりを送ってくるリスナーも多いけど、少なくともここに悪人はいないから、よかったらまた頼ってくれ」

「リク……」

『りっくん……! 。゚(゚^ω^゚)゚。』

『え……りっくんが俺達にデレてくれた……?』

『これがアメとムチってやつ……? だとしたら、俺は本気でりっくんに惚れたかもしれん……』

『ガチ恋勢一人追加~』

『惚れる云々はあれとしても、なんかそう言ってもらえるのって嬉しいよな』



 コメント欄がまた賑やかになる中、奏空は少し不安そうな顔で俺を見てきた。



「リク、あのさ……」

「安心しろ、今ので怒るのは終わってるから。まあ久しぶりに思い出して怒りはかなり込み上げたけどさ」

「まあ、そうだよね……」

「とりあえず進行するぞ。このコーナーのおたよりはまだあるのか?」

「えーとね……今日のところはこんなもんだよ。えー……このコーナーに限らず、コーナーへのおたよりは募集しているのでじゃんじゃん送ってください。みんなでこのドミソラジオを盛り上げましょう!」

「盛り上がりすぎてるところもあるけどな」



 それを聞いて奏空は笑みを浮かべる。



「むしろこのくらいがちょうどいいんだよ、このラジオの場合はさ」

「そんなもんか……」

「そんなもん。さて、という事でアンガーエージェンシーのコーナーでした。そしてここで一曲。また雪月花の曲を流そうかな」

「オリジナル曲を何個か持ってるんだな、雪月花の人達って。俺も配信とか観てみようかな」

「喜ぶと思うから観てみてあげて。それでは雪月花で『月光紅葉』」



 また和な雰囲気の曲が流れだし、俺達はしばらくその世界観に酔いしれた。

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