コーナー⑥ クエイクワード
『オイザロシモダ』
またよくわからないジングルが流れた後、奏空は手で顔を扇いでいた。
「ふぅ、あっついあっつい」
「大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。さて、今回のジングルはドミソラジオを逆再生したらこうなるっていうものだったね。一応逆再生したら聞こえるはずだから試してみてねー」
「また変わったジングルを……さて、次のコーナーはなんだ?」
「次はねー……これだよ」
奏空は台本をチラッと見てからマイクに向かって話しかけた。
「“クエイクワード”!」
少しアニメチックなBGMが流れる中、奏空はコーナーの説明を始めた。
「これはリスナーが心を震わされたと感じた言葉を送ってもらうコーナーだよ。リクは何かある?」
「そうだな……まあ全文丸々言うわけにはいかないから簡単に言うけどさ、色々あった主人公に対して年齢不詳の登場人物が世界は思っているよりも広いから肩の力を抜いていけって言葉を掛けるシーンが印象に残ってるし、たしかにそうだなと思わされたよ」
「なるほどぉ……」
「ソラはあるのか?」
「私かぁ……まあそれは終わりごろに話すよ。という事で、リスナーから送られてきたおたよりを拾ってこうかな」
「わかった」
「それじゃあまずは……うん、こちら」
奏空はおたよりを一つ選ぶと、それを静かに読み始めた。
「ソラジオネーム、空に浮かぶ女郎蜘蛛さん」
「風船でもついてるのか、その女郎蜘蛛」
「特性がふゆうかもね。ソラさん、リクさん、こんばんは。私が心を震わされたと感じた言葉は、学生時代の担任の先生から言われたそのままの君で良い、です」
「そのままのってことは、このリスナーは何か変わろうとしたのかな?」
「えーとね……当時、私は友達がおらず、自分を隠してでも他の人に合わせた方がいいのかなと思っていました。そしてそれを決行しようとした前日に担任の先生から呼び出されて、そのままの君で良いと言われました。先生は私が自分を隠して他の人に混じろうとしていたのに気づいていたようで、その後は色々相談にも乗ってくれ、私には無事に友達も出来てとても良い学生生活を送る事が出来ました。へー、この人よかったね」
「そうだな。それにしても、そのままの君で良い、か……なんか自分を認めてもらえるってやっぱり嬉しいよな。世の中には自分を認めてもらいたいって思ってる人は多いだろうし、誰か一人でもあなたはあなただよって言ってあげられたら助かる人は多いと思う」
「……うん、そうだね。それじゃあ次のおたよりかな」
奏空は少し探した後、笑みを浮かべながらおたよりを読み始めた。
「ソラジオネーム、新種の細胞から生まれた息子さん」
「またツッコミが難しそうなソラジオネームだな……」
「新種……息子……あ、もしかしてミュ──」
『コン・フオーコ!』
「また危険そうなところを……」
「えー……ソラさん、リクさん、こんばんは。私がかつて心を震わされたと感じた言葉は、偶然知り合った相手から言われた生きてくれるだけで意味がある、です。私は自分が生まれた意味をずっと探して生きていました。私自身、そんなに恵まれた生まれではないので。そんな中で言われたのがその言葉でした。生きている、それだけで意味があると考えた事はなかったので、自分の価値観を壊されて再構築されたと感じる程の衝撃があり、以降は私の座右の銘となりました。その言葉をかけてくれた相手とは今でも友人で、友人の言葉があるから今の私があるのだと思っています。友人、あの時はありがとう。そしてこれからもよろしく。だってさ。良い話だねぇ」
奏空の言葉に頷きながらも俺は違和感を感じていた。
「……おかしい。いや、おかしくはないんだけどさ、本当は」
「どうしたの?」
「ここまでツッコミどころがあったりわけのわからない言動に振り回されてきたはずなのに、このコーナーに入ってからはソラジオネームしかツッコんでない。その状況に違和感を感じ始めてる俺がおかしいのかな……」
「まあそういうターンもあるって事で」
奏空が笑いながら言うと、コメント欄も少し動いた。
『たしカニV=(° °)=V』
『俺達だってふざけてばかりじゃないんだよ、りっくん』
『そうだそうだ、クリームソーダ』
『おふざけしとるやんけ』
『まあそういうもんだと思ってくれや』
「ま、まあ良いけどさ。それで、このおたよりだけど、生きているだけで意味があるって中々言えない言葉だよな。俺達だって生きている意味を探さないわけではないから、この言葉は結構心に染みてくる感じがするよ」
「だね。さっきの自分を認めてもらえるって話に戻るけど、これも似たような言葉かもね。生きているだけで意味があるって言ってもらえるのは、その人の存在を認めてくれるって事にも繋がるし、リクが言ってたように世の中で自分を認めてほしいと思ってる人達にこれらの言葉が届くと良いなあ」
「ソラ……」
ソラの少し哀しげな顔を見ていた時、ふと俺はある言葉を思い出した。
「“お前はお前らしく生きろ。その方が安心する”」
「え?」
「昔、お前にそんな事を言ったと思ってさ。ほら、まだお前の事をそんなに知らない奴らがお前の陰口を叩いてるのを聞いて、少し落ち込んでたから、そんな事を言ってやったろ?」
「うん、そうだね。結果的にその陰口を叩いてた人達も巻き込んだ出来事があって、その人達とも仲良くなれたから本当によかったよ」
「謝ってもらえたしな。その時のお前の安心した顔、こっちまで安心してたよ」
当時の事を思い出して懐かしんでいると、奏空も懐かしそうな顔をした。
「そりゃあ、流石に無理かなと思ってた人達とも仲良くなれたから。それに、私にとってのクエイクワードはそれなんだよ?」
「え?」
「一番身近なとこにいたリクが私を私として認めてくれた上で、私が私らしく生きていた方が安心するって言ってくれたわけだし、それが今でも心の支えになってるんだよ?」
「そうだったのか……」
「あの言葉がなかったら、今の私は無かったかもしれないしね。だから、今改めてお礼を言わせて。リク、あの時は本当にありがとう。あの言葉、本当に嬉しかったよ」
「お、おう……」
珍しく奏空から素直な感謝を告げられて俺は少し照れてしまった。
『今日も推しが尊いんですけど(´◉ᾥ◉`キレ)』
『ソラリク、てえてえなあ……』
『このCP、ソラリクでもリクソラでも成立する上に綺麗な関係なのが更に良いよな』
『ああ……良いものが見られた……サラサラ』
『ラジオだから聴けただろ……って、もう聴こえてもないか』
『素直なソラタソも照れるりっくんもどちらも楽しめる欲張りセットが無料とか許せない! 金を払わせろ!ゴリァ━━ヽ(o`ω´o)ノ━━ァァ!!』
コメント欄は変わらずカオスだ。けれど、これもまたソラにとっての日常で、リスナー達もソラの事を認めてリスナーをしてくれてる。その事が本当に嬉しかった。
「さて、と……次のおたよりはあるのか?」
「クエイクワードは……今日のところはこんなもんかな。これからもみんなにとってのクエイクワードは募集してるからじゃんじゃん送ってねー」
「みんなでその言葉を共有したいしな。俺だって今回の二つのクエイクワードはかなり心が震えたからさ」
「ふふ、だね。という事で、クエイクワードのコーナーでした。それじゃあここで一曲。リク、曲紹介をよろしくね」
「今度は両親でも妹でもないよな?」
少し警戒しながらタイトルを見ると、歌唱者の名前が雪月花になっていた。
「あれ……雪月花の曲なのか?」
「うん。歌ってみたも出してるけど、オリジナル曲も出てるんだよ」
「なるほどな。それじゃあ雪月花で狂い咲き」
そして和な印象の曲が流れる中で俺とソラは次のコーナーの準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます