コーナー⑤ アフレコロシアム

『レファシジオ!』



 これまでで一番わけがわからないジングルが流れた後、奏空は楽しそうにニコニコした。



「はい、というわけでドミソラ以外の音でジングルをやるとなんか魔法の名前っぽくなりましたー」

「たしかに響きはそれっぽいな」

「ねー、なんかは──」

『ラレンタンド!』

「おっと、危ない」

「えー? 名前を呼んではいけないのはヴォ──」

『スピリトーゾ!』

「どっちにしてもアウトだよ! あまり商業作品のキャラ名とかタイトルを出そうとするな!」



 権利関係云々よりもそういう作品のファンの方が厳しい場合があるからな。いらないトラブルは避けた方が良い。



「ちぇー……まあ良いや。このコーナーではリスナーから送られてきた私達に読んでほしいセリフを読んで、私とリクのどちらがより良い読み方が出来てたかコメントでジャッジしてもらうコーナーでーす」

「ああ、だからコロシアムなのか」

「そういう事だね。それじゃあまずは……私のターン! おたよりをドロー!」

「…………」

「あれ? これは止められるかなと思ってたんだけどなあ」

「……ギリギリセーフにした」



 このくらいなら許されるはずだ。たぶん。



「ふーん。それじゃあ私のおたよりは……こちら! ソラジオネーム、正義の味方 カイ──」

『コン・アニマ!』

「それは止める」

「了解。ソラさん、リクさん、こんばんは。ソラさんに読んでほしいセリフは、ブルースカイブラスト! です。だってさ」

「なんかソラが魔法少女役をやったらありそうな技名だな」

「結構強めな技だよね。魔法少女かあ……私がやったらこんな感じかな?」



 奏空は楽しそうな顔をすると、小さく息を吸い、気持ちを作ってから口を開いた。



「空に響け、シドレミファ! 魔法少女ソラ、参上! くっらえー、ブルースカイブラストー!」

『( ゚Д゚)・∵. グフッ!!』

『お、おのれ……魔法少女ソラ……!』

『ああ、浄化されていく……サラサラ』

『なんて美しい』

「だいぶやられてる奴いるな」

「だねえ。それじゃあ次はリクのターンだよ」

「はいはい」



 俺はおたよりの中から俺宛のセリフを一つ選んだ。



「えー……ソラジオネーム、天堂ふみやさん。あ、これはまだまともだな。ソラさん、リクさん、こんばんは。リクさんに読んでほしいセリフは、お前の事だけを愛してやるよ。永遠に、なです。出来ればソラさんを見ながらお願いします。か……」

「お、リクのイケボでそんなセリフ聞けるの? これは楽しみだねぇ」

「正直気は乗らないけどな。でもやらないわけにもいかないし、とりあえずやるかな」

「ワクワク」



 ソラがワクワクする中、俺は少しだけソラを照れさせたいと思い、ソラの顎に手を触れた。



「お?」

「……お前の事だけを愛してやるよ。永遠に、な」

「お、おぉ……」



 ソラは俺の顔を少しの間見ていられたが、やがて頬を赤くしながら目線をそらした。




『ソラタソが……照れてる……!? (〃∇〃)テレテレ』

『これは……極上のセクシーさだ……!』

「どうした、ソラ? いつもみたいに茶化したり言い返したりしてみろよ?」

『( ゚Д゚)・∵. グフッ!!』

『もう止めて、りっくん! ソラタソとコメント欄のライフはもう0よ!』

「ん、そうか?」



 何だかんだで少し楽しくなってきたが、たしかに満足はしたのでここまでにした。そしてコメント欄を見てみると、そこは混沌と化していた。



『くっ、あぁっ……!』

『おい! こっちも急患がいるぞ!』

『こっちだって今救護中なんだ!』

『りっくん……BIGLOVE……』

『こっちはもう……ダメだ……』

「な、なんだこれ……」



 コメント欄はまるで戦地のようになっており、そんなに俺のセリフに威力があったのかと俺は首を傾げるしかなかった。



「素人のセリフ一つでここまでなるもんか……?」

「り、リクって……なんかアニメのメインキャラみたいな声してるからね……カードゲームとかバスケとかのアニメにいそう……」

「お前も大丈夫か? だいぶガクガクしてるけど……」

「ちょ、ちょっと今のは破壊力が高かったもので……」

『これは……ヤバいって……』

『ラップ歌わせたら更にヤバそう……』

「ん、そんなにうまくないけど、やってみるか?」



 その瞬間、コメント欄が加速した。



『まあまあまあ』

『これ以上死人を増やす気か!』

『やるなよ、絶対にやるなよ! 低めのボイスでラップなんて絶対になるなよ!』

『やってほしそうで草。ただ、やると死人が増えるのでそこは勘弁してほしい』

『りっくんガチ勢が増えちゃうのよ、このままだと!』

「俺のガチ勢って……まあやるなって言うなら、やらないでおくけどさ」



 俺が座り直すと、ソラは胸に手を当てながらふうふうと息を整え始めた。



「はあ、あっつい……」

「そんなにか? というか、他にも読むおたよりはあるんだから、そろそろ判定に行こうぜ?」

「えーとね……これは判定するまでもないかな?」

「ん? それって俺が下手だったって事だよな?」



 すると、またコメント欄が加速した。



『んなわけあるか! りっくんの圧勝じゃい!』

『これはりっくんしか勝たん』

『自分の破壊力に気づいて、りっくん……』

「俺の勝ちか……本当に良いのか? ソラの時もだいぶ好評だったのに」

「いや、これは本当にリクの圧勝だったよ。そして、たぶんこれに勝てるおたよりは今日のところはないかな、あはは……」

「そんなにかな……」



 正直自分ではそうとは思わなかったので、首を傾げるしかなかった。そしてそれだけじゃ足りないかなと思ったので、俺は他のおたよりを探し始めた。



「うーん……」

「えーと、リク? 何をしてるのかな?」

「他のおたよりを探してる。これじゃ尺足りないだろ」

「足りないなら少しお話しようよ。ほら、そんなに色々こめてるとリクも疲れるでしょ?」



 ソラが気遣うように言うが、俺は正直問題なかった。



「このくらいならへっちゃらだよ。学生の時は体育が評定5だったしな」

『体力はバッチリ……ってこと!?』

『ソラタソ、これは覚悟するしかないですぜ』

『俺達は覚悟を決めた』

「あはは……うん、そうだね……」



 ソラが苦笑いをしていたが、俺は気にせずにおたよりを探し、一つを見つけた。



「ソラジオネーム、巫女狐さんだな」

「あ、ゆきやこんこんさんの同期の人だ」

「そうなんだな。えーと……ソラさん、リクさん、こんばんは。リクさんに言ってほしいセリフがあります。それは、お前が俺の全てだ。お前が欲しい。です!」

「……え?」

「出来ればソラさんを見ながらお願いします。だとさ。またお前を見てか……」

「あ、あはは……」



 ソラが諦めたように笑う中、コメント欄がまた加速していた。



『安らかに眠れ、ソラタソ( ˘ᵕ˘ )zz』

『R.I.P』

『これ、巫女狐さんが狙ってやってるだろ』

『巫女狐、結構お茶目だしな』

『自分が言われたいセリフ……の可能性を信じよう』

『だとしても破壊力がヤベェな、これも』



 コメント欄を見た後、俺はまたソラの顎に手を触れた。



「え、えーと……」

「お前が俺の全てだ。お前が欲しい」

「あ、あははは……」



 ソラは笑いながら背もたれに身体を預け、コメント欄はまた加速していた。



『なあ、これなんの時間?』

『リクによるソラタソの処刑タイム』

『ち、秩序が乱れています……!』

『元から乱れている定期』

『これさ、りっくんのガチ恋勢増えね?』

『始めっから増えてるだろ、これは』



 コメント欄に首を傾げながらも時計を見た。すると、予定していた時間通りだったので、コーナーを終わることにした。



「おい、ソラ。コーナー終わるぞ」

「あ、あははは……」

『返事はある。ただしかばねのようだ』

『R.I.P』

『ナムー』

「……だめだな、こりゃ。えーと、みんなすまん。ソラが少し変なので俺だけでコーナー終わるな。という事で、なんか俺の勝ちでアフレコロシアムのコーナーを終わります」



 コーナーの終わりを口にした後、ソラをどうにか起こさないといけない苦労で俺はため息をついた。

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